連載 回
連載 回要約： アメリカの大統領選は、まがりなりにも政策が中心となっているのに、日本では政治家もだれも、みんな不倫したとかしないとか。そんなの個人の活動であって、政治化を選ぶにあたり何も関係ないと思う。アメリカ大統領選がうらやましい。たとえ出ているのがトランプであっても。
すでにこれが出る頃には勝負がついているはずだが、執筆時点で世界でいちばんおもしろいニュースといえば、何をおいてもアメリカ大統領予備選だ。もともと、ブッシュさんちのぼんぼんと、マダムクリントンの、古参勢力同士のつまらない一騎打ちになるかと思ったら、民主党も共和党もダークホースがいきなり躍進。オバマ大統領の反動で、みんなもっと安定路線を目指すかと思ったら……
そしてその争いも、共和党はこれまで議論のすりかえでごまかしつつやってきた排外的な移民政策や医療保険阻止などの貧困者いじめを、トランプが公然と言い始めたもので否定できずにうろたえているのが自縄自縛で楽しい。民主党は、クリントンが八年前のオバマに続いてまたも予想外の泡沫候補に足をすくわれているのが、ちっとも可哀想と思えずザマミロと思えてしまうのが彼女の人望ではある。ひどい言い方になってしまうけれど、なんか彼女は、アメリカをよくしようと思って立候補しているというより、とにかくなんでもいいから大統領になりたいオーラをバリバリに放っていて、そのためには票が稼げそうなら定見なしになんでもやっちゃいそうな印象があるんだよねー。
でもそういった純粋に人間ウォッチ的な楽しみ以外のきちんとした部分でも、政策面でも格差問題が争点としてきわめて大きいことがクローズアップされている。そしてそれを解消すると述べるサンダース候補の経済政策が現実的かどうかについて、経済学者も真剣な議論をしている。選挙が実際の政治的選択とつながっていて、うらやましい限り。
大統領選なんて一時のお祭りとくさす声もあるけれど、そこで国民的にこういう政策論争を真面目にできるというのは、本当にすごい。それに対して海のこちらがわで話題になっているのは……馬鹿な不倫騒動だ。芸能人が不倫した、政治家が不倫した——それがどうかしましたか？
不倫はそもそも私的な活動でしかない。ゴシップとしてそれに関心を持つ人がいるのはわかる。でもそれはあくまでゴシップだ。それが何やら仕事上の処分につながるというのは、何をもって正当化されるのか？業務上のミスがあったわけではないのに、何やら世間的にミソがついだだけで、なぜ突き上げを食らわねばならないのか？
芸能人はまだいい（というよりどうでもいいのだが）。が、政治家は？ ぼくは不倫した議員が辞職するという理屈がまったくわからない。議員は基本的に、法律を決める代表として選挙民から選ばれた存在だ。不倫すると、その政治的な対応力が何か変わるのか？そんなことはない。そしてあったにしても、ぼくはよほどの経歴その他の偽装があるなど判断を大きく変える条件でもない限り、選挙民はそういう人間を選んでしまった自分の一票の責任を負うべきだと思っている。
さらに、それに関して所属政党だの派閥だのが出てきて謝罪するとは何事？所属議員の不倫について謝罪するということは、それについて何らかの責任があるということだし、それはつまり、政党が所属議員の不倫という私的な行状まで監視しろということになる。そんなことは実質的に不可能なんだし、したがってそんな責任はないし、よってそもそも謝罪だのコメントだのする必要もない。私的な問題なんだから、夫と妻（せいぜいその親族）が決めればいいことで、オレたちの知ったことではない、と言えばいいのに。
関係ない連中がヘコヘコするから、騒ぐ方は（しかも最も無責任な連中が）つけあがってさらに騒ぎ、それを受けて定見のないメディアがそれを煽り、それにおたついて、みんな公私の境目をわきまえない謝罪だの辞職だのが出てくる。その弊害はいろいろあるけれど、特に正気の人間はそれにうんざりして、ますます政治にも、さらにメディアにも興味を失う——ぼくはそれが一番の損失だと思っているのだけれど。その点、アメリカはうらやましいなあ、ということで、いまの下馬評だとトランプ対クリントンになるというのが常識的な見解だけど、ぼくはサンダースがひっくり返すんじゃないかと思ってるんだが、どうなっていますやら。
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