第5回 ファイナンス・ストラクチャー(資本構成)

 

 さて、株の話がたくさんでてきて、ぼくたちが本当にやりたかったことをちょっと忘れかけてるかもしれないので、おさらい。

 しかし、大事なところが残っている。企業のバランスシートを見てやると、左手に「資産」(Asset)がある。右手に「Equity」(出資者の出した資本)と「Debt」(負債)がある。ぼくたちが知りたいのは、Assetの割引率(キャッシュフローを生んでるのは、この資産なんだもん)。でも、株の割引率/期待収益率ってのは、Equityの部分だけのものだ。じゃあ、このDebtの部分は? それが今回のテーマ。

2. 資金繰り、ということ

 もう一つ、今回の話で大事なポイントがある。いままでみてきた企業(あるいは事業)というのは、借金をしなかった。赤字(マイナスのキャッシュフロー)が出たら、それはそれでオッケーということになっていた。

 実際の企業は、こうはいかない。

 たとえば日本の企業は、8割以上が赤字決算を出すと言われる。むかしは、赤字の企業はつぶれるもんだと思っていたので、「それでどうして世の中続いてるんだろう」と思ったけれど、いまのきみたちは答がわかるはず。決算は会計上のものだ。会計上の決算は、減価償却とかが入っていて、実際の手元のお金とはちがうわけだ。
だから赤字決算が出ても、実は困る人はいない。むしろ税金のがれの手法として、わざと赤字にするようなことだってするわけ。推奨はされないけれど、でもみんなやりたい。変に利益を出して税金払うくらいなら、コンピュータ買っちゃって赤字にしろ! というのはよくある話だ。

 それでもみんなが決算上の赤字黒字を気にするのは、とりあえずそれが公式のデータだってことと、あと赤字ばっかりだしてると「なんだ、この会社は儲かってないじゃん」という印象を与えるおそれがあるから。だから上場企業は、少しでも黒字を出して、うちはちゃんと儲かってます、健全です、というメッセージを株主に伝えようとする。

 あと、そういう見方しかしらない人が多いということもある。

 しかしキャッシュフローがマイナスになったら、これはまずい。これは払うものが払えない、ということだ。これはまずい。その時点でその企業は、不渡りを出して倒産することになる。たとえ来年は大量にキャッシュフローがあって、NPVが大黒字でも、今年払うべきものが払えなかったらダメ。事業としてのすばらしさと 、企業としてのできの良し悪しは、必ずしも一致しない。そしてこれは、両立しなきゃなんない。

 だから企業は資金繰りというのを考える。そしてそのなかで、お金を借りるという話が出てくるわけだ。バブル期の不動産屋は、事業ではぜんぜんもうかってなかった。でも、銀行がどんどんお金を貸してくれたから、金回りはよかった。それでみんな羽振りがよかった。いまは、事業的には問題なくても、貸し渋りにあって金がなくて倒産してしまう企業もある。

 したがって、企業がどうのという話をするときには、この両方の話ができなきゃなんない。しかもこの両者を区別して話をしなきゃなんない。 (ただし資金繰りそのものの話は今回あまりしない)
 

3. 借金のいろいろ

 借金にもいろいろあるけど、あんまし細かいことは知らなくていい(細かいことは、時期によってガシガシ変わるので説明できないってのもある)。

3.1 銀行で借りるのと、債券を発行するのと

銀行の短所 銀行のいいとこ 債券の短所 債券のいいとこ

3.2 長期借入と短期借入

 短期というのは、5年以内に返し終わる借金、だったかな? 3年だったっけ。長期というのはそれ以上のもの、というのが大体の区別。
 さて短期と長期では、ほかの条件さえ同じなら金利はどっちが高いだろうか? 当然長期だ。20年後にこいつがいて金を払ってくれるかなんてわかんない。でもそれなら、なぜ人は利息の安い短期の借入ばかりしないのか? 短期のを借りて、借り換えを繰り返せばいいではないの。そうしない理由はいくつかある。  結局のところ、よく言われるのがプロジェクトの期間とそのお金の出入りする期間をマッチさせたい、ということ。だから実際には、プロジェクト全体をカバーするような大きなお金は長期で借りて、それ以外のチマチマしたとことを短期で、というのがふつうのやりくち。ただし。ここに明確な鉄則があるわけじゃない。
 

3.3 元金返済と利息

 NPVをなによりも重視するファイナンス屋さんとしては、元金と利息の区別なんてのはほとんど意味はない。利息だろうと元金の返済だろうと、出る金は出る金だ。全期間を通じて、金利を割引率にしてNPVを計算してゼロになれば、どこまで元金でどこまで金利だろうと関係ない。
 しかし会計上はそうはいかない。利息は経費として認められるけれど、元金返済は経費にならない。そして会計上意味があるということは、税金上も意味があることになる。これは各自、自分で考えて。だからおれは会計は嫌いだというのだ。

こういう話をするときは、だいたい「元利均等返済」と「元本均等返済」というのを説明することになってる。元利金等返済ってのは、毎年の返済額が一定ってことね。元本均等ってのは、借りた学は毎年均等に返して、さらにその一年でそれについた利息を上乗せするって方式。でも、実際の借金の支払いなんて、いろいろ融通が利く。「3年据え置き」とかいって、3年は利息だけ払う、とか。あるいはBullet paymentとか baloon payment ってやつは、ずっと利息をためて、それがどんどん複利でふくれあがって、最後にまとめて払うとか。あと、ボーナス時一括とかいろいろ。
 
 

4. レバレッジ効果

 借金というのは、悪いことではない。返せれば、ぜんぜん問題はないし、かえっていい場合だってある。その一つがレバレッジというやつ。
 仮に、こんな事業があったとする。
 
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
CF
-100
15
15
15
15
15
15
15
15
60
 

 irr = 11% の事業だ。

 さて、こいつらが5%でお金を借りられるとする。そして9年で均等払いってことにしよう。で、プロジェクトの初期投資の半分を借金することにしたとしよう。つまりこういう返済だ。
 
 
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
借金返済 50 -7 -7 -7 -7 -7 -7 -7 -7 -7
 

すると、このプロジェクトの借金返済後の金回りはこんな具合になる。
 
 
 
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
返済後の手取り
-50
12.5
12.5
12.5
12.5
12.5
12.5
12.5
12.5
7.5
 

するとこいつは、irr = 20% くらいになった。事業としては同じだけれど、出資者側としてはうれしいわけだ。

もっとやってみようか。プロジェクトコストの8割くらい借金してしまおう出はないの。するとどうなる?
 
 
 
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
CF
-100
15
15
15
15
15
15
15
15
60
返済
80
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
-11.3
手取り
-20
3.7
3.7
3.7
3.7
3.7
3.7
3.7
3.7
48.7
irr=23.6!
 

 これがレバレッジだ。借金、つまりレバー(てこ)を入れることで、リターンがかさあげされるというわけ。単純に考えればわかるよね。10%ずつ金が入ってきてるのに、返すのは5%でいいんだもん。借金を増やせば増やすほど、手取りの収益もあがる。

では、なぜみんな借金をガンガンしないのか? 投資家はすごいリターンが得られてうれしいじゃないか。銀行は金をたくさん貸せてうれしいじゃないか。なぜみんな99%まで借金してしまわないんだろうか。いや、100%借金だっていいじゃないか。

 借金100%の会社ってのは、つまり倒産してるわけだ。だからそんな企業はない。

 それともう一つ、借金ゼロのときには5%で借りられるかもしれないけれど、借金90%になったときに次の5%分を同じ金利で貸してもらえることはたぶんありえないんだ。借金が増えれば増えるほど、その会社は倒産に近づくわけだから。

 そして、貸し手にとってのリスクを考えてみよう。上の事業計画を見れば、なるほどもっともらしい。しかし、ひょっとしてこいつらがこんなことをたくらんでいたらどうだろう:

「この企業、実は何もしないでいようぜ。それで借りた金は、そのまま『営業利益』として株主に配当として出してしまおう。そしてしばらくしたら、倒産させちゃって、借金は踏み倒そう!」

 もしこいつらの出資分が資産の90%なら、倒産させたらこいつらはこの90をなくしてしまうわけだ。10の借金をかすめとるために90を犠牲にするやつはいないだろう。でも、借金の率が多くなってきたら? 99%借金で出資分が1なら、倒産して1を犠牲にするだけで99手元に入るというおいしい商売ができる! 借金の比率が高くなればなるほど、株主がそういうことをたくらむインセンティブはある。貸す側にとってもリスクは大きくなるわけだ。
 
 というわけで、おのずとそこんとこでバランスはあるんだろう。貸し手も、借り手も、みんなうれしい最適な負債の水準ってのが、理論的にちゃんと求まるはずだ・・・・・・と思うのが人情ってもんだよね。

 じゃあ、最適な借金の額ってどのくらいなんだろう。
 
 

4.モジリアニ&ミラーの法則

4.1 ピュアな世界では、最適な借金なんてない

 バランスシートのうち、どれだけが負債でどれだけが資本(エクイティ)か、という比率を資本構成(Capital Structure)という。で、これを D/E ratio とかいう。

 さて「最適な借金」というのはつまり、最適な D/E レシオがどっかにあるだろう、ということだ。歴史的にも、みんなそう思っていたし、いまもみんなこのD/E比を一生懸命気にして、企業財務の分析ではこれが多すぎるの少なすぎるのいう話をすぐしたがる。だから、どっかに適性水準ってものがあるにちがいない。そしていろんな企業を見ると、同じ業種だとそこそ似たような比率になってるから、たぶん企業の事業特性と何か相関があるんだろう、というのがふつうの見方だった。

 でも、この見方はほぼ完璧に崩れている。

 そもそも、ここでいう「最適」ってどういうことだろうか。ここは、負債もいっしょに考えてるから、「株価最大化」だけではちょっと足りない。企業の全体としての価値が最大化する、ということを考えるのがいいんじゃないか。こう思い付いた人が出て、いまの話がナンセンスだということがはっきりしてきた。
 
 バランスシートを見てみよう。企業の価値をつくるのは、左側の資産のほうだ。そこからキャッシュフローが生まれて、それが企業や事業の価値となる。
 例として、話を車に置き換えてみる。車を買うときに、ポケットマネー(資本、エクイティだ)とローン(負債ね)で買ったとする。でも、どんな組み合わせで買っても車は車だ。車の価値は、車そのものからくるんであって、それをどういう資本構成で買ったかってことではない。でしょ? 頭金が増えると、車そのものの値段は下がるか? 下がんないよね。

 このあたりまえのことに気がついたのが、モジリアニ&ミラーの二人組。で、かれらの理論が、モジリアニ&ミラーの法則、略してM&M。「Capital structure doesn't matter!」

 するとどういうことか?

 ことばで説明するとこういうことだ。結局企業ってのは、資産を使ってある一定の収益を得るわけ。で、それを出資者と融資者がとりあう。片方があがれば片方が下がる。それだけのことだ、というわけ。

 そしてこのとき、リスクはどうなるかといえば、

でも、負債の返済は、企業が倒産しない限り変動しないから、負債のベータはゼロだと考えていい(場合が多い)。だから;

4.2 WACC (Weighted Average Cost of Capital)

 さて、この結論にはみんな困った。だって世の中のファイナンス担当とか財務担当の人って、適正な負債比率がどうのこうの、とごたくをたれて給料もらってるんだもん。しかし反論のしようがなかった。だって、まったく理論的には穴がないんだもん。ただし、その前提を除けば。

 というのも、企業のあがりをもっていくのは、投資家と融資家だけじゃない。政府が税金という形で上前をはねる。前に述べた通り、借金の利息分は経費になって、その分税金がやすくなる。すると、それは企業の価値をあげるはずではないか!

 ごもっとも。
 

 というわけで、これを含めた式を考えてやろう。税金とられない分、負債の価値はあがる。つまり割引率は下がる。税率をTとすると+
 

となる。これがWACC (Weighted Average Cost of Capital)というやつ。資産や事業のリターン(割引率)は、負債と資本の割引率の加重平均(に税金をちょっと考慮したもの)だよ、というわけ。

 本職の一番ごりごりしたファイナンス屋さんはさておき、ふつう人が企業や事業を考えるときには、これがいちばん多く使われる。大きなポイントはおさえているし、理論的にもきちんとしてるし。というわけで、最適な借金の額はでなかったけれど、資産のリターンを求める式が出た。これとキャッシュフローがわかれば、もうファイナンスはすべて制覇したも同然。
 

リスクの話は同じだ。

でも、負債の返済は、企業が倒産しない限り変動しないから、負債のベータはゼロだと考えていい(場合が多い)。だから;  
 

5.でも借金はどうなった?

 実はM&Mの話には続きがある。株主は配当をもらうと、それに税金がかかるんだけれど、そのかかり方によってなにを評価するかちがうだろう、という話。本当にごりごりのファイナンス話をするなら、そんなものも考えなきゃならないかもしれないけれど、でもそうなったらほかにも考えるべきことが山ほどある。

 で、確かに借金はどうでもいいというわけではないし、資本構成もどうでもいいわけではないんだが、しかし決め手となる理論というのはない。これを決める根拠というのはこんな感じ:

 資金繰りに行きづまらない、というのは、初期投資額と将来のキャッシュフローをみて、それに借入金&返済をいれてやってどこの年でもマイナスにならないようにあんばいしてやるってことだ。

 返済に困らない、という指標は、通常はDSRC (Debt Service Coverage Ratio)というのを見てやる。税引き前のキャシュフローが、借金返済額(元利あわせて)の何倍あるか、という指標。これが1を下回ったら、そもそもこいつは借金が払えないから倒産するってことだ。 じゃあこれはいくつあればいいのか? それは業界による。すごく安定した産業なら、1.5くらいあればいいんじゃない? でも非常に上下の激しい産業だと、大目にみて3とか4とか、もっとないとつらいかもしれない。これは非常に重要な指標だし、金貸しはとっても気にする。

 そして同業他社なみというのは・・・・・・まあ言わずもがな。