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Hackers On Planet Earth(世にはばかるハッカーたち)

――世界ハッカー会議HOPE参加記

山形浩生


 「うん、こんなところに来ているコたちは、まったく人畜無害だよ」とその男は言いきった。「でも本当にたちの悪い連中だって確実にいるからね。それにここの様子を銀行の重役に見せて『ほら、ハッカーってのはこんなウヨウヨいるんですよ』とでも言えば、予算を取りやすいじゃないか」

 8月13、14日にニューヨークで開かれた世界ハッカー会議 HOPE (Hackers On Planet Earth) の受付は、写真入り名札をつくるシステムの不調で大混乱となっていた。退屈しのぎに隣の男と話が始まり、やがて出てきたのが上のせりふだった。

 某銀行のシステム・セキュリティ担当者だという。なぜこんな会議に?「なんとなく雰囲気が見たかったからかな。でも・・・ほれ、あそこのヒゲのおっさんがいるだろう。かれはハッカーを集めてシステム・セキュリティの会社をつくってて、ここには優秀なハッカーのリクルートに来てるんだ」なるほど、身元や名前を隠したがる参加者の多い中、その親父は派手に名刺を配り歩いていた。

 この会議はアメリカのハッカー雑誌『2600』主催。会場は各種のパネルやセミナー、ハッカー映画上映、そして端末/ネットワークと機器展示即売会場にわかれ、千人以上の参加者を得て大盛況。パネルのテーマは錠前屋講座から「ソーシャル・エンジニアリング」(各種情報を、話術で聞き出す手口のすべて)、「ハッカー雑誌の歴史」「ポケベル・ハッキング講座」「国民IDカード法案」「『悪い』ハッカー対処法」などさまざまで、アメリカのハッカー界の幅の広さをうかがわせていた。

 現在アメリカのハッカー界は、裏口つき暗号化方式 Clipper の義務づけに対する大反対運動が展開されたり、あるいはハッカー界の名士ファイバー・オプティックの投獄への抗議などで政治的な気運が高まっている。しかし、この会議で意外だったのは、そうした面への極端な無関心だった。携帯電話のハッキングや地下鉄プリペイド・カードのセキュリティなどの技術パネルには参加者が押し寄せ、一方でハッカーの法的立場やドイツのChaosやオランダのHacTicによるヨーロッパ・ハッカー事情(非常に政治色が濃い)などのパネルはガラガラ。話をしてみても、多くのハッカーは単に技術的なパズルとしてハッキングをしたいだけ。EFFなどの主張する情報の平等だのネットワークの自由だのといったお題目は欝陶しいだけなのだ。あるパネラーの「EFF? Bullshit!」という発言がそれを象徴していた。

 会期中は参加者全員に UNIX のアカウントが与えられ、仮設ホストのハッキングが奨励されていた。ハッカーの手口を熟知した万全のセキュリティをかいくぐり、あるグループは二度にわたりrootへの侵入を果たして技術力を見せつけてくれた。閉会式でその手口を得意げに披露したかれらに、受付でのリクルートおじさんが早速アプローチする姿が見られた。こうして徐々にプロ化が進み、ハッカー撃退策も着実に強化される。素人ハッカーにとっての敷居は高くなる一方だ。が、「なーに、いつでも何かしら遊ぶものは見つかるよ。Hackers will never die! The spirit lives on!」と参加者の一人は力強く語る。

 ぼくも、そうであってほしいな、とは思う。が、断言できるだけの自信はない。     (終)

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