Valid XHTML 1.1! ゴミ投資家のための人生設計入門 連載第?回

完敗。

――『ゴミ投資家のための人生設計入門』はすごいです。

(『CUT』2000 年 02 月)

山形浩生



 (シリーズ恒例、香港のジェニファー先生がSRLの来日を期に東京にやってまいりましたので、またお話をうかがっております。)

JC:おっす。いやぁ、SRLはサンフランシスコで見逃して、すっげえくやしかったんだ。まあ仕事は相変わらず不景気だから(そろそろ香港ひきはらおうかなぁ。最近は、こうして日本の不良債権あさりばっか)、こういう機会にでも景気つけないとね。
 で、なに、またあの「海外投資なんとか」の連中が続きを出したの? へぇ、まったく懲りない連中だなぁ。こんどは何買えって?

――いや、まあデイトレーダーがどうしたとかいうのはあったけど、今回は『ゴミ投資家のための人生設計入門』(メディアワークス)。

JC:JC:ほぅ。「人生設計」、なの? なんかこのタイトル、微妙に聞き覚えが……

――そりゃそうだ。このシリーズの前作を批評したときの、おまえのせりふそのまんまだもの。「本当に必要なのは『ゴミ投資家のための生活設計入門』だ」って言ったろう。いや、生活どころか人生だから、向こうが一枚上手だぁ。

JC:ううっ。で、中身はなんなの?

――これもおまえの言ったとおり(というか、かれらが昔言ってたとおり)、不動産と生命保険。それにからんで、健保と年金と日本の財政に、さらには教育までやってる。いや、おれたちが言った以上の中身をクリアしてる。これはすごいよ。

JC:……

――前作が出てからほとんど間髪を入れずに出てるし、たぶんこないだのおれたちの書評が出た頃には、もうかなり書き上がってたんじゃないかなあ。前回の書評のラストは向こうの思うつぼにズッポリはまったって感じだろうね。前作の「波動」みたいなおまぬけもない(いや、あるな。この「はじめに」の、「英語の母語はヘブライ語」だの「すべてのことばの起源は祝詞」だの、日本語は主語がないから云々ってのはなんじゃい)。この『人生設計入門』はシリーズ空前の(そしておそらくは絶後の)最高傑作だと思う。

JC:中身的にはどうなのよ。まともなこと書いてる? 不動産って、一応あんたも不動産が専門じゃないの。マクロな話しかできないけど。

――かなりまとも。相当まとも。というか、これくらいまともな本はなかった。借家法の問題(まあこないだ定期借家法が通ってこれも長期的には変わる可能性もあるけど)、中古住宅流通の問題、それに伴う上物の価値の問題。土建屋重視の新築優遇融資の問題。競売物件の落とし穴。はい、おっしゃる通り。立派。
 ただ、借家のレベルが低いんなら(低いのです)、自分で不動産を購入して自分で建てる効用は、レベルの低い借家よりかなり高いはず。だから本書でやってる賃貸と所有の比較は、所有に不利すぎる気もするけど。ついでに、ほかの投資物件との比較でも、不動産以外で5倍ののレバレッジがきかせられるものなんてないんだから、そういう比較はずるい。さらに、収益還元法は別にグローバルスタンダードじゃないよ。どこへ行ってもいろいろある鑑定法の一つにすぎないよ。でも、マイナーな点だな。さらにここでやってる、心理的な分析とか、笑っちゃうくらい言えてる。

JC:不動産以外は?

――うーん、おれは保険はあんまりきちんと見ていないけど、たぶんこの通りでしょう。海外保険の話は知らないからパスだけれど、こういう実地に調べる話では、このシリーズははずしたことない。さらに年金や財政の問題は、うん、ポイントうまくついてる。さらにえらいのは、そしてそれをちゃんと人生設計の中でどう考えるかまでおさえてること。完敗です。

JC:……うーむ。いやわかった。たしかにそうね。オンライン株ばくちの話があまりに安易なので見くびってたけど、もともとこの人たちはそういうことをまともに考えられる人だったわね。はい、認めましょう。向こうの勝ち。こっちの負け。おそれいりました。
 ふむふむ、たしかに勉強になるな。え、海外の保険を買うって、こんな制限があるの? たいへんねぇ、日本は。それとこの教育の話はいいな。

――うんうん。しかし、こんだけ調べられて、なんでオンライン株式ばくちなんかに相変わらず手を出したがるかな、この人たち。さらにまたこの巻末で、変なヤツがオプションやれのなんのとあおってるし。はやくアメリカ株式市場がクラッシュして、こいつらみんな首くくんないかな。

JC:あとは、どうなんだろうね。この本の最後のほう(と最初)に出てくる自由、という話。パーマネントトラベラーになって、日本を半分捨てればたしかに自由度は高くなる。でも自分が社会とどう関わっていくのか、という話を一方ではどうしても考えざるを得ないでしょうね。多くの人は国(というか自分の社会)を捨てられないというのはこの巻末の部分にも書いてあるとおり。で、たまに日本に帰ってくるだけで、どこまで社会的なポジションは保てるのか。

 とはいえ、それはこのシリーズに期待すべき内容ではないわね。というか、それは各人が自分で自分の人生をどうしたいか考えなきゃならないことで、だれも(宗教団体でもない限り)それを教えることなんかできない。それができない人はそもそもこの本に書いてあるようなことを考えるだけ無駄だものね。ただ、ここまでできるんなら、『ゴミ投資家のための社会生活入門』とか……いや、まあそれはいくらなんでも無理だな。

 でも正直いって、このシリーズをチンケな利殖目当ての貧乏人しか読まないというのは、とってももったいないと思わない? ここに書いてあるようなことは、もっともっと日本人どもにいっぱい読ませて、考えさせないと。

――おれ、それやってるもん。もう7冊ほど買って、見込みのあるやつに配ってる(こうやって書評書いて宣伝したりもするし)。たしかにかれらのやってるWebの掲示板見ると、了見のせまいケチな連中が、自分で考えもせずに「何が儲かりますか」みたいな書き込みばっかしてて、このシリーズ(のなかのいいやつ)のメッセージってあんまりきちんと伝わってないもんね。
 あと、もう一歩ファイナンスの知識があると、わかりやすいだろうな。これだけで現在価値とか還元価格を理解するのはつらいから、もうちときちんとした説明があると……

JC:それはテメーの仕事だろうが、バカ野郎。さっさとファイナンス本書いてやれよ。まあこの先このシリーズ続刊をふつうの人が読む必要はあまりないだろうけれど、この本だけはきちんと読んでみてほしいな。結論だけ見ようとしないで、中身まできちんと考えて、エクセルの収支もまわしてほしいな。その上で、この本で説明されているような人生をどう思うか、よーく考えてみてほしいなぁ。シリーズ最初の「ビッグバン入門」のときにも言ったけど、たぶんみんながそれをやれば、日本もかなり変わるはずじゃないかな(それにそうしたら、あたしの買いあさってる物件価格もあがってくれてうれしいし……)。じゃ、またね(これから代々木でSRLじゃ)!

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