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: 追記、ずっとのちに : 一冊目 : 追記――   目次

六月十五日

これなるは汝の旧友ルイふたたび(或は、世に通りよく、ルイスまたまた)素晴しく新しきニュースをば、汝ら苦悩と狭心症に苦しめる者みなに、良心に悩まされ神に害されたる者に、心身相関症の者またただに聖痕ある者に奉らん。さような脱腸帯は捨てつべし! なんとなれば、mon semblable, mon frère わがはらからよ、事象のまなかには疼ける空虚よりほか何もなければ、アレルヤ! 而して疼きすらも最早なく、なくて、虚は幸いなり、日が長きが如くに。こは、かの古え人らが所有したりし秘密にして、こはわれらを、汝をも身をも解き放つ真理なり。あしたに三たび、夜みたび、かく唱えよ。神は存せず、いまだかつて存したることなく、未来にもなかるべし、とこしえに、アーメン。

否むかや、アダムの裔、ルイ一世? ならばわれをして委ねさしめよ、汝を汝みずからの詩、理解する能わずと汝の称せし詩に。われは理解す。偶像は空なり。彼の言説、詐術なり。バールは存せず、わが友よ、ただ内なる囁き手が汝のことばを〈彼〉に帰するのみ。 神人同形論かきあつめたるなり。否めよ! 汝が篤信のすべてならず、また才知も、いざや! 

そして、おお! おお! かの愛おしき、じゃれつく汝が詩ども、汝がごっこのゴッド父ちゃんの黄金の尻なめるあれらは。何たる糞ぞ、さあらずや? 幾年も、また幾とせも冗らに積重なりゆくは、あたかもかの鳥(アウグスチヌスのにはあらずや?)山を動かさんとして小石ひとつずつ運び、その度ごとに千とせ経て、最後の一粒うつし終えたるとき永劫の一転瞬も過ぎてあらざりきというに似て。されど汝は、雀の屍よ、山に挑みもせざりたり。スイスの高原――さてそのあとの続篇は? ヴァチカンの尿かや?

はて、聞こゆるぞな、遠き方より、汝が穏やかなる抗弁が。愚者、胸の裡にて唱う、神は存せずと。

そして賢者は声に出していう。





T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日