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阿波踊りの換喩的シュールレアリズムに基づく生物学的必然

山形浩生



 過去二〇年間ポストモダニズム最先端の活動をくり広げ、今なお聴衆を恐怖と法悦にのたうちまわらせずにはおかない思想家兼音楽家兼パフォーマ兼マルチメディア芸術家兼奇形集団レジデンツの紹介などいまさら必要ないはずで、本書『踊る目玉に見る目玉』に描かれた、かれらの活動の高度な形而上学的心象について多言を弄する必要も本来なく、本書の存在を知らなかったうかつな読者は、おのれの粗忽ぶりを呪って髪の毛をひきむしりつつ、即座に店員を捕まえ「レジデンツ!」と吠えるべきであり、ただならぬ気配を察知したその店員に多少なりとも職業意識があらましかば、彼/彼女はただちに本書のもとへとあなたをいざない、そのページを開いたあなたの目を見つめかえす文章と写真は、きわめて正確かどうか不明の大量情報であなたをうちのめし、一見生硬でぎこちない印象の訳文すら、実は原文の思想的内面の表層性とあいまって、類希なる律動感をもたらし、結果としてあれを超越し、これを昇華し、なんであれ深い洞察を与えることに成功した本書の邦題が、東洋の阿波踊りの歌詞の換喩的シュールレアリズムであると気づいた読者は、レジデンツがその商標的意匠に、同じく東洋の某動画のキャラクターを引用したという、研究者の間では常識だが本書ではレイシズム的陰謀で黙殺された逸話を想起し、この選択一つで東洋/西洋をアウフヘーベンした全地球的存在として空間を超越したレジデンツの深淵を感得して戦慄を禁じ得ず、さらに巻末の写真に写った人類の間に繁殖しつつある小レジデンツたちの姿から、レジデンツはすでに歴史をも超越した共時的存在であることも判明し、そこに添えられた「ザ・レジデンツは間違いなく、我々より生き延びるであろう」という勝ち誇った宣言を読むわれら人類は素直に敗北を悟り、本書をレジに持参せねばならないのは、もはや生物学的必然としか呼びようがないのである。

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Valid XHTML 1.0!YAMAGATA Hiroo<hiyori13@alum.mit.edu>