ストリート Linux 連載:ペンギン恋愛相談室

連載第 2 回:

山形浩生

相談その 3:むかしのかれが忘れられないの。

 ペンギンせんせい、わたしは悩んでいます。わたしには2年間おつきあいしていた人がいました。ちょっときまじめだけれど優しくて楽しいところもある人で、プレゼントもいろいろ買ってくれて、いい人だったのですが、だんだんちょっとしたかれの仕草やお箸の持ち方なんかが気にさわるようになってきて、分かれようかなと思った矢先に就職で東京に出てきたので、そのままはっきり別れ話もせずに相手を傷つけないよううやむやに解消しようと思ったのです。しばらくはかれのほうから電話なんかもあったけれど、なるべく出ないようにしたら、やがてすごく怒ったような手紙が来て、それっきりになってしまいました。
 それから数ヶ月たって、わたしも新しく好きな人ができました。でもいまになって、むしょうにむかしのかれのことが気になるのです。とても悪いことをしてしまったような気がするのです。すごく傷つけてしまったのではないでしょうか。そう思うと、こんどのかれのことを考える余裕もなくなって、ふたりでいるときも、ふとむかしのかれのことを考えていて、うわの空ばかりです。このままでは、新しい恋もだめになってしまいそうです。わたしはどうすればいいのでしょう。
——静岡の悩めるC子(22)

おこたえ:

 ああ、よくある事態ですね。相手をきずつけまいとするあなたの優しさが、かえって状況を悪くしている——そんな感じです。しかも環境的な問題もあるようですね。あなたの見かけの優しさは、相手の人にとっても残酷で、それがあなた自身も、そしておそらくはむかしのかれも、しばって身動きをとれなくしてしまっているのです。
 つらいことでしょうけれど、いまのあなたに必要なことは、この事態に決然と立ち向かうことです。むかしのかれときちんと対面して、過去のことをあやまったうえで、でももうあなたはいらないのだ、とはっきり宣言することです。あなたの記憶のなかのかれを、はっきり解き放つことです。なぜなら、あなたはその名もC子さん。これは経験者でもつい忘れがちなことですが、C では malloc などで確保した記憶領域は、明示的に宣言して解放してあげないと、いつまでもメモリを占領したままになってしまうんです。勇気をだして、free関数でメモリ領域解放! これでかれの思い出とともに、あなた自身も解放されることでしょう。
 もう一つあるのが、どうもあなたはかれを、一つのまとまりのある対象として考えていないようです。プレゼントを買ってくれる、仕草がどうの、と、なんだかかれを各種のプロセス群としてしか見ていないのではないでしょうか。それも問題の一因かと思います。こんなことでは、あなたはこの先もまたこの問題をくり返すはめになりかねません。
 さっきの問題とあわせて考えてみると、環境を変えてみるのもいい手かもしれません。Java子と改名なさってはいかがでしょうか。Javaは自動的にガーベッジコレクションをして、使わない思い出はだまっていてもすぐに解放してくれます。それに相手に対するアプローチも完全にかわり、かれをプロセスの集合ではなく、一つのオブジェクト(対象)としてとらえることができるようになりますよ。ご検討ください。


相談その 4:かっこばかりつけたがるかれにうんざり。

 よしおったら、むかしっからちょっとナル入ってたんですけどぉ、最近それがどんどんひどくなってぇ、Bidan とかいっしょうけんめい読んでるし(超はずかし)、あれかこれかで買い物一覧ばっかつくってぇ、気取ってかっこつけまくりで、しかもそれがいつもどっかしらはずしてて、超かんちがいって感じで、もう死ねって感じで、かんぜんにもうバカっていうか、どうしたらいいでしょう。
——札幌魚喰い娘(16)

おこたえ:

 いやそれはあまり責めないでおいてあげてよ。Lisp やProlog みたいな人工無能系言語はどうしても、がんばればがんばるほどバカになるし、リスト言語で二進木だからあれかこれかだしぃ、かっこはやたらにつくし、しかもその対応がつかなくてエラーがいっぱい出るし。でも、そういうのはちょっと頭のいいエディタをつかえば、かっこの対応くらい自動的にチェックしてくれて、かんちがいも減るはず。まあしばらく大目に見てやっておくれ。なれればまちがいも減るし。ってゆーか、だいじなのは、あなたがそのエディタになってあげること! やっぱ自分じゃバグに気がつきにくいもんね。じゃ、がんばってね。

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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)