吉山あきら(yosshy@debian.or.jp)
(山形コメント:ハロウィーン文書の記述の不十分な点や見落とし、誤りについて、Linux の有力配布パッケージ Debian を日本語化している Debian JP の吉山さんが、内容の誤りや補足をしてくれたので、ご紹介しよう。やんなきゃと思ってたところへ渡りに船。ありがとうございます。ぼくが付け加えることは何もないくらい。
なお、この Debian 、文中では Slackware や SuSE なんかといっしょに「じり貧」とか書かれていたが、まったくのウソ。著者は商業パッケージに目がいってしまうようだけれど、ESR もコメントしているとおり suSE は健在だし、Slackware も一時ほどではないけれど、まだまだ愛好者は多い。あまり世話焼きでない分、ユーザが自分で何をやってるのかコントロールしやすい点で評価されている。また Debian も、パッケージの扱いが先進的で、しかも全部フリーなので根強い人気を誇る。
以下、緑で書かれているのは吉山さんのコメント。また、かなり蛇足ばっかながら赤字は山形の追加コメント。それ以外の黒字は基本的には原文からの引用となっている。またコメントは字下げが入ってるから、それでもわかるはず。)
原文に対する最新の技術的・マーケティング的な情報を記述してみ
ました。ご参考頂ければ幸いです。
→2.1.127 の付属文書 ~linux/Documentation/fb/framebuffer.txt より
0. Introductionつまり、GGI を取り込んでできたこのフレームバッファ API によってハー ドウェアが抽象化され、アプリケーションがハードウェアの差異を意識しな くても済むようになる、という事です。事実、フレームバッファを用いた X サーバはバイナリが1つしかありません。何より脅威なのは、グラフィック アクセラレータドライバのメーカがバイナリとしてドライバを配付する事が 可能なことです。実際、そうした前例もあります。
---------------The frame buffer device provides an abstraction for the graphics hardware. It represents the frame buffer of some video hardware and allows application software to access the graphics hardware through a well-defined interface, so the software doesn't need to know anything about the low-level (hardware register) stuff.
The device is accessed through special device nodes, usually located in the /dev directory, i.e. /dev/fb*.
# 最初に supermount を使用した時はショックでした。もはや UNIX とは言えない利便性に。
→他にも、自動マウントファイルシステム autofs、自動マウントデーモン amd 等が利用されています。また、setuid された mount 専用アプリケーショ ンもありますし、何より Linux では /etc/fstab のオプションでユーザに 特定のファイルシステムのマウント/アンマウントを許可する事ができます。 もっとも、mtools を使えばマウント作業すら不要ですが。
(山形註:あと、文中にあった KDE も、最近はそのウィジェットである Qt ライブラリが次期バージョンからオープンソース化されることになって、いまより普及が進むでしょう)
しかし、マイクロソフトの分析には Linux が得た(得る)ものが何か、とい う記述について明らかに不足している部分があると私は考えています。まず、ソフトウェアに関してですが、彼らは(マーケティング的な観点から) 確かに PC 用の実用的 OS 、MS-DOS を作り出し、それを世に広めました。例 えば、MS-DOS の優れた機能の1つとして、リムーバブルメディア利用の容易 さ、モジュール化されたデバイスドライバ機構など、メーカ/ユーザの両面の 利便性が挙げられるでしょう。これによって様々な企業によるハードウェア・ ソフトウェア文化が開化し、今日の PC 文化の礎になった事は紛れもない事実 です。
ところが、彼らは今その逆を行っています。 OS だけならまだしも、オフィ ススイト、開発環境、データベース、ネットワークサービスの全てを自社で作 り、そのシェアを伸ばして各分野の競合他社の撲滅に乗り出しました。彼らは、 確かに一切の競合他社を Windows から追い出すつもりです。
しかしながら、この戦略が成功するためには、他にスタンダードとなり得る OS がないという前提が必要です。乗り換えるべき OS があると、マイクロソ フトに Windows を追い出された連中は全て、生き残りをかけて新天地、代替 OS に集まってくるでしょう。代替 OS が1つであれば、その分パワーも集中 する事になりますので、十分マイクロソフトに対抗し得る勢力になります。新 天地には、彼らが 10 年前に見た素晴らしい未開の大地(マーケット)が広がっ ているからです。
マイクロソフトが OS という自社の根本の利益を求めるなら、他の OS に塩 を送るような真似はしてはならないのでしょうが、短期的な利益を求める余り、 彼らは道を誤ってしまっています。彼らがこの事に気が付かない限り、2年程 で Linux、あるいは BeOS あたりの OS がビジネスユースに耐える OS となり かねません。Windows 用のソフトを作るのはもはやマイクロソフトだけ、そん な世の中が近いうちに来るかも知れません。
また、ハードウェア的な観点も不足しています。
かつて NT でサポートしていた MIPS や PPC (いずれは ALPHA も)等のアー キテクチャをマイクロソフトは捨ててしまいました。同様に、68k はアップル に捨てられてしまいました。SGI も MIPS を捨て、P2 マシンに走るといいま す。Sun は Sun3 までは 68k を使っていました。彼らが今手にしているもの はもちろん、彼らが捨ててきたものを Linux は全て拾っています。また、 Amiga、Atari、FM-Towns、PC-98x1 などのアーキテクチャ、286 までの PC/AT も(制限はかなり大きいですが) Linux は全て拾っています。捨てる神あれば 拾う神あり。Linux はコンピュータの「拾う神」と言えます。
また、今ある PC が非力とは私には思えません。マルチタスク OS を動かす には十分な性能、かつてワークステーションと呼ばれた高級マシンと同等以上 の性能を持っています。これは、数多の PC-UNIX による Web サーバが何より の証明となるでしょう。しかしながら、マイクロソフトは今、更に複雑かつ巨 大な OS を作り上げようとしています。Windows2000 はソースコードで NT4.0 の約2倍の量があるといいますから(山形註:2 倍なんかじゃと てもきかない、という話を聞きましたが……)、ハードウェアに要求するスペックはそれ なりに大きくなるでしょう。1.5 倍で済むかも知れませんし、3倍になるかも しれません。こうなれば、今ある PC の多くが実用的に Windows を動かすこ とが出来ない事も考えられます。つまり、彼らが新しい OS を作り上げるとい う事は、今あるPCの多くを見捨てる結果となります。
捨てられていたから拾う、ただそれだけなのですが、 OS として十分な機能 と、 OS を生かすアプリケーションがあるのならば、 OS を乗り換えようと考 える動きが出てもおかしくありません。彼らが捨てる、Linux が拾う……これな ら Linux のシェアが上がるのは無理のないことです。