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0 山形浩生の『ケイザイ2.0』

第10回  情報化こそが、やはり生産性向上の鍵!は、ウソ?
−−儲かっとるのはPCメーカーばかりではございませぬか−−

text: 山形浩生



●アメリカ経済の生産性は、上がっているのだけれど・・

 アメリカ経済は、いま絶好調だってことになっている。株価は天井知らずに上がっているし、経済成長は日本やヨーロッパや、アジア諸国に比べても高いし。ああ、そりゃいつ金利が上がるかとか、株価はバブルだとか、揚げ足をとるやつはいろいろいる(揚げ足じゃないんだけれど、まあ好調なときにはだれも聞く耳もたないよね)。  さて、『クルーグマン教授の経済入門』を読んだ人なら、国の経済にとってだいじなのは何よりも生産性だ、というのを覚えているだろう。アメリカ経済がそんなに好調だっていうなら、生産性も上がっているんだろうか?
 はい、確かにあがっているのだ。過去25年のアメリカの生産性成長は平均で1%未満。それが96年以来は2.2%もあがってる。日本なんか、この間生産性はガンガン下がってるから、すごいもんだ。もちろん、『経済入門』を読んだ人なら覚えているだろうけれど、生産性がなぜ上がるのかはぜんぜんわかっていない。だから実は、何が起きたのかよくはわからない。でも、人は何にでも理由を求めたがるものだし、今回はいかにもな理屈が簡単につく。要するに、90年代の頭から、アメリカは情報化を推し進めてきました。インターネットをばんばんとりいれて、インターネット新興企業がいっぱいでてきました。ごらんなさい、いまやNASDAQはそういう企業のIPO(新規上場)だらけで、シリコンバレーはIPO長者がゴロゴロ。これが株価を押し上げ、アメリカ経済の活力の源となっておるのです。したがって情報化こそが、やはり生産性向上の鍵といえましょう。

 どっかで聞いた話だと思う。日本にも、これを受け売りしている連中が山ほどいるし。本屋にいって『アメリカ経済・活力の秘密』とかなんとか、その手のタイトルの本を見ると、まあみんな似たり寄ったりでこんなことが書いてあるわけだ。

 もちろん何にでも、嫌味で冷笑的で他人の言うことにケチをつけるのばかりが好きな懐疑主義者はいる(たとえばこの不肖の山形とかね)。情報生産性のパラドックスというのが昔からあって、情報投資はいくらしても生産性はあがっていない、という調査がたくさんあるのだ。えー、それが今回はあがってるって? 信じられないね。

 とはいうものの、現実に生産性があがって経済成長をしているのは事実。ほかに説明があるか、といえばなかった……つい先日までは。


●生産性があがっている産業分野はたった一つしかない

 ノースウェスタン大のロバート・ゴードン。アメリカの生産性の権威といっていい人だ。この人が、アメリカの産業別にいろいろと生産性の状況を見ていったんだ。その結果がこないだ出た<論文はこちら>。

 実はアメリカのほとんどの産業では、生産性なんかぜんぜん上がっていないのだ。 うっひゃー。

 でもでも、と人は当然言うわけ。それはアメリカの古い産業ではないの? やっぱインターネットベンチャーのみなさんともなれば……
 いいや。ぜんぜん。インターネットを使ったサービス部門なんて、生産性が下がっているくらい。そもそも、連中ってまだろくに収益あげてないとこばっかで、株が上がってるのも思惑だけなんだもの。
 でも、アメリカ全体としては上がっているっていうんなら、どっかの部門は上がっているわけだ。それはどこなんだろう?
 実は、生産性があがっている産業分野はたった一つしかないのだ。そこが全体の平均を引き上げている。その分野とは:コンピュータ製造業。コンピュータだけはどんどん生産性があがって価格が下がって、どんどん売れている。それは確か。
そしてそこでは平均で年率42%の生産性向上がここ数年続いている。これはすさまじい数字だ。

 しかしながら、それを買っているはずのいろんな産業部門では、情報投資をしようとインターネットを利用したなんたらコマースだろうと、実はまったく生産性なんざあがっとらんのだよ。ほら見たことか。もう皮肉屋たちは大喜びだ。

 するとなんだ? アメリカではつまり、みんなが「情報投資はすばらしい」というお題目にだまされてコンピュータをどかどか買い込むもので、コンピュータのメーカはどんどん生産性があがっているわけだ。それだけ。そして、経済全体は、そのおこぼれでなんとなく成長しているわけだ。なんだい、情報投資が生産性を上げるんじゃなかったの? インターネットが光の速さで情報交換して、抜群の効率を産み出すんじゃなかったの?


●日本もアメリカのマネしてて、いいのかね・・

 こういうことを書くと、楽観論者はかならず個別事例で反論してくる。たとえばアマゾン・コムの株価はぐんぐんあがっている、とかね。でも、それをいったら、どんな不況のどんな時期にも、もうかってる企業はいくつか必ずはあるわけだ。その中には確かに、インターネットやら新しい技術を活用することでそれを成し遂げているところもあるだろう。でもその一方で、インターネットを使って損をしている企業だって同じくらいいっぱいあるかもしれない。そしてインターネットを使わずにもうかっている企業だってあるかもしれない。インターネットが役にたつというためには、それなりのサンプル数をそろえて、きちんと比べる必要があるわけだ。たまたまインターネットでうまく行っているところだけをとりだして、「だから情報投資にインターネットがアメリカ経済を支えている」なんてことは言えないわけだ。そうだろう。宝くじにあたった人にインタビューして、「アメリカは宝くじで栄えています」なんて言えないのと同じこと。いま、全体としてはインターネットの企業利用は拡大している。それなのに、全体としての生産性が停滞しているということは?

 ちなみにだね、アマゾン・コムって株価はあがっているけれど、実際に儲かっているかな? あるいはほかのインターネット企業は? もうけの出ていない赤字企業ばかりだよ。つまり付加価値をまったく生み出していないところだ。そんなの、生産性に貢献するわけないではないの。

 というわけで、アメリカ経済ってのもその程度だってことだ。もちろん、コンピュータ製造業は、確かに情報化したりしているのかもしれないし、それを他の産業に応用することもできるのかもしれない。でも、もうずいぶん長い時間がたっているはずなのに、そういうことは起こっていないのは事実なわけ。

 さて、アメリカ経済を見習えとか、これだから日本も情報投資をすすめて、とかのたまっているいろんなヒョーロンカの方々は、こういう結果を見てなんと言うんだろうねえ(見て見ぬふりだろうな)。そしていったい、日本はどうすればいいんだろうねえ。いやはや、なんともおもしろい時代であることよ。



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