イマニュエル・ウォーラーステインは、世界システム学派の頭領として知られる。歴史家のフェルナン・ブローデルの成果にならい、16-17世紀以降の資本主義の発展史を研究してきたのがウォーラーステインの理論の基礎となっている。資本主義の発展プロセスにおいては多くの要因が相互にからみあい、世界市場に組み込まれていなかった地域や産業などが、各種の技術的な発展や制度の整備に伴って徐々に市場化してきたことが指摘される。すなわち、資本主義は単に抽象的な売り手/買い手の寄せ集めとしてではなく、高度なシステムとして存在しており、絶えず発展を続けている。これがウォーラーステインの世界システム論の基本的な主張である。
しかしながらウォーラーステインは、世界経済がシステムを構成している、と主張するだけで、その「システム」というのが一体何なのか、あるいはそこに内在する構造がどんなものなのか、さらにその「システム」はどう変動するのかについて未だに説明しおおせていない。サミール・アミンやフランクの従属理論から援用してきた中心と周縁の構造に基づき、資本主義が中心による周縁の収奪と、その外部の周縁への継続的な取り込みで存続している、と述べるにとどまっている。システム変動の要因としてコンドラチェフの長期波動といったアドホックな要素を持ち込もうとするために理論的な整合性も危うくなっている。
近年のウォーラーステインは、新しい社会科学やリベラリズムの批判といった社会コメンテーター的な役割に転身しており、もはや経済学への貢献を期待できる状況ではないようである。収奪できる「周縁」がなくなるので、20世紀半ばに資本主義は終わる、といった奇矯な発言や、人権や平等に配慮した民主的な社会構築をしなくてはならない、といった聞こえのいい議論は展開しているものの、もはやそれらはまともな分析に基づく議論とは言い難いものとなっている。新しい社会科学を、という主張やカオス理論の安易で表層的な導入などは、数式とモデルを中心とした現在の経済学になじめない人々による「反経済学」の主張にますます接近しつつある。2005 年現在は、イェール大学社会学部教授を務める。
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