We sex, but we also Linux.

(English Version)

山形浩生
 

 Linuxとは何か――コンピュータ関係者で、この説明がいまさら必要なヤツはもぐりである。業界規格準拠のフルスペックのUNIXが、そこらの(486の!)PCでさくさく動く驚異の代物。それがしかもソースコードまでついてフリーウェア! またLinuxはOSの核となるカーネルで、システムとして使うにはフリーソフトウェア財団の各種GNUソフトが必要となる。だからGNU/Linuxシステムという言い方もする。

 もとはフィンランドの学生リーヌス・トーヴァルズのお勉強用OS。それがネット上で公開され、ボランティアのハッカーたちがよってたかって、いつのまにかそこらの市販システムを蹴倒すおそるべき完成度となった。技術的には決してバリバリの最先端ではなく(だから技術おたく系ハッカーにはあげあしをとられる)、実用重視でなかば意図的にトレンドを無視し、平然と古くさい部分を残す。いまだにフロッピー一枚におさまるコンパクトさ。リスタートのかけかたを忘れるとまで言われる、不死身に近い堅牢さ。バグやセキュリティホールへの、おそるべき対応のはやさ。それを可能にする、われわれユーザ/ボランティア層の厚さと親切さ。さらに限りなくゼロに近い導入コスト。このためユーザ数は急速に拡大しており、世界で百万とも二百万ともいわれる。

 ただしユーザ数の話は要注意である。各種記事でよくあるまちがいは、通常商品の市場シェア概念を安易に適用することだ。ユーザ数云々は、その格好の落とし穴となる。これではことの本質を完全に見誤まる。

 たとえばよくある愚問「Linuxはウィンドウズ95/に勝てるか?」……なに、その勝つとか負けるとか。OSの性能なら、すでに文句なしのノックアウト勝ち。でもこれって、市場シェアの大小の話がしたいんでしょ? ところが無料でばらまかれるLinuxは、そもそも「出荷数」がわからんので「シェア」という概念が成立しない。ざまーみろ。

 だいたい、そんなのどーでもいーぢゃん。われわれは「シェア」を上げようとしたことなんかない。マーケティングなんか考えたこともないし、「戦略」もない(企業じゃあるめーし、だれがつくるんだ、そんなもん)。Linuxを使ってみたいなら、喜んで手伝ったげる。インストールCDだって、どんどんあげちゃう。自分が苦労したところは文書化したりして、次の人の負担を減らしてやろうではないの。そうこうするうちに、ここまで人が増えていた。いぇーい。
 でも、われわれは何と競争しているわけじゃない。同じくPCで動くUNIXのFreeBSDやOpenBSDとは、似たもの同士でお家自慢もするけどさ。Linuxユーザの多くは、両刀遣いどころかOSを3つ4つと平気で併用する。できが悪いなぁと顔をしかめつつも、MS製品だって(必要なら)使う。排他的使用に基づくシェア概念は、そもそもあてはまらんの。資本主義的競争モデルでは動いてないもん。逆にきくけど、勝ったらどうなのさ? どうしてメーカでもないくせに、こういうバカな業界アナリストまがいの丘目節穴コメントをしたがるね。そんな心配、ビル・ゲイツに任しとけって。たかがコンピュータ。好きに使えばぁ?

 「おたく向けのマニアOSで、決して主流にはなれない」。はあはあ、それで? われわれがいつ、主流になりたいと言いましたね? 自分で用があるから使ってるだけよ。PCのワークステーション並の潜在力をフルに活かしたい人もいる。落ちてばかりのマックやウィンドウズにうんざりの人もいる。Linuxをウィンドウズ95そっくりにするfvwm95で、バイトの女の子を困らせたいだけの人もいる(オレだ)。この連中に、主流だの傍流だのが、なんか意味を持つとでも思うの? サーバが落ちずに動いてくれれば、傍流結構毛だらけよ。

 「Linuxは生き残れるか?」 これまた市場シェア概念に基づく愚問。そもそもLinuxは落ちないから、止まって死ぬ機会はまずない。サーバでLinuxを使ってる人は、当分はそのままだろう。その意味では、ええ生き残りますな。それに商業ソフトは、売り上げが下がると開発費が途絶えて死ぬ。でもLinuxは、好き者がいれば開発が続くのだ。ソースコード公開だから、一度死んでも忘れた頃に開発が再開するかもしれない。「生き残れるか」? 正しい質問は「おれはLinuxを生き続けさせたいか」なのである。生き続けさせたければ、自分でコードを書こう。文書をつくろう。マックみたいに、死ぬのを端でながめてる必要はないのだ。

 つまりわれわれはぜんぜんちがうのよ。そもそもの成立も、発展も、コミュニティの広がり方も、向上方法も、めざすものも、考え方も。 We are something GNU. 古典的な産業モデルや社会モデルはあてはまらないし、生半可なインセンティブモデルも役にはたつまい。われわれはいい加減である。Linuxの読み方すらちゃんと決めずにすましてるくらいいい加減なのだ。われわれを説明する理論はまだない。だが/そしてわれわれは増殖する。どうやって? うん、そこはそれ、We sex, but we also Linux(セックスしつつ、リヌックスもしちゃうしぃ)、みたいな。
 
 
 

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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@malhost.net)