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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

日航の苦境に思う

月刊『GQ』 2010/04月号

要約:日航は殿様商売とかコスト高とか言われるが、政治利用されて赤字路線バカみたいに押しつけられているのも大きい。そういうのをやめればいい航空会社だと思うよ。こっちの原稿と同じネタ。


 さて同僚の中には、航空会社は日系じゃないとだめだ、サービスの質が云々、なんてことを言う人がいる。ぼくとしては、どのみちエコノミークラス(それも格安)の受けられるサービスなんてたかがしれているので、そんなことを気にしたことはないのだけれど。それにいその人たちにとって「サービスの質」というのは往々にして、日本語が通じるという程度の話らしい。それは自分でなんとかしようよ。

 そういう話だと、XXXX航空の飯はまずい、病院食みたいだ、なんてことも言われるけれど、エコノミーなら日本航空も全日空も、そんなにすばらしいわけじゃない。ぼくはアジア便では基本的に機内食は食わない。だって少し我慢して向こうについてから食べたほうが、ずっとおいしいものが食べられるんだもの。そんなわけで、ぼくは日系キャリアに特にこだわりはない。

 でも、日本の航空会社大好きな人たちにとってそれは重要らしくて、そしてかれらは、先日の日本航空のてんまつに深い憂慮を示していたのだった。そして、特に航空会社にこだわりのないぼくでも、あの騒動には少し思うところがあったのだった。昨年末から年頭にかけて、日航便の国内線に乗ると「お騒がせして申し訳ありません」とスッチーさんたちが謝ったりしたのだけれど、ぼくはあれは、現場の人たちが謝ることではないと思うのだ。マスコミの報道だと、年金が高いのに組合がごねて引き下げに合意しないとか、とかパイロットが高給取りだとか、そんな話ばかりが伝わってきた。でも、ぼくはそんな話が原因ではないと思う。日航は、ナショナルキャリアだからというお題目で、政府にいろんな無理を押しつけられてきた。それが経営難の大きな原因なんだもの。

 どこぞの知事さんが人気取りで作らせた、どうみても客のいない地方空港に、どう見ても収益性のない便を無理矢理飛ばせられて、その空港の建設にもあれやこれやでお金を出させられ、そんなのがつもりつもって、あまり儲からない体質になっているのだもの。郵便事業と似たような話だ。

 だから、再生機構のお世話になって上場廃止になったときに、経営努力がとか高コスト体質がとか、政治家たちがきいたふうな口をきいていたを見て、かなりげんなりする思いをさせられたのだった。自分たちがコストをさんざん押しつけてきて、今になって経営がダメだとかコスト高体質だとかいわれましても。それは現場の人たちがどうがんばったところで、改善できる話じゃない。

 そして、それは全体の体質にも影響する。どう努力しても状況がよくならないとわかったら、だれが努力をするもんですか。同じ赤字なら、楽なほうへ流れようではありませんか。これは世界中で、電力会社や高速道路会社など、政府のおもちゃにされている多くの準公営企業に見られる態度だ。そして、手を抜く方向に流れるのとは逆に、他のところでもコストをあまり考えない「高いサービス」を提供しちゃうような動きもある。むろん、もはや飛行機に乗るのがごく当たり前になっている時代に(エアアジアをご覧)、ご大層な「サービス」を重視する日航の体質はアナクロかもしれない。かれらも、自分たちががんばれば赤字がなくなるとか、自分たちの裁量で運営できるという見込みがあれば、それだけの努力をする能力はあるのに。

 実は日航が上場廃止になったその日に、政府は日航に無理矢理国産ジェットのMRJを買わせるよう促すという発表をした。再建するためには、そういう政府のごり押しをやめて、自分たちの判断で路線決定も機材決定もさせるようにしなくてはいけないのに。やれやれ、こんなことで日航は無事に再建できるのかなあ。

 と言いつつ、今日は久々に日本航空。バンコクからの夜行便で帰国なのです。でも、ずっと寝てるから機内食も食べないしサービスも関係ないのだけれど。



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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