ネットスケープと aol/time-warner, パート2.

© 2000 Jamie Zawinski <jwz@jwz.org>
netscape and aol/time-warner, part2.


 ふつうはもうこの手のことについては書く気もないのだ。 ネットスケープAOL をやめたあたりで、もうこの話をするのにはうんざりしちゃったから。自分のいいたいことは辞職のせりふで言ったし。それ以上追加することはない。

 mozilla.org が新しいアルファリリースを発表するたびに出てくるメッセージも、黙って見過ごしている。かならずどっかのおめでたいヤツが出てきて、 mozilla.org が珍しくもある日、エンドユーザ向け製品を出荷するのに近づいたという事実によってなにやらぼくがまちがっていたことが証明されたと主張する。おおむね「これであの jwz も思い知るだろう!」みたいな話。どうして? ぼくの論点は、mozilla.org が決して製品を完成させられない、ということじゃなかったんだもの。ぼくの論点は、かれらがあの時点ですでに一年遅れで、さらにもっと遅れそうな兆候をいたるところで見せていた、ということなんだ。そして、その通り遅れた。いまやあれからもう二年遅れで、それなのにいまだに完成させていない。かれらが 6 ヶ月前に出荷していたとしても、ぼくが辞めた理由は相変わらず有効だ。mozilla.org は、どうみてもまともな期間内にエンドユーザ向け製品を出荷できなかったし、ぼくは待ちくたびれた。ぼくにはそれなりの目標があって、その目標が達成されそうになかったんだ。

 でもそれはいい。もじらグループには、めいっぱいの幸運を祈るし、そしていつかかれらのソフトを使ってウェブをブラウズしたいなと本当に思っている。でも、ぼくはコンピュータ産業を離れて本当によかったと思っているし、過去2年にわたり、ネットスケープの孤児の尻を叩き続けるよりも、独自の新しいおもしろいことをやってきたのは、本当によかったと思っている。いまやぼくは独自の期日超過、予算超過プロジェクトの作業ができてる。

 最近、ある記者に質問を受けて、返事をした。すでに回答をタイプしてあるので、ここにそれを公開しようと思う。ほかの人も、よく似たようなことをきくんだ。質問の中には思わず顔をしかめるようなものもあるけれど、でも時には、そういうのに答えておくのがいちばんいいのかもしれない。

ネットスケープのいまの位置づけをどう思いますか、そしてその将来展望は?

 ネットスケープには将来展望なんかない、なぜならネットスケープはもう存在しないからだ。ネットスケープ社という会社はない。1999年に AOL に買収されたときに存在をやめた。ネットスケープ「ブランド」は AOL/タイムワーナーに使われ続けているけれど、もう「ネットスケープ」は存在しない。あるのは AOL/タイムワーナーと、連中が商売をする数多くの名前だけだ。これは覚えておくべき大事なてんだよ。ネットスケープという会社に対してきみがどんなノスタルジアを持っているにせよ、それはもうないからだ。

わかりました。では現時点でのネットスケープというブランドの運命をどう思いますか。

 「ブランドの運命」ってどういう意味だか知らないけれど、最近はもうネットスケープ製品はあまり大したことないと思っている。でもこれは仕方ないだろう。かつてネットスケープがやとっていたブリリアントな人たちはみんなやめて、もっと希望のある革新的な企業に転職したから。

ネットスケープのブランドは、どんなハードルに直面していると思いますか。

 ネットスケープのブランドがどう思われてるかなんて、ぼくはどうでもいいのだ。そんなのはただの名前、レッテルだ。ぼくが作業をした製品のどれかでもまだ重要性があればすてきだけれど、そうでもないようだ。

 主要なハードルとなると、二つに一つ:圧倒的にすごいウェブブラウザを出荷して、それも3年前くらいに出荷すること(おっと、手遅れか!)、あるいは人々に「ポータル」が重要だと説得すること(おっと、手遅れ!)

AOL がネットスケープブランドを見過ごしたことについてどう評価していますか。

 ぼくはそもそも連中がなぜネットスケープを買ったのか理解できない。単にネットスケープポータル(ネットスケープのホームページは化け物になりつつある)がAOL と競合するのを防ぐためだったのかも。ブラウザのためにネットスケープを買ったんじゃないのは確かだね。特に最近、AOL はインターネットエクスプローラで一本化すると発表したし。

1998年にぼくは こう書いた:「[AOL]がネットスケープを40億ドルもかけて買収したのが、単にクライアントを捨てるだめだけだというのは考えにくい」でも、実際にかれらがやったのはまさにそういうことだった。

AOL が相変わらずマイクロソフトのブラウザを使っていることをどう思いますか? そしてAOL が近い将来に、ネットスケープのブラウザに切り替えることがあると思いますか?

 ネットスケープブラウザのソフトが、インターネットエクスプローラより目に見えてよくなるときがこない限り、AOL がネットスケープブラウザに切り替えるとは想像できない。そして現時点では、これはかなり非現実的な想像だ。すでにマイクロソフトに、すさまじいリード時間を許してしまったこともあるし。

AOL/タイムワーナーの合併が、ネットスケープ部門に何か影響を与えると思いますか?

 タイムワーナーの動機や意図は知らない。でも、どうしても推定しろというのなら、たぶんいまのネットスケープ部門をどうするかなんてことは、かれらはそもそも眼中にないと思う。

AOL は Compuserve も所有してるんだよ。かれらはかつて、重要だったこともあった。いまじゃだれも見向きもしない。

 タイムワーナー買収でぼくが心配なのは、これがまたもやコントロールの集中化の一例だってことだ。いまやここにあるのは part of the ニュース音楽雑誌映画テレビ 巨大なシェアを持っているところが、AOL を通じて一般大衆がオンラインになるチャンネルの主要部分をコントロールするようになったものだ。こういう垂直統合と巨大な囲い込み顧客は、自由な社会にとっては不健全だ。これはどうしても選択肢の現象と、聞こえてくる視点の減少につながる。

 こういう通信インフラすべてのコントロール、コンテンツの政策からマーケティングからエンドユーザへの配信まですべてをコントロールするというのは、真の民主主義という観点から言って、ひたすら大惨事だ。これについてはタイムワーナー以前にも、 AOL 辞職記の最後あたりで書いたけれど、状況はそれ以来ますます絶望的になってきている。

 Kalle Lasnの history of corporations in Americaを読んでいなければ、是非読もう。

今後、ネットスケープのブランドはどうなると思いますか?

 薄れて見えなくなって、そしてだれもそれに気がつかないだろう。歴史の脚注扱いだね、NCSA Mosaicみたいに。一方、タイムワーナーは自分の所有物だけが人々の目に留まるように、あらゆる手を講じるのはまちがいない。

 この買収は、かつて偉大だったネットスケープの名前を、マイクロソフト並に危険な企業の駒の一つにしてしまうことで汚すものではある。これはつまり、ネットスケープはマイクロソフトとの闘争に負けたと言うだけでなく、かれらが戦った敵の一部になったということだから。

[ネットスケープの新社長] によれば、AOLのサービスがネットスケープのブラウザを採用するかどうかはどうでもいい、なぜならそれはネットスケープに新しい収益をもたらすわけではないから、ということです、ブラウザはそもそもフリーですし、スタートページは相変わらず AOL だから関係ない、と。

 そういう甘い考えがネットスケープを殺したんだよ。

もしネットスケープ (または AOL、またはだれでも) が人気あるフリーのブラウザ製品を持っていたら、その製品はその企業にとってすさまじい価値を持っている。そしてそれは別に、人がデフォルトのホームページを変えられないほどグータラだなんてことのせいじゃない

 価値は、現実世界の多くの人がそのブラウザを使っているということで、これはつまりマイクロソフトが、相互運用性のメリットを考えてオープン規格にしたがわざるを得ないというところにある。

 要するにこういう仕組みだ。もしウェブサイトを運用している人が、顧客の70%があるブラウザを使って、30%が別のブラウザを使うと知っていたとしよう。この二つの競合の間の共通部分が標準規格になる (デファクトだろうとデジュレだろうとどうでもいいよ)。

 でももしウェブサイトを運営している人が、顧客の 99.9% が一つのブラウザしか使っていないと思ったら、そのサイトが別のものできちんと動くか確かめたりはしないだろう。そしてマイクロソフトが新しいおもちゃをくれたら、それで何かクローズドで独占的なものに囲い込まれているなんてことは気がつきさえしないだろう。

 この最終的な結果は、マイクロソフトが単独で標準規格を決めて、そしてすべての領域でますます競合しにくくなるということだ。

 これは AOL (ブラウザメーカーとしての)だけに関係することじゃなくて、マイクロソフトと競合することになるすべての人に関係あることだ(ということは成功しようと思うすべての人にってことだ。マイクロソフトは自分があらゆるビジネスに参入するつもりだから)。

 もしマイクロソフトが標準規格をコントロールするなら、気まぐれで変えられるし、これは競合相手にとってすさまじく強力な武器になる。

 もちろん AOL は、オープン規格の仕様と準拠についてはマイクロソフト並にひどい実績しか持っていない。だから、ぼくたちの多くにとっては実に自明なことを連中が理解できるとは思えない。つまり、オープン規格がインターネットの機能にとって きわめて重要だってことを。これらすべてをそもそもに可能にしたのは、オープン規格なんだ。

Jamie Zawinski, 3-Jun-2001


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