要約: アニメやマンガ振興のために海賊版サイトを取り締まるそうだが、管理や処罰を厳しくしてもコンテンツ産業が栄えるわけではないというのは、音楽業界の経験からも十分にわかること。ヘタな締め付けはかえって市場を殺すし、日本のアニメDVDとか、外国版に比べて信じられないぼったくり価格。そういった産業構造を改善するべきでは?
経済産業省が、製作会社や出版社その他と協力して、八月からマンガやアニメの違法アップロードをしている海賊版サイトの大規模な駆除に乗り出すとのこと。ふーん、と思う一方で、ああまたか、という印象はどうしてもぬぐえない。
というのも、これは音楽業界がたどってきた道だからだ。そしてそれは、業界として利益のあった道ではなかった。むしろ、音楽業界がだんだんジリ貧になり、自滅していった道だからだ。
音楽業界は昔から、売上げがのびないのは海賊版が出回っているからだと主張し続け、特にインターネットが出てきてからは、アメリカではダウンロードした人々に対する執拗ですさまじい訴訟を展開した。そしてそれを理由にナップスターをつぶし、人がネット上に自分の手持ちCDをアップロードできるようにするだけのサービスさえつぶす。日本でもダウンロードの処罰化はおろか、馬鹿高いCDの国内盤をみんながさけて輸入盤ですませているのを見て、輸入盤を禁止しろなどということも言い出す。
でもそうやって、ネット上の海賊版を取り締まって何かいいことがあったか? CD売上げの低下にはまったく歯止めがかかっていない。その他各種の音楽販売も同様だ。むしろCDが売れないのは、そもそも買いたいような曲がないからで、CDはもはや学芸会アイドルの握手券付録でしかない状況で、そんな売り方をするからこそ音楽が好きな人はますますCDなど買わなくなり、すると業界は音楽を改善するよりはさらに音楽に金をかけず、付録商法に走るようになり……
海賊版のせいで売上げが落ちるとミュージシャンが可哀想だ、と音楽業界の連中は言うんだけれど、でもその音楽業界は、ミュージシャンにもっとお金がまわるような仕組みを作ろうとは一向にしない。早い話が、印税率上げてあげればいいだけなのに。
そして音楽の場合、むしろ無料で聴く機会が減っているが故に、その後少しは買おうという人々すら減ってしまっている。ぼくたち自身が音楽を(少しは)買うようになったのだって、ラジオで聴き、友だちにダビングしてもらい、といった無料で音楽を聴ける場がたくさんあったからだ。でもそれが廃れれば、知らない音楽に触れて、それを買おうという人もジリ貧になってしまう。
おそらく、アニメやマンガでも似たようなことになるだろう。まずそもそも、海賊版サイトをいろいろ取り締まったところで、それはいたちごっこに終わるだろう。だがもし終わらなければ、おそらくそれはかえってアニメ業界やマンガ業界の首を絞めることになるんじゃないか。
いますでにアニメなどで、DVDの国内盤セットはとんでもないぼったくり価格がついている。類似のセットの正規外国版は、はるかに安い。その分、日本版は変なおまけとか特典とかショボいものはついているけれど、何倍もの価格差を正当化できるほどのものではない。でもこの調子で進むと、だんだんコンテンツは高いおまけの付属品でしかないという、CDなどと同じ道をたどりつつあるように思う。そしてこの海賊版サイトが排除できたらどうなるのか?
このニュースを報じたNHKの記事では、こうした中国の違法サイトによる被害だけでも五六〇〇億円、という計算が出ていた。業界の人々は、もしそうした違法サイトがなくなれば、その五六〇〇億円がまるまる自分の懐に入るような錯覚を抱いている。
でも通常、こうした「被害」というのは、もしそういうサイトから無料でダウンロードした人が、全員定価でそのDVDなりCDなりを買っていたら、という非現実的な想定を置いて、単純にかけ算しただけだ。実際には、海賊版サイトからダウンロードした人々の大半は、それがなければそもそもその作品に関心を持つことさえなかったかもしれない。最初のうちは、たとえば『ワンピース』や『コナン』の続きを見たい人が少しお金を出して正規の有料サイトにいくかもしれないけれど、その次はたぶんない。
そしてそれがなくなったら、クールジャパンで秋葉原にやってくる外国のアニメファンとかも、おそらくは激減するんじゃないか。そしてその間に、アニメ自体の状況は改善されるだろうか? いますでに、日本のアニメ製作現場はひどい状態だ。そして『アナと雪の女王』みたいな外国アニメがだんだん市場を奪う中で、本当に世界的に価値あるコンテンツを造り続けられるのか? アニメ業界はたぶんそっちのほうを本気で心配しなければいけないのに……
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