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これからについて

私が最近の歴史を繰り返したのは、単にそれを記録に残しておくためだけではな い。 もっと重要な点として、この最近の歴史的な経緯を背景にすることで、短 期的な トレンドが理解できるようになるし、いくつか将来についても予測でき ることに なるからだ(なお、この文章は1998年12月に書かれている)。

最初は、来年への確実な予測である。

以上の傾向をさらに先に延ばしてみると、中期的(18から32ヶ月先)について ちょっときわどい予想ができる。

一見すると、これらの傾向が続けば残るのはLinuxだけになってしまうしか ないように思える。が、世の中そんなに簡単ではない(それにマイクロソフトは デスクトップ市場からすさまじいお金と市場影響力を引き出しているので、 Windows2000が大コケしたあとでも、そう簡単に無視できる存在にはならないだ ろう)。

そういうわけで、2年先となると予言の水晶玉は、いささか曇りが見えてくる。 可能性のある未来像のうち、どれが実現するかは、以下のような質問にも関わっ てくる:司法省はMicrosoft社を分割するだろうか?BeOSやOS/2やMac OS/Xなど のニッチのクローズソースのOSがオープン化されたり、又は完全に新しく設計さ れたOSがでてきて、 30年以上もたつ古い基本設計のLinuxとまともに張り合うよ うになるだろうか?2000年問題がらみのトラブルは、すべての人の予定表を吹っ 飛ばして、世界経済を深刻な不況へと導いてしまうのだろうか?

いま挙げた項目は、まあどうでもいいことに属するかも知れない。でも、考える に値する問題が一つある。Linuxコミュニティは、システム全体で使える、エン ドユーザにも親しみやすいまともなGUIを、本当に提供できるだろうか?

私の考えでは、二年先のいちばんありそうなシナリオというのは、Linuxがサー バやデータセンター、ISPとインターネットを実質的に制覇する一方で、 Microsoftはデスクトップを掌握し続ける、というものだ。その先がどうなるか は、GNOMEやKDEなどのLinuxベースのGUI(そしてそれを利用するようにつくられ たり、あるいはビルドされなおしたりするアプリケーション)が、Microsoft自 身の本丸で互角にやりあえるくらい優れたものになれるかどうかにかかっている。

もしこれがおおむね技術的な問題であれば、結果はほとんど確実に決まっている (訳注:つまりオープンソースが文句なしに勝つ)。が、これは技術だけの問題 ではないのだ。人間工学デザイン、インターフェース心理学に関わる問題であり 歴史的にみてハッカーは、こっちの方面は苦手である。つまり、ハッカーは、ほ かのハッカーのためにインターフェースを設計するのは得意かもしれないけれど、 世界の95%を占める非ハッカー人口の思考プロセスをモデル化するのは苦手で、 平々凡太くん [*] やティリーおばさんなんかが金を払っても買いたがるようなインターフェースは うまく書けないのだ。

今年の課題はアプリケーションだった。でも、いまではハッカーたちが自分で書 かないアプリケーションについても、ISVたちをおびき寄せて提供させられるの は明らかとなった。私の考えでは、今後二年間の課題は、Macintoshがうち立て たインターフェース設計の品質基準に匹敵する(そして上回る!)ほどに成長し、 しかもそれを、伝統的なUnix的方式のよさと組み合わせることができるか、とい うことだ。

私たちはよく、冗談半分で「世界制覇」をいうことを言うけれど、でも世界を本 当に制覇する唯一の方法は、世界に貢献することだ。この世界というのは、平々 凡太くんやティリーおばさんのことだ。そしてそれに貢献するというのは、私た ちがやることについて、根本的に新しい考え方を身につけて、デフォルト環境の ユーザに見える複雑さをむちゃくちゃに減らし、ギリギリの必要最低限にしてし まうことだ。

コンピュータは人類のための道具だ。だから最終的には、ハードウェアとソ フ トウェアの設計の課題は人間たちのための設計はどうすればいいかという問題に 帰着するのだ――それも、すべての人間のための設計ということに。

この道のりは長いし、楽なものではないだろう。しかし私たちは、自分自身のた めにも、そしてお互い同士のためにも、これをきちんとやりとげなくてはならな いのだ。オープンソースがあなたとともにあらん事を!



Takashi.Nakamoto
7/4/1999