ヴェルナー・ゾンバルト (Werner Sombart), 1863-1941.

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Portrait of W.Sombart

 ドイツ歴史学派 最終世代の筆頭ともいうべきヴェルナー・ゾンバルトは、なんだかんだで歴史学派をシュモラーの保守的で規範的な重みから引き離した。その伝統から歴史学派が離れるにあたって、ゾンバルトの初期のマルクス主義的著作 (1894, 1896, 1902)――これは、マルクス派創始者に関する大ヨイショ研究を二本 (1895, 1909) 含んでいた――はかなりの役割を果たした。

 でも後の作品で、ゾンバルトはもっと保守的で愛国的になり、やがてはモロにナチ的な立場となる。この転向は、ゾンバルトがドイツのアカデミズム界の端っこにいすぎたために、高い学問的な役職を得るためには政治的によく見られないとイケナイ、と思ったということなのかもしれない (やがて 1917 年にベルリン大学で、ヴァーグナーシュモラーの後釜となった)。あるいは、一部の人に言わせると、ゾンバルトは根っからのドイツ「ロマン愛国派」でしかなかったということになる――このため英雄なら何でも崇拝して、それが工場のワークブーツをはいていようと、プロシアの軍靴をはいていようと構わなかったのだ、というわけ。ゾンバルトにおいては、事業家はすぐに褒められ、その後は軍事労働者、そして後には「総統閣下」も。これに対して、その著作のほとんどを通じて「ブルジョワ」は視点こそ異なれ、一貫しておとしめられた。ゾンバルトの誇張に満ちた華やかな書きッぷりは、確かにこっちの説明の傍証にはなってる。

 ゾンバルトの後の著作は、誇大な文体と同様にその中身の面でも、経済学世界の内外を問わずあまりよい評判を獲得はしなかったけれど、でも華やかにはちがいなかった。ヴェーバーと同じくゾンバルトもマルクスをひっくり返そうとしていた。ゾンバルトによれば、資本主義のルーツは経済的な現実からきたのではなく、ある思想からきている――それは理性と自然の支配という 啓蒙主義的な理想だ。かれがこれを主張したのは、かれが最高潮にあった Modern Capitalism (1902) でのことだった。この本はいまでも、社会学者やフェルナン・ブローデルのような「全歴史」系 (アナール派) 学者には傑作とわれている。とはいえ、この本もゾンバルトらしく、経済的・歴史的な中身の点では怪しげで調査もきちんとしていないけれど、でも最若年歴史学派の手法的な原理はこの論考で説明されている。それはシュモラー的な現実的、規範的帰納主義から離れて、後にシュピートホフが「経済学的様式」と呼ぶ記述主義的研究の萌芽を含んでいる。

 ゾンバルトの 1911 年の著作は、資本主義的な貪欲さとその成功の原因は、中欧・北欧でのユダヤ人の拡大と台頭にあるとしている――これはそれをプロテスタンティズムに求めるヴェーバーの有名な説と真っ向からぶつかるものだ。このユダヤ人に関する著作では、だれも味方につかなかった――ユダヤ人とリベラル派はそれが粗雑な反ユダヤ文書だと考え、反ユダヤ主義者や保守派は、それがユダヤ人をほめすぎだと考えた。学者たちはおおむね、この本の参照文献が(挙げられていたとしても)怪しげで、研究としての価値はない、と考えていた。でもゾンバルトの本は、残念ながら大変によく売れた。この本が一般に与えた影響力は、ひたすら残念としか言いようがない。それは当時ヨーロッパでだんだん広まりつつあった、ステロタイプ的な狡猾なユダヤ資本主義者という歪んだイメージに、経済的、人種的、哲学的、歴史的な「証拠」を与えてしまったわけだ。

 後の著作 (1913) で、ゾンバルトはまた方針を変えた。こんどは、交易や都市の発達と資本主義とを関係づけようとしたのだ――これはずっと意味ある論考で、もっと最近でもアンリ・ピレネーなどの経済史家が似た発想を展開している。でも、ゾンバルトはそのとんでもない想像力を抑えられなかった。ある時点で、ゾンバルトは資本主義を女のせいにしようとした――というか、暇な中産階級の女が台頭してきて、それが豪華な贈り物を男たちにねだって買わせ、結果として男たちは資本主義的な貪欲精神を育んだ、というわけ。

 1915 年に、ゾンバルトはとうとう完全なロマン派的愛国主義を全開にして、Hä:ndler und Helden でイギリスをむちゃくちゃに攻撃している。続いて、完全にはっきりと親ナチ的な Deutscher Socialismus (1934) が刊行された。この恥ずかしい著作は、ナチの教科書として広く頒布され、ゾンバルトの混乱した生涯の頂点ではあった。

ヴェルナー・ゾンバルトの主要著作

ヴェルナー・ゾンバルトに関するリソース


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