嘘まみれの嫌煙キャンペーンを、

大学人はどう考えるのか?

(初出:大学内パンフレット「ヘルシーキャンパス21」2005年9月16日発行)

                               室井尚

 

はじめに

 

 日本における最近の嫌煙運動は明らかに行き過ぎであると思われます。前回の「ヘルシーキャンパス21」に掲載された、嫌煙団体が発表している合成写真や誇張された数字の羅列は、少なくとも真理追究の場としての大学には全くふさわしくないと思います。浅野牧重氏による人工的に捏造された「きれいな肺とタバコによって汚れた肺」が小学生用の副読本やいろいろなパンフレットに転載されていますが、これが作為的に捏造されたものであることはあまり知られていません(生体の肺はけっしてあんな風に黒くはなりません)。せめて我々大学の研究者くらいは、世の中のメディアで流通するでたらめな情報に惑わされず、一次データや正確な科学的検証に基づく議論をしていかなくてはならないのではないでしょうか。

 「悪いもの」「汚いもの」「役に立たないもの」「不快なもの」はすべて排除してもいいという考え方には文明の病理が色濃く感じられます。「健康増進法」という、名前を口にするだけでも恥ずかしくなる悪法を作り出した日本は、歴史に汚点を残したと言えます。こうした法制化のルーツが、ナチスドイツにあり、その結果ユダヤ人や精神障害者虐殺を招いたということを思い返す必要があると思います。ここでは、「タバコが肺ガンなどの原因になる」「受動喫煙は非喫煙者の健康を損ねる」という二点に絞って、嫌煙キャンペーンの「嘘」を暴いていきたいと思います。

 

 

1. タバコは肺ガンの原因なのだろうか?

 

 肺ガン死亡者の増加が喫煙人口の増加と比例しており、喫煙とガン死亡者の増加が相関していると言われています。けれども、過去35年間で肺ガンの死亡者数が約10倍になったという数字やグラフは老人人口の増加と、CTなどの医療器具の発達によるガンの発見確率の増加を全く考慮にいれていません。厚生省自身が発表している「人口動態統計」における「年齢調整訂正死亡率」を見ても、肺ガンの増加はほんの僅かであり、ガン死亡率は少しも増えていないことがわかります(図1:省略)。

 そもそも、喫煙者人口が劇的に減少している英米などの外国でも、肺ガンの発生率は全く変化せずむしろ増加しています。先進工業国で最も喫煙率の高い日本が肺ガンの発生率が最も低く、平均寿命世界一ということを考えてみても、喫煙とガン死亡率の因果関係はきわめて疑わしいのです。自動車の排気ガスや飲酒がガンを引き起こすという疫学的データはあっても、タバコの煙だけでガンが発生するという実験結果は、実は世界で一例たりとも存在しません。恣意的に喫煙者人口の増大と単純な肺ガン死亡者総数のグラフが重ね合わせられているだけで、「タバコ=肺ガン」説は科学的には全く根拠がないのです。そして、タバコが子宮体ガン、乳ガンの発生率を逆に低めるというデータや、アルツハイマー病にかかる確率が非喫煙者の1/3であるという事実、ラットなどの実験で迷路学習能が上昇するなどといった、嫌煙派に都合の悪いデータはなぜか隠されています。

 どうしてなのでしょうか? それはこれらが嫌煙派の人々によって恣意的に解釈されたデータであり、科学的な検証よりも感情的な議論ばかりがなされてきたからです。たとえば、肺ガンによる死亡率は人口百万人あたり数千人です。ということは、百人あたりに換算すると僅か十分の何人という計算になります。その中で非喫煙者と喫煙者の肺ガン発生率の違いの統計的な比率、たとえば、1:1.3というような比率のもつ有意性が統計学的には「喫煙者が肺ガンにかかる確率は非喫煙者の5倍から10倍」というように翻訳されているのです。つまり、百人中0.1人と0.13人の差を「多い」と思うか、「たいしたことない」と思うかという「解釈の違い」の中にしか、「タバコの害」の根拠は存在していないのです。

 また、喫煙者がタバコを吸うのをやめても、この数字は全く減少しないことも知られています。つまり、禁煙しても、「肺ガンにかかりやすい」という確率は全く下がらないし、何の意味もないことになります。肺ガンとタバコの因果関係が疑わしいということに気づいた嫌煙派側は最近になって急に、気管支炎、心臓病、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の危険性を強調する方向にシフトしてきています。しかし、これらの病気とタバコの因果関係も全く証明などされておりません。特に最近まで100%喫煙が原因とされてきたCOPDが非喫煙者で多く発生していることからも、このタバコ=病因説は一層怪しくなってきています。

 タバコの煙は喉や気管を刺激し炎症を起こしますから、慢性閉塞性呼吸障害や虚血性心疾患の人はタバコをやめた方がいいのはもちろんです。しかし、それ以外にタバコが健康に深刻な影響を及ぼすということは、科学的・医学的には全く「証明」などされていないというのが真実なのです(肺ガンは5倍、咽頭ガンは50倍、喫煙者の妻のガン死亡率は2倍といった衝撃的なデータを発表した元国立がんセンターの平山雄博士の論文のいい加減さとデータのいかがわしさについては多数の指摘があります)。

 

 

2. タバコは発ガン物質の塊か?

 

 それでもタバコの害を信じる人たちは、不確かな疫学的データに重ね合わせて、有害な「発ガン物質」の存在を引き合いに出してくることが多くなっています。確かに、タバコの成分中1千万分の5グラム前後のいわゆる「発ガン物質」が含まれていることは知られています。しかし、焼肉や焼き魚の焦げが「発ガン物質」とされているように 、ラットなどへの強制摂取実験によって発ガン性があるといわれている「発ガン物質」は他にも数多く知られており、お茶、コーヒー、みそ、醤油、ソース、ワインなど多くの食物にはタバコよりももっと多様で大量の「発ガン物質」が含まれているのです。その上、タバコの中にはその逆に発ガンを抑える「発ガン抑制物質」も数多く含まれていますが、そのことに触れられることはあまりありません。我々が飲んでいる水道水には1グラムあたり約百万分の5グラムの発ガン物質「トリハロメタン」が含まれていますが、これは安全基準を満たしていているとされています。一日に1リットルの水道水を摂取すれば、それはタバコの一万倍以上の「発ガン物質」を摂取していることになるのです。つまり、タバコの発ガン性とは他の食品や日常摂取する水道水と比べても遥かに低く、全く問題にするほどのものではないのです。タバコをまるで「発ガン物質」の塊のように言う人は、水道水やみそ汁、お茶などをはじめ日常的な食事のすべてを否定しなくては論理的におかしいことになります。また、ラットなどへの強制喫煙でガンが発生するだけのタバコの量は、人間の場合一日数万本に当たります。そんな量のタバコを吸う喫煙者や受動喫煙者は実際には存在し得ないのです。誠実な研究者なら、発ガン物質が存在するかどうかよりも、その摂取量をなぜ問題にしないのかを問わなくてはなりません。そして、その量は喫煙者の場合にも受動喫煙をさせられる非喫煙者の場合にも、生活の上で問題にならないほどの微量なのです。

 

 

3. 受動喫煙でタバコを吸わされることになるというのは本当か?

 

 タバコの副流煙を吸うことで健康に被害を与えるという、いわゆる「受動喫煙の害」にも全く科学的な根拠がありません。そのほとんどは、動物などの気管を切除して強制的に濃縮した副流煙を浴びせるという実験によるもので、これらの実験の科学的な信頼性には大きな疑問があります。大気中の副流煙は数千倍から数万倍に希釈されています。また疫学的には、これも主として平山雄氏の論文におけるデータ(パートナーが喫煙者の妻の肺ガン発生率は、両方非喫煙者である場合の二倍)が唯一の根拠とされていますが、国勢調査から抽出されたこのデータの信頼性には多数の疑問が寄せられています。また、世界的にも食べ物の嗜好や、生活スタイルなどの違いを加味した最近のカリフォルニア大学による調査では何の有意性も発見されていません。事実としては、大人の場合に「受動喫煙によってガンの発生率が上がる」という証拠はどこにも見つかっていないのです。但し、幼児や子供の場合には過度の受動喫煙によって肺の成長が遅れるというデータはあります。このことと、上記の「副流煙には多数の発ガン物質が含まれている」という事実の「合わせ技」によって、「受動喫煙の害という神話」が作り出されてきているのです。確かに、副流煙は炎症をおこした喉や気管を刺激しますし、また煙の逃げ道がないところにずっと置かれている子供には悪い影響を与えるという可能性も否定できません。しかし、それ以外には「非喫煙者がタバコの被害を受けている」という証拠は全く無いのです。そもそも、非喫煙者は喫煙者と違って、煙を肺の奥まで吸い込むということはないのですから、受動「喫煙」などという現象そのものがありえないことなのです。この言葉を発明した人がアイディア・マンであることは疑いありません。

 

 

4. なせ非科学的な嫌煙キャンペーンが執拗になされるのか?

 

 養老孟司さんは、現代の「嫌煙キャンペーン」を、かつてニクソン大統領がベトナム戦争の枯れ葉剤に対する環境団体の非難を交わすために、政府の資金を使って故意に「反捕鯨キャンペーン」を作り上げたのに似た、巨大な政治的陰謀ではないかと指摘しています(『ブルータス』2005年3月15日号)。反捕鯨運動において、国連やIWC(国際捕鯨委員会)が果たした役割と、米国が主導権を握るWHO(世界保険機構)が反喫煙運動において果たした役割とは確かによく似ています。

 上に見てきたように、タバコには巷間声高に主張されているような「害」などは存在しません。あるいはより正確には「存在しているという証拠はどこにもない」のです。なのに、タバコだけがなぜこれほどまでに攻撃を受けるのでしょうか。端的に言ってそれは「煙たい」からだと思われます。タバコの煙は目に見え、匂いもします。この目に見え、鼻で感じられる「異物」を消滅させたい。自分の目に見えるところから不快なものを排除したいという欲望がそこには感じられます。また、それが「科学的に証明されている」という間違った認識から「自分が正しいことを言っている側にいる」という自己満足と快感を生み出しています。こうした人たちは自分がいない場所からさえもタバコを駆逐しなくてはならないという使命感を持つようになり暴走を始めます。たまたま自分が雑踏の中で煙たい思いをしたからと言って、路上禁煙とか屋外禁煙を条例化しようとしたりルール化しようとしたりするのは行き過ぎです。とにかく「悪い」ものだから「追放する」というのは、男女合わせて約30%、男性だけだと約50%近くいる喫煙者に対する行き過ぎの迫害だと言わざるをえません。

 タバコは「百害あって一利なし」などとよく言われますが、もちろんそんなことはありません。コーヒー、お茶、酒などのあらゆる嗜好品と同じく、タバコは喫煙者にかけがえのない愉しみと喜びを与えてくれます。だからこそ世界中に広まり、日本においても400年の長きに渡って愛され続けてきたのです。また、頭をすっきりとさせる効能をはじめ、さまざまな「益」を与えてくれています。最近では構内全面禁煙にする病院なども出てきていますが、人生の最後を迎えようとしている患者の末期の楽しみまで奪ってしまうようなこうした措置は明らかに間違っています。死刑囚ですら、刑執行の前にはタバコを吸うことを許されているのです。

 私がここで主張したかったのは、「タバコの害」という神話が捏造されているという「事実」です。それが、非喫煙者にまで健康上の「害」を与えていることが「科学的に証明されている」というのは明らかに「嘘」であると明確に指摘しておかなくてはなりません。様々な実験データや疫学的調査の中で、それを明確に「証明」しているものはこれまでひとつもないのです。もし、あると言う人が居るなら是非私に教えて下さい。医学的にまだ研究途上にあるものを「既に証明されている」として、法制化までしてしまおうというこの国の現状に対して、私は大きな危機感を抱いています。「メディア・リテラシー」の重要性もますます指摘される今日、せめて大学人だけは、タバコに対する現代日本のヒステリックで非科学的な主張に対して、冷静な認識を共有していただきたいと願っています。

 

 

<参考文献>

厚生省編『喫煙と健康-喫煙と健康問題に関する報告書・第二版』(通称「たばこ白書」)

喫煙規制問題を考える会編、『なぜ、タバコは販売禁止にならないか』(五月書房)

橋内章著、『そこに酒あり煙草あり-酒と煙草を楽しむための医学書』(真興交易医書出版部)

伊佐山芳郎著、『現代タバコ戦争』(岩波新書)

『ブルータス』、「特集コーヒー・アンド・シガレット」、2005年3月15日号