血も涙もないファイナンス講座

第2回教材

98/05/03
山形浩生

キーワード:キャッシュフロー、収入、支出、ビジネスプラン、投資、法人税、節税メリット、減価償却、資金調達


1. キャッシュフローの出し方

 前回聞いたら、ほとんどの人はこれまで収支を組んだことがない、とゆー話だった。ご心配なく。キャッシュフローの考え方は、そのほうがかえって理解しやすかったりする。どんな事業を考えるときでも、だいたい以下のようなステップでものを考えよう。他人がつくったキャッシュフロー予測を見るときでも、まず自分でこんなステップを一通り考えてから見ると、何を向こうが考えてるのかわかる。

1.1 収入と支出と儲け

 では、初歩の初歩から。キャッシュフローとはなんぞや? 手元に実際にあって自由になる金、と思ってくれ。

 300円で高級カボチャを仕入れて、上見て(たとえば500円)で売る商売をする、としよう。キャッシュフローはこんな具合だ。

収入:売り上げ 500円
支出:原材料費 300円

利益:     200円

キャッシュフロー200円

 もうけ(利益)の200円は手元に残って、きみが好き勝手に使える。これがキャッシュフローだ。おしまい。キャッシュフローとはこういう話なのだ。
 ただし、実際に事業をすると、ほかにもいろいろお金がかかってくる。落語じゃないんだから、まあカボチャも一個じゃなくて、手持ちのトラックでたくさん売ることにしようか。するといろいろ物いりだ。たとえば;  というわけで、支出のほうは、もっともっといろいろ細々出てくる。
 売り上げは、まあお値段に販売数量をかけ算すれば求まるから、まあたかが知れてる。でも、売り上げは将来どのくらい伸びるだろう。値段がどうなるか。アイテムがたくさん出てくると、面倒はさらに増える。いろんなことを考える必要が出てくる。この地域のとうなす消費はどれだけ増えるかな? やっぱ人口と関係ありそうだ。あるいは、かぼちゃを健康食品として売り込む一大キャンペーンをやったら? 

 経費に関しても同じだよね。それぞれの項目について、いろんな条件や変化要因があるだろう。これを将来にわたってずっと予想してやるのがキャッシュフロー計算の主な作業。どこまで細かく考えるかは、目的(と調査費)次第だわな。一番簡単なのは、「この手の事業だと売り上げの60%くらいコストがかかるもんなのよー」というのをそのぎょーかいの人に教わって、それでぶち込んでしまうこと。そうでなければ、個別にチマチマ見ていこう。でも、おおむねこれって、売り上げと比例するか、年X%でのびるとか想定するくらいしかないんだけどね。でも、人件費でも常勤とパートにわけるとか、細かくしようと思えばいくらでも細かくなる。

 ただしよくあるのが、細かくしすぎて、大勢に何も影響ないところをコチャコチャつつきまわしてること。全体像は見失わずに。大きな影響はどこで出てくるか? どのくらい幅をもって考えるべきか? これを考えながら作業すること。
 
 ここで考えているのが、前回やったいろんな「リスク分析」と同じことだ、というのは気がついているかしら? ファイナンス屋にとってのリスクというのは、キャッシュフローがどんだけ振れるか、という話でしかない。だから、ここでのいろんな条件を考えることは、すなわちリスクを考えることなんだ。

 一つポイントになるのが、インフレというやつなんだけれど、これは一言「実質価格でやりました」といえば無視できる。 この話はいずれする。
 
 

1.2 ビジネスプラン

 こういうことをいろいろ考えるうちに、だんだんここで何をしたいのか、というとうなす屋のイメージが出てくるよね。自分で何かするだけじゃなくて、将来的に他人に対し、出資しろとか金を貸せとか言うときにもこれは絶対必要になる。こんな感じかな。

「ここは新興ニュータウンで、4000世帯入ってる。しかもこれからどんどん世帯数が増える。毎年300世帯くらいが増えるな。だいたい日本の世帯は、一世帯月に10個くらいかぼちゃを食べるから、年間のかぼちゃ需要は48万個で、それが毎年36,000個くらい増えてくんだな。しかし近くにでかいスーパーもあるし、八百屋もあるか。需要を全部いただくのは無理だね。じゃあ、おれは新鮮さと値段と、こっちから出向く利便性で勝負することにしよう。それで年間4万個くらい売って、それが毎年1万個増える、という感じで商売してみよう。トラック一台で、一日200個売るのか。きついが、ここの住宅の感じだと不可能ではないか。近くの高級レストランでも高級カボチャの需要が1日80個くらいあるし。なんとかなる感じだな。じゃあやってみよう」

 これがこのとうなす屋の、「ビジネスプラン」というヤツだ。これは、どんなビジネスを見るうえでも絶対に理解しなきゃいけない。マーケットはどこか、その見通しはどうか、そこに対する競合はどんな感じか、そしてそこで勝負するための強みはなにか。書き方は、もっともっともったいつけるけど、考えてるのはこういうことだ。

 そこでこにビジネスプランに基づいてこのとうなす屋のキャッシュフローを10年分くらいつくって見ると、こんな感じで出てくる。ただしこれは、法人税を払う前。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー その1 (単位100万円)
項目
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
コメント
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
BP参照。初年度は立ち上がりで少な目
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
上に同じ
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
自分の給料700万、昇給とパートで年100万増
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
売り上げの25%。運転資金増分含む
収益 -1.8 0.8 1.5 2.3 3 3.8 4.5 5.3 6 6.8 収入から支出を引く
CF -1.8 0.8 1.5 2.3 3 3.8 4.5 5.3 6 6.8

 
 ここまでできたら、もう一回いろんなものがバランスとれてるかどうか、チェックしよう。こんなに事業が増えたら、人だってもっと増えるんじゃないの? 最初は一人でやってるけど、それは反映されてるかな。メンテナンス費用も、一定でいいのかな? やっぱ軽トラックはボロになってきたら、だんだんメンテ費はあがるんじゃないの? それと一台ではやっぱ、売れる量に限界があるんじゃないかな。軽トラック一台で一日かぼちゃを400個も500個も毎日売るのは不可能じゃないの? やっぱ一日320が限界じゃない?  ということで、ちょっと修正してみようか。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー その2 (単位100万円)
項目
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
コメント
収入
10
25
30
35
40
40
40
40
40
40
その1と同じだが5年目以降頭打ち
支出: 材料
4
10
12
14
16
16
16
16
16
16
上に同じ
人件費
7
8
9
10
11
11
11
11
11
11
自分の給料700万、昇給とパートで年100万増
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
10
10
10
10
10
売り上げの30%。運転資金増分含む
収益 -1.8 0.8 1.5 2.3 3 3 3 3 3 3 収入から支出を引く
CF -1.8 0.8 1.5 2.3 3 3 3 3 3 3

 
 では問題:


2. 投資

 さて、とうなす屋といえどもゼロからは始められない。開業に先立って、いろんな投資が必要になる。まえの節では、手持ちのトラックを使うことにしたけど、そんな都合のいいものが転がってないんなら、販売用のトラックが必要になる。運転資金も必要になる。あとは看板つくったり、開業を届け出て登録して、税金をいろいろ払って、というのが出てくる。もっとでかい事業なら、土地を買ってビルを建てたり、道路をつくったり、もっともっと話は面倒になるだろう。

 これが投資だ。そして投資は途中でもいろいろ出てくる。上を見ると、商売がどんどんでかくなってくる。商売を頭打ちにしてもいいんだけど、でもどっかで追加のトラックを買えば拡張できるではないか。

 というわけで、投資計画をつくろう。こんな感じだ。

「最初は200万のトラックを2台買って、その他こまごましたことをする。まあ、トラックの代金の半分くらいがいろんな手続きや開業費用に消えることにしようか。あと、運転資金で200万必要だな。そしてこんだけ事業が拡大すると、5年目に、新しいトラックを2台買うことにしよう」。

投資計画まで含んだキャッシュフローは、こんな感じだ。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 投資 (単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
コメント
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
BP参照。初年度は立ち上がりで少な目
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
上に同じ
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
自分の給料700万、昇給とパートで年100万増
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
売り上げの25%。運転資金増分含む
投資 8 4
収益 -8 -1.8 0.8 1.5 2.3 -1 3.8 4.5 5.3 6 6.8 収入から支出と投資を引く
CF -8 -1.8 0.8 1.5 2.3 -1 3.8 4.5 5.3 6 6.8
 
 
 投資と経費はちがう、という話を、会社で経費の清算処理のときに聞かされるだろうけど、キャッシュフローを考える場合、この二つはぜんぜんちがわない。投資も経費も、要するに手元から出てく金だ。だから特に扱いを変えたりはしない。ただ、まあ見通しをよくするので別項目でたてておこう。投資まで含めたキャッシュフローは、上みたいな感じになる。これはまだ法人税を払う前

問題:これをもとに、この事業の IRR を計算すること。また、世の中の八百屋の割引率が10%だったとすると、NPVはいくら?


3. Terminal Value

 さて、事業は永遠に続けることにしてもいいんだけれど、通常はある程度切りのいいところで終わらせることを考える。ホントにやめちゃうかはまた別問題だけれど、どっかで一度すっぱり清算すると想定することで、事業としての見通しをよくするわけ。

 どこで切るか? ものによる。だいたい10年とか15年くらいを一つ区切りにするけど、事業としての本領発揮がかなり長くかかるような事業(電話とか)だと、30年くらい見てもいいかもね。 かぼちゃ屋なら、10年やればいいだろう。そのとき、手持ちの資産が残る。それを売り払ったとき、いくらで売れるだろうか? これがTerminal Valueってやつだ。

 この事業だと、せいぜいが中古のトラック2台。百万単位の事業を考えてる時には、ほとんどカスみたいなもんだからあんまり影響してこないけど、 土地や建物やインフラのからんでくるプロジェクトだと、これはすごく大きく効いてくることがある。

 あと、運転資金はもういらなくなるからもらっちゃおう。

 では上の例で、10年目には手元にはトラックが2台あって、2台は10年落ち、2台は5年落ちの中古だ。これを売って、いくらで売れるだろう。まあそれぞれ10万ずつと20万ずつにしとくか(こんなにならないかもしれないけど、でも10年先のこんなせこい金額は、大勢にはまったく影響しないから、議論するだけ無駄)。そして運転資金だけど、100万から始めて少しずつ増やしてるから、150万くらいあることにしよう。てなわけで、事業の頭からケツまでのキャッシュフローはこんなんになる。またまた法人税は払ってない。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 投資 (単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
TV&運転資金
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
0.6+1.5
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
投資 8 4
収益 -8 -1.8 0.8 1.5 2.3 -1 3.8 4.5 5.3 6 8.9 (10年目にのせた)
CF -8 -1.8 0.8 1.5 2.3 -1 3.8 4.5 5.3 6 8.9
 
 
問題:


4 法人税

 

4.1 常識的な法人税

 事業をするんなら、法人税は必ず払わなきゃなんない。払う税金の額は、法人税率とゆーものを利益にかけて求める。で、この税率は
 
 すると、最終的にきみが手にできるキャッシュフローは、この税金分をひいたものってことになる。こんな感じだ。でも、初年度のマイナスは、儲けがないんだから税金もとられないよね。

 あと、日本には損金の繰り越し制度ってのがある。過去5年に発生した損失(収益のマイナス部分)を、今年のもうけにぶつけて法人税を減らせる制度。これは実務では大事だけど、ここで教えようとしてる本質的な考え方からははずれるので、ここでは無視しよう。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 法人税その1 (単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
TV&運転資金
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
0.6+1.5
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
投資 8 4
収益
-8
-1.8
0.8
1.5
2.3
-1
3.8
4.5
5.3
6
8.9
(10年目にのせた)
法人税 0 0 0.23 0.45 0.68 0 1.13 1.35 1.58 1.8 2.66 税率30%
CF
-8
-1.8
0.53
1.05
1.58
-1
2.63
3.15
3.68
4.2
6.2

 
問題:これをもとに、この事業の IRR を計算すること。また、世の中の八百屋の割引率が10%だったとすると、NPVはいくら?
 

4.2 常識的でない法人税: 節税効果

 収益がマイナスなら法人税は払わなくていい。これは常識だよね。払いようがないもん。でも、通常の会社は、事業を複数持ってたりする。そして一つの事業から出る損失で、ほかの事業からでる利益を相殺できたら? その分、税金が節約できるわけだ。そこまで計算に入れてあげてもいいじゃないか、という考え方がある。「損失には節税メリットがある」というわけ。これを適用してみよう。こんな感じになる。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 法人税その2(単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
TV&運転資金
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
0.6+1.5
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
投資 8 4
収益
-8
-1.8
0.8
1.5
2.3
-1
3.8
4.5
5.3
6
8.9
(10年目にのせた)
法人税 -2.4 -0.53 0.23 0.45 0.68 -0.3 1.13 1.35 1.58 1.8 2.66 税率30%
CF
-5.6
-1.23
0.53
1.05
1.58
-0.7
2.63
3.15
3.68
4.2
6.2

 
問題:


5 減価償却

 

5.1 減価償却そのもの

 さて。説明したくないところにきちまったよ。あたしゃこれ、嫌いだ。しかしまあ、避けては通れないんだよね・・・・(ブツブツ)

 減価償却とは何か? 機械とか、使ってくうちに価値が減ってく。同じ車なら、1年落ちよりは2年落ちのほうが安い。その分価値が減ってる。それを会計上でも反映させようという仕掛けが減価償却。

 さて、どう価値が減るか、というのは実際にはよくわからん。そこで、「こんな固定資産なら X年くらい使えるだろう」(耐用年数)、「X年たったらもとの価値のY%くらいに下がってるだろう」(残存価値)というのを税務署が決めてる。そしてその年毎の減り方については、次の2つのやり方がある。

 たとえばトラックなら、耐用年数10年で残存価値10%、という具合(仮置き。実際にどうなってるかは、必要になったときにものの本を見てくれたまえ)。すると、上のそれぞれのやり方で、減価償却とトラックの帳簿上の価値はこんな感じになる。
 
 
表 減価償却:定額法(万円)
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11以降
減価償却
-
18
18
18
18
18
18
18
18
18
18
0
簿価
200
182
164
146
128
110
92
74
56
38
20
20
 
 
表 減価償却:定率法(万円)
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11以降
減価償却
-
41.1
32.7
26
20.6
16.4
13
10.3
8.21
6.52
5.18
0
簿価
200
159
126
100
79.6
63.2
50.2
39.9
31.7
25.2
20
20
対前年比
79%
79%
79%
79%
79%
79%
79%
79%
79%
79%
100%
 
 
 でも、ここで大きな疑問。なんでこんなものを会計上反映させなきゃならないの?

 具体的にどう反映させるかというと、上の原価償却分を経費として計上すんのね。でも、減価償却の大事なところは、それが実際にはだれにも支払われないってこと。これは純粋に帳簿上の操作にすぎない。

 これはいろんな理屈はあるんだけどさ、減税で事業意欲を増すのと、設備の更新を即す(簿価200万のトラックをスクラップにするのは抵抗あるけど、20万ならまあいいかと思うだろう、とゆー話)ためのまったく恣意的な仕掛け、というのが一番正しいと思う。会計屋はガタガタ言うけど、でもまともな理屈って聞いたことないもん。そういうもんだと思っておいて。

 最初に述べた通り、キャッシュフローというのは実際に出入りする金しか問題にしない。だから、キャッシュフローの計算では無視すること! ・・・・・・と断言できれば楽なんだが。しかしながら、法人税は帳簿上の数字にかかってくるんだ。だから減価償却がコストとしてのってくることで、見かけの利益は減るし、だから税金が節約できるのだ! だから、これを経費項目に入れて、あとから「実際には払ってないのよー」ということで足し戻してやろうではないの、というのがよくあるやり方。 こんな感じだ。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 減価償却その1 (単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
TV&運転資金
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
65
0.6+1.5
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
減価償却 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.72 0.72 0.72 0.72 0.72
投資 8 4
会計上の利益
-8
-2.1
0.39
1.14
1.89
-1.36
3.03
3.78
4.53
5.28
8.13
(10年目にのせた)
法人税 0 0 0.12 0.34 0.57 0 0.91 1.13 1.36 1.58 2.44 税率30%
会計上の収益
-8
-2.1
0.27
0.8
1.32
-1.36
2.12
2.65
3.17
3.7
5.69
減価償却戻す 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.72 0.72 0.72 0.72 0.72
CF -8 -1.8 0.63 1.16 1.68 -1 2.84 3.37 3.89 4.42 6.41
 
 
 純粋なキャッシュフロー屋(おれとか)は、これを経費の支出項目にのせることにすごく抵抗がある。「実際に出てってないいかがわしい代物を経費に載せるなんて!」というわけ。減価償却に節税効果があるんなら、その分を計算してキャッシュフローに上乗せしてくれ、そのほうが気分いいぞ、という話。ただしこれは、純潔キャッシュフロー屋以外にはあまり理解されないので、人を見て使うように。
 
 
表 とうなす屋キャッシュフロー with 減価償却 style2 (単位100万円)
項目
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10+TV
コメント
収入
15
25
30
35
40
45
50
55
60
67.1
支出: 材料
6
10
12
14
16
18
20
22
24
26
人件費
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
その他費用
3.8
6.3
7.5
8.8
10
11.3
12.5
13.8
15
16.3
投資 8 4
利益
-8
-1.8
0.8
1.5
2.3
-1
3.8
4.5
5.3
6
8.9
法人税 0 0 0.23 0.45 0.68 0 1.13 1.35 1.58 1.8 2.66 税率30%
収益
-8
-1.8
0.53
1.05
1.58
-1
2.63
3.15
3.68
4.2
6.2
減価償却 0.36 0.36 0.36 0.36 0.36 0.72 0.72 0.72 0.72 0.72
減価償却節税効果 0.11 0.11 0.11 0.11 0.11 0.22 0.22 0.22 0.22 0.22
CF -8 -1.8 0.63 1.16 1.68 -1 2.84 3.37 3.89 4.42 6.41
 
 
問題:これをもとに、この事業の IRR を計算すること。また、世の中の八百屋の割引率が10%だったとすると、とうなす屋のNPVはいくら?
 
ところで、ここでちょっと余談(とはいえ、マネーゲームとしてのファイナンスの核心にせまるものではあるんだけど)。

 この3つから、なにか事業をおもいつかないだろうか? ここを見よ
 
 

5.2 減価償却とTerminal Value

 さて、ますます話はややこしくなってくる。減価償却というのは、帳簿上に残るのだ。同じ車でも、10年たつと、帳簿上の価値は減価償却しただけ減る、ということになってる。10年後の ついでに言えば、固定資産税とかいろんな保有税も、この帳簿上の価値(簿価)に対して支払うことになる。だからほんとは、公租公課の計算でもこれを気にしてやる必要はある。  さて、それを上では10万だ20万だで売る、ということになる。帳簿上は20万の価値があるものが、10万でしか売れなかった。差額の10万は、損金になるんだ。これはもちろん、実際の損金じゃない。でも、節税効果はある。だから、節税分だけを足し戻す。逆に、帳簿上の価値が10万しかないのものが30万で売れたら、収入になるのは差額の20万だけ。税金がかかるのもその分だけ。実際には30万手元に入ってきてるのにね。

 あと、よく考えてみると、運転資金放出分の150万は別にとうなす屋の売り上げではなくて、手持ちを放出しただけだから、法人税はかからんな。

 じゃあ、これを反映した形で上の表をつくりなおしておくれ。お疲れさま! キャッシュフローの話はこれでだいたい終わった。
 
 
問題:


6 Sunk Cost(埋没費用と訳すが、このことばはださいから嫌いじゃ)

 続いてとってもむずかしい(というかつい忘れがちなこと)が出てくる。いま、投資をしようかしまいか考えている時点がある。それ以前に起こったことは、いっさい考えないこと!
 
 たとえば、隣あわせに似たようなビルが完成して、売りに出たとする。ビルそのものは同じなんだけど片方は地盤が悪くて開発に100億かかり、片方は10億しかかかんなかったとする。でも、買う側はそんなの関係ないでしょ。この先そのビルを使ってどれだけ商売ができるか、ということにしか関心がない。だからどっちのビルにも同じ値段(たとえば15億とか)しか払わないよね。「うちは地盤が悪かったんだからもっと高く買ってくれ」といえると思う? そんなの知ったこっちゃないよね。地盤改良のコストは「沈んだ(sunk)」コストだから、もうとりかえしがつかないし、問題にしちゃいけないわけ。
 
 これが開発前だと話がちがう。まだ地盤改良をしてない段階で、この開発にいくら出すという話をする場合には、地盤がまずいから、というのをちゃんと値段に織りこまないといけない。
 
 人情としては、やっぱ100億かかったら「もとをとらなきゃ」と言って、130億もらわないと売れないとか言いたくなるよね。でも、それは不合理な考えなのよ。15億でしか売れないビルは、15億でしか売れないわけ。もう使っちゃった100億なんか、心配してもしょうがない。「失敗したな」と思ってあきらめて、15で手をうって次の話に進まなきゃいけない。その100億は、いまはもうないんだから、実在しないんだ。

 「この土地は10億で買ったんだから、それじゃもとがとれない」「この技術は100億かけて開発したんだから、そんな単価じゃもとがとれない」とか言われると、つい少しさかのぼって「投資:100億」とか入れちゃいそうになる。でも、それはやっちゃだめ。昔の話は昔の話で、いま一番いい利用をするにはどうしたらいいか、それだけに注意を払うこと。

 「愛と同じよ。愛するためには、過去を忘れることが必要なのよ」((c)読書猿)。大事なのは未来だけ。


7 資金調達:または「ダメな事業はセクシーなファイナンスでは救えない」

 資金調達は考えてはいけない(まだ)。無視するように。  といっても、これでは何を無視すればいいのかわからないんだよねー。

 まず、資金調達とはなんぞや? ここまでだと、最初の投資の金は全部自前のポケットから出すことになってた。でも、それ以外にお金をゲットする方法がある。

 そしてこのそれぞれについて、2種類やり方がある。  融資と出資というのは、融資してもらった金は利息をつけて返す義務がある。出資は、融資のほうの払いが終わって余ったお金があれば、それをあげるよ、という話。資金調達ってのはつまり、この最初の金の出所はどこか、という話。

 通常、人が事業をするときは、出資者側で考えることが多い。この場合、最初に出資しなければならないお金は、借りた分だけ減る。その代わり、毎年のキャッシュフローも、利息と返済分だけ減ってしまう。

たとえば、これまでの例で、少し借金をして事業をまわしてみよう。条件はこんな具合だとしよう。
 
負債依存率 初期投資の50% (400万円)
金利 5%
償還方法 元利均等、10年完済
 
問題

 というわけで、これだけでいろいろ遊べる。金利とか、負債比率を変えると出資者の収益はいろいろ変わる。ただし、それは事業全体の収益性の中でとりあいを演じているだけで、事業そのものの善し悪しとは関係ないんだ、ということをよーく頭に入れておいて。まずは借金なしとして、どのくらいの収益があがるのかをきちんと見てやる。金を貸すとか借りるとかいうのは、その後でしかやってはいけない話。

 つまり、基本は、事業全体のIRR以上の金利での借金はできない。IRRより低い率で、たくさん借りると、その分出資側のIRRは押し上げられる。これをレバレッジ効果とゆー。
 ただし一方で、借金は返せないと破産だ。「今年は払えないけど来年払います」というのは、借金では基本は認められない。だから負債依存度が高ければ高いほど、破産するリスクが高くなる。

 資金調達の話は、基本はこれだけなんだ。いくら素敵なファイナンスをしてみても、この枠を超えることは絶対にできない。なぜかというと、金は無からは生まれてこない。あらゆる事業は、事業そのもので金を生み出して、それを出資者と融資者と税金で切り分けてるだけの話だから。資金調達は、この切り分け方の話。そもそもの事業が生み出す金はまったく変えられないのだ。
 だから事業自体のIRRとかが見えないうちに資金調達がどうしたの借入がどうしたのといじってみても、話はややこしくなるだけ。そういうことはしないで。

 これをきちんと区別して考えられる人間は、驚くほど少ない。お客さんでもすぐ「借入を増やしたら事業収支はどうなるんだ」とか「いろいろケースをやってみて」なんて要求が来る。そのときには、諦めてあまり派手に騒がないこと。こういう人の多くは、「資金調達」とというのがすごくかっこいいものだと思ってて、このことばを使いたいだけってことも多いから、「そんなの意味ないですよ」と正しい指摘をすると怒ったりする。亭主の好きな赤烏帽子。適当にしたがってあげて。でも、あまりまじめに相手もしないこと。やるだけ無駄だから。
 


次回の予告:

 ここまででおぬしらは、キャッシュフローのほうの考え方はわかった。あとは、これに割引率さえわかればなんでもできる(マジ)。ここまでの話をもう一回復習しておくこと。繰り返すけど、理論的な意味でも実用的な意味でも、いままでのところでファイナンスの一番大事な話はほとんどすべて出ている。
 
 では、次回以降からはその割引率の求め方をしばらくやろう。
 
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@mailhost.net)