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『高度一万メートルからの眺め』 連載 15 回??

日本の観光売り込み

月刊『GQ』 2010/03月号

要約:日本は観光振興を図っているけれど、マレーシアなんかに比べてもまだ見劣りすると思う。


 ジャカルタにやってきて、日航ホテルに到着だ。ぼくが泊まった昨年末の時点でも、少々まずいらしいという話はいろいろ聞こえてきていたし、何とかテコ入れしないとダメだというのは聞いていたけれど、執筆時点で更正法適用、再生開始。日航ホテルもおそらくは切り売りされるんだろうというもっぱらの観測が流れている。

 ぼくが泊まった頃にはそこまで話は進んでいなかったんだが、ジャカルタの日航ホテルの本館はとにかく古い。なぜそこに泊まったかといえば、あまりに古かったので、未改装の旧館部分は信じられない値段で提示されていたからだ。とはいえ想像を絶する古さで、半年前に泊まった日本の地方都市のビジネスホテルのほうがまだまし、という程度のひどさ。腐っても日航ホテルと思っていたのに……

 そしてそのジャカルタ日航ホテルの、テナントのいない二階物販スペースの片隅に、ポスターが貼ってあったのだ。「Yokoso Japan」。日本の外国人向け観光誘致用ポスターだ。

 ぼくが日本国外でこのポスターを見たのは、これが初めてだった。

 外国に出張して、寝る前にディスカバリーチャンネルでも何でもぼんやり見ていると、当然ながらしょっちゅうコマーシャルがかかるんだが、その多くは世界各国の観光誘致のコマーシャルになっている。ここしばらくでいちばん目立つのは、マレーシア、インド、そしてソウルだ。

 マレーシアはもう本当に昔から観光プロモーションに力を入れていて、ずっと同じテーマソングを使い続けているので、ぼくの同僚たちもみんな Malaysia, truely Asia という標語をちゃんと歌えてしまう。インドも最近そうなりつつある。India, incredible indiaという標語はもうほとんど耳に焼き付いてしまっている。ソウルは、まだそれほどでもないけれど、ああよく見かけるなあ、というくらいの印象はある。

 そしてこの三地域だけじゃない。ギリシャ、エジプト、オーストラリア、ニュージーランド、キプロス、先日はアゼルバイジャンまで、何やらもっともらしいコマーシャルを作っていっしょうけんめい自分の国を売り込んでいるのだ。どれも、そんなに独創的なものじゃない。だいだい似たり寄ったりではある。XXは、こーんなすごいリゾートもあるし、アドベンチャー系の活動もあるし、こんなお祭りもあるし、一方で都会ではショッピングもありーの、クラブもありーの、新しいものもあれば伝統もありーの、すばらしいからいらっしゃい、というのを出すだけだ。でも、だからこそその出し方にあれこれ工夫して、まあほほえましくはある。

 で、ぼくは毎回思うのである。日本は何をしておるのだ、と。

 日本は一応、Yokoso Japan! なるキャッチフレーズで、誘致をやってることになっている。だが、この広告が出ているのを見た唯一の場所は、これまでは成田空港だけだった。みんなそれを見て、バカにしていたのだ。もう日本に来ているやつらを相手にこんなポスター見せたって、何の意味もないだろう! まだきてないやつにふりむいてもらうのが広告の役目だろうに!

 そして外国に出すときにも、自分の息のかかった日航ホテルにしか出せないのか。それも本当の隅っこに飾られているだけ。日航ホテルがそうしたいと思った理由もわかる。だって超絶的にダサいんだもの。なんだか白人のおばちゃんが、どこぞで陶芸体験かなんかやってる写真。つまらなそう。あれを見て日本にきたがるやつが、何人いるんだ!

 でもなんだか、こういう売り込みの下手さ、相手の求めるもののわからなさ加減というのが、いまの日航の苦境にもつながり、また日本の不景気の一因でもあるなあ、とぼくはついつい思ってしまうのだ。そういえば、来週から行くラオスもそこそこがんばった観光誘致プログラムを始める予定と聞いているんだけど……



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YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
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