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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

震災時の住宅提供

月刊『GQ』 2011/05月号

要約:震災のときに住宅提供の申し出があった。それをシステマチックにやる仕組みも一部で動いていたけど、成功したのかな。


 今回の震災とその後の原発事故で、東京を離れた人は多かったし、日本脱出まで考えた人も結構いるんじゃないかと思う。ぼくは科学的な人間ですしぃ、東京を離れる気などさらさらなかったけれど(とはいえパンや牛乳がなくなったのには頭痛がした)、外国の知り合いたちはみんな、ずいぶん本気で心配してくれた。

 なんせ海外のテレビでの東北震災報道というのは、当然ながらショッキングな映像ばかりを切りつなぐ。まずかれらの東京事務所の震災風景、続いて東北に押し寄せてすべてを破壊する津波映像、さらには爆発する福島原発の映像、そして何もなくなったコンビニ風景、という順番だと相場が決まっている。外国人の多くは、日本の大きさもよく知らないことだし、全国的にそういう状況なんだと思うのも無理はない。

 だからかれらのイメージでは、日本全体がいまや北斗の拳の世界だ。もはや何もなくなった荒野の中、モヒカンどもがか弱い一般市民から残された物資を奪い去り、善人たちは放射線に倒れ、まともな人々は我先に逃げ出す……ちがうんだと言っても、当初はなかなか理解してもらえなかったのだった。

 だから日頃の行いがよく、人望が篤いぼくのところには、今回の震災においても世界各国より救援の申し入れが殺到したのだ。日本を脱出してうちにこい、いつでも受け入れてやるぞ、という申し出がアメリカ、ラオス、カンボジア、ガーナ、モンゴルからきて、ありがたくで涙が出たほど。

 いや東京はまったく大丈夫だから安心してくれ、と返事をしつつも、見通しとしてはちょっと魅力的なものがあるのも事実。これであとはヨーロッパ(チェコかイタリアがいいなあ)から申し出があれば、こいつらのところに二ヶ月ずつくらい居候して、三年くらい世界を旅して歩くのもいいなあ(ただしモンゴルは……ご厚意はありがたいんだけれどね)。そんなことを半分まじめに考えつつ日々を送るうちに、仕事はすぐに通常業務に復帰。日本を出るなんてことを考えることもなくなってしまったんだけれど。

 しかしそういう申し出がくるだけ本当にありがたい話だ。ぼくはガーナで何かあったら、この人に同じ申し出ができるだろうか。アメリカでは台風災害のときに、被災者に客間を提供して滞在させるという支援を多くの人が行った。いま話題の各種ソーシャルネットワークも、実はそのマッチングサービスを期に市民権を得て発展したところも多い(特に日本にはまったく出ていないがアメリカでは有名なクレイグリスト)。

 今回の震災でも、一部はそうした住宅提供の試みは行われているようだけれど、うまくいっているのかな。本にやたらにカバーをかけたり、トイレで音姫とかいう間抜けな代物がはやったりとか、異様に他人の目を気にする日本人の心性も障害になりそうだ。さらにそれは同時に、住宅ストックの問題でもあるのだ。全国的に広い豊かな住宅ストックが整備されていれば、それは災害対応のインフラにもなる。そんなこともあわせて、今後の復興と支援体制を考えて行く必要があるんじゃないかとは思うのだ。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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