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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

仕事のスタイル

月刊『GQ』 2012/02月号

要約:理屈で詰めるのと、相手の顔色をうかがうのと、スタイルにもいろいろある。


 自分の仕事のスタイルというものを認識しはじめるのはいつ頃だろうか。仕事を始めてすぐは、とにかくがむしゃらにやるしかなく、あれこれ怒られて工夫をし、仕事のやり方を変えたりもする。でも、どこかで――ぼくなら十年くらい仕事をしたところで、ふと自分の流儀というものがだんだん見えてくる。そして特にそれが意識されるのは、自分と流儀のまったくちがうやつと仕事をするときだ。

 ぼくには一人、いつも仕事の流儀の差を思い知らされる同僚が一人いる。そしてそいつと会議にいくと、ぼくはいつも感心するのだ。

 たとえば何か会社や産業分野の発展戦略を考えなくてはいけないとしよう。ぼくだと、お題をもらったら、まずは白紙の状態からそれに関する各種の理論を考え、統計データやヒアリング結果を分析し、「かくかくしかじかの分析の結果、人材育成に最も重点を置くべきだと思います」というような提言をすることになる。

 でも、その同僚はちがう。まずどうとでも結論が出るようなデータや分析を持って、お客さんの前に行く。そして「やっぱりここでポイントとなるのは、人材育成……よりは資金制度の確立……いやむしろ、インフラ整備ですよねえ」とやるのだ。この「……」の部分で、そいつは相手の顔色をうかがっている。そして相手の反応を読み取り、それにあわせて結論を変える。いわゆるコールドリーディングという、インチキ占い師などがよく使う手口だ。そして相手のほしがっている結論が見えたところで、それにあわせて結論を作り込んでいく。

 たぶんきまじめな人は、それを見て怒るだろう。結論ありきで話を作るなんて、インチキなゴマすりじゃないか、といって。ぼくも最初はそうだった。

 でも彼には彼の言い分がある。世の中を動かすためには、お客さんが努力して実施できる/実施したい答えを出す必要があるのだ、と。理論的に正しくても、その戦略が実施されなければ無意味だ。相手がそれに魅力を覚えなくては何にもならない。そしてたとえば人材育成が大事でも、インフラ整備の中でそれを実施する手だってあるでしょう、と。

 悔しいけど、その通りだ。それにぼくのやり方だと、いろんなことがすっぱり明確になった、と喜んでもらえることが多い一方で、あれこれやってもまともに結論が出ずにがっかりされることも多い。当然だ。世の中、理屈で割り切れることばかりじゃないんだから。それどころか、時々意見が完全に対立して身動き取れなくなることも多い。そんなとき、ぼくは自分とまったくちがう仕事のやり方ができるそいつのことを、心底うらやましく思う。

 一方で、彼のやり方が完璧ではない。ぬるぬる相手の意向通りに話を作っているうちに収拾がつかなくなったり、それまで話をしていた担当者の上司がちがう意見の持ち主だと最後の最後ですごいちゃぶだい返しに会ったりする。彼はそんなとき、ぼくのやり方のほうがすごい、感心する、と言ってくれる。どこまで本気かは知らないけれど、どういう部分もあるんだろう。

 どっちが絶対に優秀というわけではないし、お互い学ぶべきところはあるんだろう。最近はぼくも少し、ゴマすり流の仕事もできるようになった、とは思うんだ。一方で、それを堕落と感じる自分もいるのだけれど。さて、あなたの流儀はどんなものだろうか?



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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