next up previous
Next: なりゆき革命家 Up: The Revenge of the Previous: マウンテンビューへの道のり

「オープンソース」の起源

そうした戦略のアウトラインを考えるのは簡単だった。『伽藍とバザール』で私 がいち早くとりあげた、実用面からの議論を採用し、それをさらに先へ進めて、それを 強力に、公開の場で売り込むことだ。Netscape自身も、投資家たちに対してこの 戦略がキチガイじみたものでないということを説得するという利害があったので、 かれらがこのプロモーションに協力してくれるのはまちがいなく期待できた。さ らに、かなり早い時期にTim O'Reilly(そしてかれを通してO'Reilly & Associates)を仲間に引き入れた。

しかし、本当の躍進は、我々が開始する必要があるのは要するに マーケティングキャンペーンであり、マーケティングの手管(イメージ作り、 言語操作、新たなブランドづくり)が必要なのだと我々自身が認めたことであった。

このとき、2月3日にマウンテンビューにあるVAReserch社で開かれたミーティン グで「オープンソース」という術語が、後にオープンソース運動に(そしてつい にはOpen Source Initiative organizationに)なった集まりの最初の参加者達に よって、発案した。

振り返ってみると、「フリーソフトウェア」という用語は何年にもわたって我々 の活動に途方もない損害をもたらして来たと、我々ははっきりと感じていた。 一因として、よく「フリースピーチ(言論の自由)/フリービール(無料のビール)」 として引き合いに出される曖昧さが原因にあったが、ほとんどの原因はもっと悪 い所――「フリーソフトウェア」という用語が知的所有権への敵意、共産主義、 そして、MIS [*] マネージャに慕われることの まず無さそうなその他の考えと強く結び付いていた。

FSFがあらゆる知的所有権に反対しているわけではない、とか、その立場が厳密 には共産主義的ではない、とかいう議論はここでは問題ではなかったし、いまで もそれは議論の本筋とは関係ない。我々だって、FSFがそういうものでないこと はわかっている。われわれがNetscape社のソースコードリリースのプレッシャー のもとで気がついたことは、FSFの実際の立場は関係ないのだ、ということだっ た。実際に関係あるのは、かれらの伝道の試みが失敗して逆効果に終わった(つ まり、業界誌や企業世界の頭の中で、「フリーソフト」がこうした否定的なステ レオタイプと結びつくような結果をもたらした)ということだけなのだ。

Netscape社の発表以後の我々の成功はネガティブなFSFステレオタイプを、高度 な信頼性やローコストでより豊富な機能を持つという経営陣や投資家に甘く聞こ えるような我々自身の実用主義的な話でポジティブなステレオタイプと置き換え ることに掛かっていただろう。

通常のマーケティング用語で言えば、我々の仕事は商品のブランド名を変えて、 企業の世界がすぐに買いたがるようなものへとその評判を高めていくことだった。

Linus Torvaldsは最初のミーティングの翌日にこの考えを支持した。我々はそれ から数日中に、その考えに従って行動を始めた。Bruce Perensは一週間もしない うちにopensource.orgのドメインを取得し最初のオープンソースのWebサイト [*] を作成した。それから彼はDebian [*] のフリーソフトウェアガイドラインを「オープンソースの定義」 [*] にしようと提案し、OSDに適合した商品だけに「オープン・ソース」であること を示す認定マークの使用を合法的に求めることができるように、「オープン・ソー ス」を登録する手続きを始めてくれた。

戦略を遂行するための個別の戦術でさえ、この初期の段階にすでにはっきりして いるように思えた(そして最初のミーティ ング時にきっちりと議論された)。キー テーマは以下の通りである。

ボトムアップを忘れろ、トップダウンで動け。

最も明確に思われることの一つはボトムアップ福音主義(プログラマー達がその 上司を合理的な理由によって納得させることに依存すること)というUNIXの伝統 的手法は失敗して来たと言うことだ。これはナイーブな手法であり、Microsoft 社によって容易に打ち負かされた。更に言えば、Netscape社の躍進はこの手法で起き たのでは無い。それは戦略的な決定者(Jim Barksdale)が何かしら糸口を掴み、 それを彼の部下達にその構想をつっこんだために起きたのである。

結論はまちがえようがなかった。ボトムアップで働く代わりに、我々はトップ ダウンで伝道しなければならない―― CEO/CTO/CIOというタイプの人間を捕ま える直接的な努力をすべきなのだ。

Linuxがデモ用事例として最高である。

我々として一番押すべきなのは、Linuxを売り込むことでなければならない。も ちろんオープンソースの世界には他のプロジェクトもあるし、この運動はその 方面には敬意をはらう。しかし、開始時でいちばん知名度が高かったのはLinux で、ソフトのベース(普及度)も高く、最大の開発者のコミュニティを抱えてい た。もしLinuxが突破口をまとめあげることができないようなら、現実的な問題 として、ほかのものを核に突破口を開くなどというのは、実現はおろか祈るこ とさえおぼつかない。

Fortune500の大企業を捕まえろ。

Fortune500企業以上にお金がたくさん流れている市場セグメントもあるにはあ る(SOHO [*] 分野はその最も明らかな事例である)が、これらの市場は拡散していて、相手に するのがむずかしい。Fortune500の企業は単に金を持っているだけではない。 コンタクトが比較的簡単なのだ。従って、ソフトウェア産業は主に、 Fortune500企業の市場に言われたとおりに動くことになる。だから、我々 が説得すべきなのは、主にFortune500企業なのである。

Fortune500の企業に読まれる一流メディアを巻き込め。

Fortune500の企業を目標とするという選択は、我々が最高責任者や投資家達の 間の考えの潮流を形作るメディアを捕まえる必要があることを意味している。 特に具体的に言うと、NewYork Times、Wall Street Journal、Economist、 Forbes、Barron's Magazineなどである。

コンピュータ業界の専門誌を取り込むことは必要だけど、それだけでは十分で は ない。むしろ専門誌の取込みは、これら主流のエリート・メディアを通じてウォー ル街をかき回すためにどうしても必要な前提条件、ということになるわけだ。

ハッカーたちにゲリラマーケティング戦術を身につけさせろ

ハッカーコミュニティ自体を洗練することはメインストリームへ働きかけるの と同様に重要であるということも明確であった。 草の根レベルでのハッカーたちが効き目のない議論をしていたのでは、いくら 相手に訴えかけることのできる言葉を話せる人がほんのわずかいたって不十分 である。

物事を純粋に保つためにオープンソースの証明書(オープンソース認定マーク)を使え。

我々が直面していた脅威の一つは「オープンソース」という用語がMicrosoft社 や他の大きなベンダーによって「取り込んで独自拡張」されて原型を損ない、 我々のメッセージが失われる可能性であった。この理由でBruce Perensと私は 「オープンソース」を証明の証として登録し、「オープンソースの定義」 (Debianのフリーソフトウェアガイドラインのコピー)と結び付けることを早々 に決定した。これは法的行為による脅威を伴った悪用の可能性を追い払うのを 可能にするだろう。

我々が直面していた脅威の一つは「オープンソース」という用語がMicrosoft社 や他の大きなベンダーによって「取り込んで独自拡張」されて原型を損ない、 我々のメッセージが失われる可能性であった。この理由でBruce Perensと私は 「オープンソース」を認定商標として登録し、「オープンソースの定義」 (Debianのフリーソフトウェアガイドラインのコピー)と結び付けることを早々 に決定した。これでこの用語を悪用する可能性のある連中を、法的措置によっ て追い払えるようになる。



Takashi.Nakamoto
7/4/1999