恐怖の事業:リミテッド・パートナーシップ

たとえば、100億円くらいのでかい設備をなんか買い込むとしよう。そしてそれをずっと寝かしておいたらどうなるだろう。こんな感じだ。
 
 
リミテッド・パートナーシップの考え方(法人税率50%)
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収入
 
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支出
 
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投資
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利益
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減価償却(低率)
 
20.6
16.3
13.0
10.3
8.2
6.5
5.2
4.1
3.3
2.6
節税メリット
50
10.3
8.2
6.5
5.2
4.1
3.3
2.6
2.1
1.6
1.3
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
CF
-50
10.3
8.2
6.5
5.2
4.1
3.3
2.6
2.1
1.6
1.3
 
 
というわけで、なにもしないのにキャッシュフローが出るというすごい事業ができてしまう! しかも、このキャッシュフローにどのくらいのリスクがあるか考えてみよう。

 すると、このキャッシュフローには、まったくリスクがない(国の税法が変わらない限り)!!

 こんだけだと、IRRを計算すると、-2.7%くらいで損しちゃう。でも、仮にこの機械をまわして、減価償却を含めない部分で毎年2億でいいから利益を出したとする(レンタルでもしてごらんよ)。それだけでIRRは6.7%にはねあがる。
 
 クズみたいな事業をして、減価償却の損をどんどん計上して損失の節税メリットだけで商売する――そういう事業が、昔本当にあった。これがアメリカの、リミテッド・パートナーシップというやつ。
 
 こんな事業だから、減価償却がでかく出てくるもののほうがいい。不動産だ。みんなが金を出し合って、土地と建物を買って、いいかげんに賃貸オフィスでもやる。減価償却のせいで、お金はぜんぜん使わなくても毎年たくさん損金が出る。そしたら、出資者はその損金を出資額に応じて配分して、それを自分のメインの事業にぶつけて節税。万が一もうかったら、それはそれで結構ではないの。
 
 これがアメリカの70年代末の不動産バブルをつくった、リミテッドパートナーシップってやつ。これをやるために、みんなどんどんビルを買ってった。ガラガラの空きビルでもまったくかまわないんだもん。
 
 これを破綻させたのが、アメリカの1981年の税法改正。ここで、Passive income (自分自身では事業をせずに得ている儲けや損金)とActive income(自分の事業の儲けや損金)をわけて、この両者を相殺できないことにした。これでこの方式は一挙に使えなくなって、リミテッドパートナーシップは崩れた。
 
 日本ではなぜこれができないんだっけ? なんか規制があるはず。あと、地価が高くて、不動産の減価償却が投資額に比べて少ない(アメリカでは不動産価格の半分が土地。日本では9割が土地。土地は減価償却しない)せいもあるのかな。

 さて、なぜアメリカ政府は、この時敢えてこの方式をつぶしたのか? 日本のバブルの話でも、「政府がわざと地価を下げるようなことをしたのが悪い」とか開き直るバカが多いけど、ここでもアメリカの政府は悪いんだろうか。
 もちろん、そんなことはない。多少の投機はあってもいいけど、それだけが加速するバブルは、遅かれ早かれ(なるべく早かれ)つぶさなくてはなんないの。その理由はよく考えといて。
 
 
ぢゃ、「戻る」で戻ってね。

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