2000年の CUT 連載書評
巨匠とマルガリータとか、いくつかいい回もあるんだけれど、うーん、なんか小粒で無難なのが多い、かなぁ、この年は。いまいち、本をじっくり読んでいないというか、時間書けてじっくり読んだ大作 Neil Stephenson Cryptonomicon とかが大はずれだったので、そっちでロスが多かった。一年前半の貯金が少なかったのもアレです。
なお、下の月表示は、その号の発売月ね。執筆はその一ヶ月前。表紙の号数は、その翌月。
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2000.01 『ゴミ投資家のための人生設計入門』
すなおにぼくの負け。あんたらの勝ち。名著です。いくつかごまかしがあると思うけれど、それについては文中で触れたし、まあマイナーな点ではある。おそれ入りました。しかしその後出ているシリーズのいろんな本はあまり気に入らないなぁ。まあいいや。
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2000.02 遠藤徹『プラスチックの文化史』
悪い本じゃないんだ。かなりいい本なんだ。だから、後半でこういう言いがかりつけたのは心苦しい面が多々ある。ただ、なんかこう、素直にほめられないような気がして。もう一歩次にいかないとダメな気がする。
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2000.03 松井&梶井『ミクロ経済学:戦略的アプローチ』、William Gibson 『All Tomorrow's Parties』
前回ひねった反動か、今回はえらく素直にほめている。あと、ギブスンはどうしようか、という感じ。ところで今回の原稿はほとんど事実だけれど、多少脚色は入っているので訴えたりしてはいけないよ。掲載時には大叔父になっていたけれど、あとできいたら曾祖父だそうなので、オンラインでは訂正。
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2000.04 ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』
モンゴルへの飛行機の中で書いた、ほぼリアルタイムの記録。結構気に入ってる。空港に、ウイグルの人たちがいっぱいいたのは本当だし、その他いろんなディテールもかなりその通りなのだ。全日空を遅らせたのも。だからモンゴルではしばらく「全日空を止めた男」と呼ばれていたのである。
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2000.05 Ayn Rand 『Atlas Shrugged』
いやぁ、ついに読みました。資本主義はすばらしい! 人はすべて合理的! 理性的で合理的な人々は嫉妬しない! 結構気に入っちゃったのだ。もっともこのおばさん自身は、この自分の哲学通りには生きられずに愛人めぐってすごいけんかを繰り広げたそうなのだけれど。ランドはサウスパークでもネタにされちゃったし(「一晩かけてこんなクズ本をすみからすみまで読んで、字が読めてもこんなのばっかなら、もうオレは二度と本なんか読まないことにしたぞ!」)逆にいえばそれだけ有名なんだよね。
あと邦訳が決まったそうで、とりあえずはおめでとさん。ただしその訳者の人からこのレビューについて文句メールをもらった。正直いって、こんなことを書く人にランドが理解できているとは思えない。不安をこめて加筆。
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2000.06 中村好文『住宅巡礼』エドワード・モース 『日本のすまい・内と外』
久々に建築本。むかしチュミでも感じたんだけれど、どうも建築家の文って浮くのね。なんでだろうか。自信がないせいかなぁ。大学時代はしょっちゅう、手で考えろって言われたけれど、やっぱそれだけじゃあダメなんだと思う。手と文と金銭感覚をつなげることがきちんとできないとダメなんだと思う。それと、みんなブンガクが好きなんだよなー。あれはなぜかしら。モースの文はそういう気取りがぜんぜんなくて、すごくいい。
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2000.07 ソーカル&ブリクモン『「知」の欺瞞』
うーん、思い出話になってしまった。でも、多くの人にとってこの手のポストモダン現代思想って、若気のいたりの甘酸っぱい青春の思い出だったんじゃないかな。それと、なぜ人がああいうものにはまったか、というのは、一部はここで書いたような、マジな動機もあったような気がするものではある。ちなみにぼくも翻訳協力者として名前があがっているけれど、貢献したのは巻末付録のインチキ論文を、なるべくポモちっくになおす部分なのだ。
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2000.08 Diamond Guns, Germs and Steel
いやいやこれは名著です。すごい。そりゃ人類の運命にはある程度は地理的条件や生物分布が関係しているとはみんな思っただろうけれど、ここまで何もかもが規定されていようとは、だれが予想しただろう。あと本書のすごさは、いろんな個別の研究をまとめあげて一本の大きなストーリーにまとめあげたこと。その構想力にある。学問は細分化して云々とは言うけれど、こういうのを読むと、やっぱ総合にもまだまだ力はある、というのが如実に感じられる。
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2000.09 宮崎哲弥 『新世紀の美徳』
うーむ。ここに載せたのは、実際の掲載版をかなり拡張したもの(というか実際はこっちをベースに削っていったんだが)。宮崎哲弥は、たぶんかなり自信をもってこの「新世紀の美徳」を書いているようだけれど、それを真っ向から批判した内容。みんなあきらめられれば苦労しないし、身の程を知れれば楽なんだ。でもそれができないから苦労するんだし、それにみんなが身の程をわきまえないのは教育のせいか? 命はそれ自体がそれだけで尊い、価値がある、というのはかっこいいけど、でもそれを聞いた人にはどうしようもない、ただのお題目ではないか? そしてそれを、お釈迦さんがそう言ったというだけで議論できたつもりでいる宮崎哲弥は、なんかおかしくないか? おっかなくないか? ぼくはそう思う。
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2000.10 『賢いはずのあなたがなぜお金で失敗するのか』
ネタがあまりなくて、手近なものでお手軽にすませた。とはいえ、これはとってもいい本なのだ。100 円得するよりも、100 円損しないことに人はむきになる、とか人はいかに群集心理に流されやすか、とか。これは知ってもマクロにはどうするわけにもいかない部分もあるんだが(どうにかできる部分もある)、でも我が身をふりかえるにはすごく役にたつね。手軽だし、笑って読めて、みんな身に覚えがあっていい本だと思う。
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2000.11 『Taboo: Why Black Athletes Dominate Sports』
これは Nature の書評でも比較的好意的な扱いを受けていたので、まあまともな本であることについてはあまり心配していなかった。で、読んだけれどおもしろいね。あれほど短距離走の優秀な選手の出身地が集中しているとは。でも、正直言って、この本で人種と知性を結びつけるのを必死で避けようとするのにはあまり説得力を感じない。短距離走を有利にする遺伝子があるなら、数学能力を有利にする遺伝子があってなぜ悪い? 空間認識を有利にする遺伝子があってなぜ悪い? 知能というくくりはおおざっぱすぎて役にたたないけれど、細かくしぼればそれを遺伝で説明することは可能になっちゃうんじゃないか?
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2000.12 瀬名秀明『八月の博物誌』
作者が出てきて、物語とはなんだろうと悩む! 自分の書いてる本の登場人物とおはなしする! 自分が書かれたものだと気がついて、自分の作者に語りかける! えーい、やめんかぁっ! だれだい、この手の古くさいピランデルロとか、巽孝之が80年代の「SFの本」の時代に得意げに振り回してたみたいな陳腐なメタフィクションっぽいのを教えこんだヤツは。鈴木光司がそれやって、かなり石投げられてたでしょうに。なお、文藝春秋に書いた書評と読み比べると楽しいでしょう。ジュブナイル小説部分がよいだけに……
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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>