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パティ・スミス(仕掛かり版)

(スタジオボイス、Girl Power 特集 1994年あたり)

山形浩生編訳



 たとえば詩集『バベル』(邦訳思潮社)などからうかがえるパティ・スミスの姿は、文学かぶれの頭でっかちの、観念の世界に引きこもっているほうが落ちつける文学少女のそれである。幼い頃は虚弱体質で病弱で、肺炎や結核を次々に患い、家の中で父親の本棚の本ばかり

 彼女の見せるかっこよさは、ガールパワーと言う時に連想されるような、ちょっと傍若無人で格好優先なんて批判にも臆するところのない「文句あっか、バーカ」という感じのパワーではない。やっぱ彼女は、何事も非常に知的に構築してゆく もし真の「ガールパワー」勢などどいうものがあるとすれば、彼女たちから見たパティ・スミスは(たとえばPJハーヴェイなんかと同様に)いささかきまじめすぎて重苦しいということになるだろう。その場のノリだけで何かをつくってしまうとか、勢いだけでなにかやってしまうとか、とりあえず可愛いじゃん、かっこいいじゃん、おもしろいじゃん、というだけで何かを評価してしまえるとか、そういう軽快さはパティ・スミスには決定的に欠けている。

 ただ、一つだけ

 ある時、彼女が雑誌に依頼されてローリング・ストーンズのインタビューにでかけたという(別の人の説では、『ローリングストーンズ』誌の依頼でだれぞにインタビューに出かけたということになっている。が、その子細はここでは重要ではない)。彼女が雑誌がらみの仕事をしていたのは、ミュージシャンになる前の頃の話なので、おそらく70年代冒頭のことだろう。で、他の雑誌やメディアが持ち時間をめいっぱい使い、ここぞとばかりストーンズをつまらない質問責めにしている中で、パティ・スミスはおもむろにあらわれ、前置きなしに質問を一つだけ発し、その答えが返ってくると即座に機材をまとめて帰ってしまった――

 この話自体は結構有名で、ぼくも何カ所かで読んだし、サンプル数が少なくのでアレだけれど、その方面に詳しそうな人々のうち2割くらいは知っているようだから、完全なでっちあげということはなさそうで、たぶんそれに類することが実際にあったのだろう。が、おもしろいことに、その時彼女が発した質問そのものについては、まったくと言っていいくらい知られていない。エピソードの雰囲気から見て、その一つの質問に対してストーンズが30分間しゃべり続けた、という感じではない。こちらも一言。向こうも一言。その一瞬後にパティ・スミスは立ち上がり、あっけにとられたストーンズの面々を残したまま風のように去ってゆく――いったい彼女の発したその「たった一つの質問」とはいったい何だったのだろう。それが知りたい一方で、たぶんどうせ大したことではなかったにちがいない、という気がしなくもない。重要なのは、中身ではなくそのスタイル。自分のペースで、自分のききたいことだけきき、後先かまわずに立ち去る。もっともパティ・スミスの場合、その場の気分でそうしたというよりは、事前にその演出効果をいっしょうけんめい考えた挙げ句、

(この文を書くにあたっては、高村立子氏の協力を得た。感謝する。ありがとう)

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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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