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山形浩生の『ケイザイ2.0』
バングラデシュの子供たち

山形浩生




 バングラデシュにきてもう一週間。ここはとても貧乏な国だ。国も貧乏だし、人も貧乏だ。平均年収がほんの数万円という世界。国全体がでかい三角州みたなもんで、毎年、国の大部分が泥水につかって、それで農地に養分がきて、なんとかみんな喰っていけるようになる。
 ご飯はまあおいしい。決してワールドクラスの料理ではないけれど。一食30円ほどで、カレーとチャパティみたいなパン、卵にチキンにダルっていう豆スープが食べられる。この泥水まみれの国で、カレーとダルまで泥水みたいなのはまあご愛嬌。飲むのはお茶で、牛乳と砂糖を山ほど入れるので、これまた泥みたいな色だな。その他、揚げ物を店先でつくっている。まだ食べてはいないけれど、まあ1円くらいだろう。
 ここが輸出できる数少ないものは繊維製品で、もちろんそれは人件費が安いからだ。ただ、それを安くあげるために子供を工場で働かせているとかいうのが一時問題になって、欧米のバカなおばさんどもがバングラ製品をボイコットとかしていた。子供というと、ちょうどいま、ぼくのまわりに群がっているような子たちだ。


子供にだって働く権利はあるんだ。
 ホテルを出て1分もすると、必ずこんなふうにガキが群れてくる。半分は物珍しいからで(ピアスがとても不思議らしい)、あとの半分はもちろん、お金をせびりにくる人だ。ダッカの街のいたるところには、不法占拠のほったて小屋集落ができていて、そこはいつも排泄物のにおいがたちこめて、そして無数の子供がうろついている。もちろん学校なんかいかない。子守とか家の手伝いをしたり、なんかしら働いている。こうして金持ち外国人に金をせびるのも含めて。
 「子供が工場で働くのは憂慮すべきことです。子供の人権侵害です」とかいうバカな連中は、ここにきてみるといい。こうして線路づたいにずっと歩いてみるといいんだ。そういう人たちは、何もわかっていないんだから。子供にだって働く権利はあるんだ。子供だってもちろん働くし、一家の生産力の貢献する−−それは別に悪いことじゃないはずだ。それが工場労働で何が悪い? そりゃもちろん、労働環境の問題はあるだろう。でも、まわりを見てごらん。これよりひどい状況が考えられるか?この子たちにとって、工場で働いてお金がもらえれば、これは願ったりかなったりだろう。生活はほぼ間違いなく向上するだろう。
 もちろん、善意に満ちたバカほど始末におえないものはないから、その人たちがそんなことを考えることすらないだろうけど。あるのは、子供が働かされてかわいそう、とかいう浅はかな感情論だけ。でも、じゃあ、それ以外の選択といったら?こうやって物乞いをするか、犯罪に走るか、あるいはしばらくしたら売春婦にでもなるか?
 ここにも、売春街は(もちろん)あって、なんか城壁みたいなもので囲まれて女たちが逃げないようにしてある。それはそれはすさまじいものだという噂をきいたよ。いずれいってみよう。連れ出し、もあるようで、ぼくの隣の部屋のアラブ人が買ってるみたい。毎晩アレの音がするんだけど、男のほうが声がでかいのはなんとかならないかなぁ。


なぜ日本には、それができたのか・・
 しかしそれにしても、と高い外国人向けレストラン(といっても一人千円がせいぜいだけど)でよく話になる。この国も、無理に工業化して発展しようとするから、いろいろ無理がかさんでるような気がするんですけどね。農業と漁業だけでやってく分には、それなりにみんな幸せに暮らせるんじゃないですかね。もう今から止めるわけにはいきませんけど。でも正直言って、この国はあと50年たってもこのままじゃないですかね。
 でも、と別の人がいう。戦後の米兵たちが見た日本ってのは、こんな感じだったのかもしれない。外に出るとギンミーチョコレートとガキが群がってきて。あるいは江戸時代の日本だってそうでしょう。日本にできてこの国には絶対できないとは断言できないでしょう。
 そうですねぇ、とみんなうなる。そもそもなぜ日本にはそれができたんでしょうねぇ。ここでぼくたちは、顔を見あわせて黙りこむ。だれもその答を知らないのだ。だれも。日本人が勤勉でどうの、というのは、結果論でしかないのを、みんな知っている。われわれがここの人よりことさら優れているわけではないんだ。それなのに、なぜだろう。こうやって黙りこんだところで、たいがいは勘定だ。ぼくたちは残った水を飲み干して(ここはイスラーム国なので、酒がまったくない。飯時にはひたすら水を飲んでいる)、そして外に出ると、また子供たちが群がってくる。



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