Silicon Snake Oil(Doubleday刊)
クリフォード・ストール
ISBN 0-385-41993-7
山形浩生
悪い本ではないし、内容もまちがってはいない。が、爽快感には欠ける本だ。インターネットとか、デジタル/バーチャルなんとかいう流行りことばをふりまわし、やれ世界が変わるの文化が変わるの人類が変わるのとはしゃぐバカな連中にうんざりしている読者諸賢であれば、本書には深くうなずくだろう。だが一方で、新しい発見もないだろう。あなたが日々のネット・サーフィングで感じていることが、そのまま書かれているだけなのだから。
ネットはS/N比が低すぎて、欲しい情報を得るのは困難。うんうん。ニュースグループやBBSの多くは、対人関係に問題のあるおたくどものマスターベーション場。うん、やっぱそう思うよね。重要なのは「意味」であって、ビットではかれるデータではない。そう、山形とかいう三文物書きも同じ事を書いてた。バーチャル人体解剖は、本物の人体解剖の深みには届かない。今の「バーチャル」は、本物の現実のディテールを再現しきれない。御意、御意。電子ブックは、紙の本の足下にもおよばない。大ファイルをモデムで送るより、郵便でディスクを送ったほうがずっと安上がりで信頼度も高い。ビジネスに必要な信頼レベルは、ネット上のどんな認証システムでも確立しきれない。いやまったく。
まったくその通り。バカな部下が、くだらん大前研一なんかの流行便乗本を読みかじって「インターネット!」とかわめきだしたら、即刻この本をたたきつけて黙らせればいい。そういう水準の人にとっては、非常に啓蒙的で実用的な書物だろう。でもあなたは「そういう水準」なんかではない。ワイアード読者のあなたは、とうにそんなレベルを超えているはずだ。世間のインターネット・ブームとやらの底の浅さも知っているし、そこでの議論が笑止なのも熟知している。しかし、なにか新しいものが「ネット」で生まれつつあるのも、一方で感じているはずなのだ。それの正体が知りたいからこそ、われわれは(クズと半ば知りつつ)インターネット本を続々と手に取る。
著者もそれを感じている。その「感じ」がかれの筆致を鈍らせている。ネットは便利だ。すごい。でも・・・そういうとまどいが、本書をイマイチ歯切れの悪いものにしている。足場をおさえなおすという意味ではとってもよい本だし、流し読みして、己の正しさを再確認するにもいい。でも、ぼくが(そしてあなたが)本当に読みたいのは、この次のレベルの本だ。
近況:哀れなバカが多すぎるので、検閲と差別と階級制を公式に復活させるべきだ。そのほうがバカも気楽で幸せだと思う。
ワイアード Indexへ戻る YAMAGATA Hiroo トップへ戻る