連載第29 回
山形浩生=文
hiyori13@mailhost.net
下谷二助=イラストレーション
瀧本広子=題字

今月の喝!

「福田和也およびそれを××とする……」

 保守派と称する連中は、ホントに人材不足みたい。保守派若手の注目株らしき福田和也の『内でも外でもバカばかり』(祥伝社)ってのを見ると、あわれみを禁じ得ない。無根拠なナショナリズム。経済の話をするのに「数学がわからないから」経済学の勉強しないという怠慢。ジャーナリストや現場の人に話を聞いた?現場がそんなにえらけりゃ、バブルも起きなかったし、アジア通貨危機だってなかったよ。そして結局はお役人に面倒みてもらおうという、あきれた自堕落な無責任。

 まずナショナリズム。「活力に溢れ、美意識と高い戦略性をもっていたはずの日本人」?んなわけないじゃん。人は環境でいくらでも変わるんだもん。支那帝国や、オスマントルコ帝国の末裔たちをごらんよ。日本の危機だ窮地だって騒ぐけど、停滞すれば?経済大国でなくても、アジア地域の小国でもいいじゃん。オランダやデンマークをごらんよ。どうしてこうプライドばっか高いの?そして経済学の基礎の無知。自由貿易は失業者を増やす、ブロック経済で自由貿易を守る――なにこれ?アメリカは赤字になったらドルを刷って丸くおさめる?インフレはどーすんだよ。西部邁も経済屋なんだから、腐った推薦文なんか書いてないで講義してやれよ。で、その間違った基礎の上に議論重ねるから、もうガタガタ。平気でアメリカ陰謀説をもちだしてくるんだ。

 経済について「感覚からの発言」とか言いつつ、その感覚とやらも完全お留守。大店法緩和で近隣商店街がつぶれた?ウソつけ。商店街が衰退しだしたのは大店法緩和なんかよりずっと前じゃん。思い出してよ、近所の酒屋や薬屋さん、オモチャ屋、電気屋がコンビニに取って代わられた時期を。これって単純な経営努力の問題なのね。努力した商店街はちゃんと残ってる。目の前で起きてることをちゃんと見てよ。借り物の(間違った)理屈なんかひけらかさないでさ。

 そしてお説教が「日本は戦略を」「だれ某に学べ」「官は民に範をたれよ」とくる。規制緩和はダメ、大蔵省護送船団方式は維持せよ。みんな官僚の仕事だわな。「官は民に甘えず、たからず」、高邁な「戦略を持った」行政指導はしても癒着は御法度云々、どうしてお役人にばっか、こんな聖人君子みたいな働きを要求すんの?官僚なんてオレと大学の宴会でバカ騒ぎしてた、あの連中じゃん。ボロ事務所に劣悪な労働環境のなか、安月給でこき使われてるんだよ。かわいそうに。連中にもっと働けと言うわけ?

 だいたい官が民よりも賢いわけじゃない。「戦略をもて」と説教するのは簡単だけど、問題はその戦略の中身でしょうに。下手な戦略なら、ないほうがマシなのよ。計画経済の末路をご存知?きわめつけに笑えるのが、福田和也の唯一の具体的な処方箋ってのが「戦略思考をつけるためにサッカーを見ろ」なんだぜ。やれやれ。無知で、自分で思考も詰めてないくせに、プライドだけは高くて、週刊誌の受け売りと昔話と説教が大好き――こういう人を世の中では「オヤヂ」とゆーんだけどね。宮崎さん、こんな人があなたと並ぶ保守反動論客の若手第一人者だとはねえ。いやおかわいそうに。

山形浩生:1964年生まれ。本業は地域開発関連調査と評価。翻訳と雑文書きでも有名。

近況:こういうおかわいそうな人々救済に経済学の本を訳した。サッカー三昧で戦略思考ばりばりの柳下毅一郎曰く「山形翻訳の最高傑作」。いずれ出るので啓蒙されてね。


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