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e-ビジネス

HB 2000.12 表紙
Harper's Bazaar 日本版 3 号(2000 年 12 月)完全版はこちら

山形浩生



 ぼくは世の中のドットコムのブームがあんまり好きじゃないし、どう好きじゃないかについてはいろいろ書いてきた。一言でいえば、実力以上にさわがれすぎだってことだ。  もちろん実力のあるドットコム企業はいっぱいある。ドットコムのブームを作った功績のかなりの部分は、オンライン本屋さんのアマゾンのおかげだろう。ここはインターネットを売り物にしてきた。だから必ず「アマゾン・ドットコム」と名乗るようにして、やがてアマゾン急成長とともに、ドットコムは成長企業の代名詞となった。そしてそれにあやかろうとする、実力のない軽薄な企業がいっぱいでてきて……そしていま、ドットコム企業は落ち目だ。

 ドットコム――というのは、インターネットを活動の拠点にしている企業、くらいに考えておけばいいだろう――が従来型の企業に比べて成長力がある、という説は、根拠レスじゃあない。たとえば、これまでよりは場所にしばられないですむ。やすい途上国の人を雇って仕事をさせることもできる。そしてwebというバカみたいに簡単なツールを使って、お金や資源がなくてもアイデアだけで全世界の人を相手に商売ができる――これはビジネス参加のチャンスを一挙に広げたのは確かだし、そこにはすごい夢も希望もあった(いまもある)。

 でも、不安要因もあった。まず、いままでの大企業だってバカじゃないから必ず追い上げてくる。さらにドットコム企業の多くは、ネット関連企業だ。ネット関連機器を作るところ、ネット関連ソフトを売るところ、ネット広告を出すところ……そしてネット関連メーカーがネット関連ソフトのサイトにネット広告を出し、そのネット広告企業はネット関連機器メーカーの製品を買い、という堂々巡りが、いろんなところにみられる。それが一斉に将棋だおしを迎えそうな気配もある。

 一方では、ITが世界経済の一大牽引車になる、というような説があって、それに乗せられて日本でも、ネット用の回線を増やせという話がはやりだ。

 だけれど、問題が多いのはもっと細かい仕組み方面で、それはなかなか変わりそうにない。いちばん簡単な話で、日本だとドメイン名をとるのが偉く面倒だ。www.hogehoge.comみたいなアドレスのことだと思っておくれ。アメリカだと、だれでも20ドルほど出せば、なんでもすぐにとれる。

ところが日本だと、じつにうるさい。comに相当するのは、co.jpってやつだけれど、これは所在地を持った企業でなきゃとれない。手続きも煩雑で時間がかかって対応も官僚的で、しかも一社一ドメイン。

ネットの活動なんて、かなりの部分が思いつきで、さいしょの勢いが肝心でしょう。アメリカのドメインなら、今日思いついたアイデアをテーマにしたドメインが、明日には取得できる。yahoo!をごらんよ。ただの学生の思いつきが、いまや大ネット企業。そしてその間ずっとかれらは、yahoo.comであり続けられる。日本の仕組みだと、それはできない。

そしてアメリカではすでにかつてのドットコム企業たちが、名前からドットコムを取る動きが増えている。昔は急成長企業のしるしだったドットコムが、いまはあちこちで倒産したり株価暴落したりしていて、ヤバい企業の代名詞になっちゃっているので、いっしょにされちゃいやだ、ということで会社名にはドットコムを入れたくない、というわけ。

……それはそれで、またいかにも軽薄というか、つれないと言うか。いまにして思えば、アマゾン・ドットコムがえらかったのは、自分たちの活躍と成功によって、逆にドットコムというブランドを自ら立ち上げてきたという点だ。結局だいじなのは、なにをどうやるかという、本当にあたりまえのビジネスの基本であって、ドットコムであるかどうかじゃあない。そのあたりまえのことが、いま一部ではやっとはっきりしてきたんだけれど、あなたのドットコムやe-ビジネスはそれに応えられるだろうか。そういうことだ。<

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