(The Economist Vol 387, No. 8580 (2012/12/15) p.58, "Wake up and smell the coffee")
山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu)
「これは空前のコミットメントです」とイギリス・アイルランドのスターバックスの親玉、クリス・エングスコブは 12 月 6 日に述べた。この日、同社は 2013-14 年度にイギリス税務署に対し、法的に必要とされる納税額を年間およそ一千万ポンドうわまわる金額を自発的に支払うと発表したのだった。別に当局から何らかの圧力がかかったわけではない。イギリス歳入局に対して、追加ショットの税金を納めることについて、税務署は特に相談を受けていないのだ。スターバックスは、怒り狂ったイギリス消費者をなだめるためにこうした手に出たのだ。消費者たちが怒っているのは、あにはからんや、ラテが高すぎるからではない。同社がイギリスにまったく税金を支払っていないことについて怒っているのだ。「お客様からのメッセージはしっかり受け止めました」とエングスコブ氏は述べる。
残念ながら、税金をPR経費に仕立てようという先駆的な試みは、期待したような賞賛はもたらさなかった。政府の歳出削減と企業の納税回避への抗議運動を行っているイギリスの集団 UK Uncut は、イギリスの何十カ所ものスターバックス店舗で抗議運動を行った。抗議者たちは、スターバックスがイギリスで 1998 年に開業して以来、法人税で 860 万ポンド (11 億円くらい) しか支払っていないと指摘する。先月(11月)、議会公聴会でスターバックスは、これは同社がイギリスでの事業で黒字になったのが一年しかないからだ、と主張している。ただし同社は、スイスにあるスターバックス子会社(大もうけしている)からコーヒーを仕入れるのに大金を支払い、さらにオランダにある(これまた大もうけの)子会社に、商標使用と知的財産使用料で大金を支払っていることは認めた。
スターバックスは「オランダサンドイッチ」や「ダブルアイリッシュ」は使っていないと考えられている。これはスタバのメニュー商品のように聞こえるが、合法的な税金逃れの手法で、グーグルも使用しているとされる。グーグルもまた議会に呼ばれて証言を求められた。ヨーロッパにおけるグーグルの売り上げの大半は、ダブリンにある会社に計上されて、そこからロイヤルティ使用料という形でオランダの子会社に流れ、さらに残った金額は、法人税率ゼロのバミューダにある子会社で利潤計上される。これまたオンライン大手のアマゾンも議会で証言し、同社がイギリスであまり税金を支払っていない――2011 年にはたった 180 万ポンド (2.5億円くらい)――のは、イギリス支社が単に、全ヨーロッパの事業を統括する親会社に対するバックオフィスサービスを提供しているだけだからだ、と述べた。この親会社は、法人税率の低いルクセンブルグにある。
スターバックスは、タックスヘーブンは使っていないとは述べているものの、アムステルダムにある子会社については、オランダの税務署当局との話し合いで、秘密の低税率を適用されていることは認めた。同社によれば、全世界で見れば利潤の3割以上は税金として納めているとか。活動家慈善団体アクションエイドが昨年 (2011 年) 刊行した報告によると、FTSE 100 株価指標(イギリスにおける日経平均とかダウ平均に相当するもの)に含まれる 100 社のうち、98 社はタックスヘーブンに子会社を1社は持っている。人気の高い手口は、多国籍企業の主要な知的財産をタックスヘーブンの子会社に移転して、税率の高い他国の子会社に対し、知的財産使用料を課すというやり方だ。金持ち国によるシンクタンク OECD がまとめたデータを見ると、実に多くの特許が、バルバドスやケイマン諸島やバミューダといった場所の企業保有となっている。イノベーション中核地としては実に意外な場所だ。
イギリスでもアメリカでも、企業は法人税率引き下げをロビイングしてきた。これは企業にとっては、いくつか小さな抜け穴を失うことになる。彼らの要求は聞き入れられはじめている。彼らの議論にさらに裏付けを与えたのは、オックスフォード大学事業税制センターで、イギリスとアメリカは実効税率(つまり控除後の税率)が世界で最高水準にあるという研究だった。バラク・オバマも2011年に、一部の免税処置を廃止して額面税率を引き下げようとして失敗したので、「税制の崖」協議で共和党に対して似たような申し出を行っている。
だが、いまやきわめてオイシい税金逃れ手法に対して国民が怒りの声を挙げ始めて、政治家たちは税金をもっと企業に優しくするよりも、課税ベースの確保に専念するようnなるかもしれない。イギリス大蔵大臣ジョージ・オズボーンは、スターバックスやグーグル、アマゾンに対する怒りの声に対して、同国がまもなく手に入れるG8議長国の地を使って、タックスヘーブンへの宣戦布告を行うと約束した。世界中で財政赤字拡大に直面する他国の政治家たちも、ここに参戦するかもしれない。
(2013/1/3)
わははは、知らなかった。スタバってイギリスで、こんなことになっていたのぉ?? でもたぶん、会社としての仕組みは日本のスタバでも同じだと思う。
たぶんこの中でも、コーヒー豆の仕入れはいろいろ細工ができそうだ。ブランド料や紙コップは変動もあまりなさそうだけれど、コーヒーは市況でいかようにもなりそうだし。これって、タリーズとかもそうなんだろうか? ほぼ国内のドトールとかはちがうと思うけれど。
しかしこういうのにちゃんと抗議運動が出るというのにはもっと感心する。イギリスの NGO はえらいもんだ。歳出削減反対 NGO!! すごい。そして、反対を叫ぶだけでなく、それを実現するための方策もあわせて提案する。多国籍企業にちゃんと税金支払わせろ!
さらにそれに応えて、スタバが税務署に必要以上の金額を納税するというのも、なんかすごい話だ。そういうのって、ありなの? どういう名目で納税するの? なんだか知らないけど勝手に納税ってできるの?? そしてそれがPRになるという……
ちなみに、ここに出てくるオランダとかバミューダを使ったへんな仕組みというのは、以前おもしろがって紹介したイケアの、オランダの財団をいっぱい使った異様な仕組みときわめて近いものであることは、改めて指摘するまでもない。グーグル、アマゾン、スタバにイケア、意識の高いオサレでロハスな方々のお好きなブランドはことごとく、こういう阿漕な税金逃れの仕組みを使ってんのね。たぶん各種アパレルブランドもそうなんだろうなあ。
ただしもちろん、イケア記事のコメントにも書いたけれど、別に税金逃れしてるから儲かっているのではない。儲かっているからこうした税金逃れができるのだ。そこらへんは誤解なきよう。
ついでながら、ぼくは CSR というやつが嫌いなんだけれど、それはまさにこうした仕組みのせいでもある。こうした企業の多くは、イベントを主催したとか途上国の何かにせこい金を出したとかいって、うちは CSR いっぱいやってます、という顔をする。でも実際には、社会に対して納税という大きな責任を果たさずに(もちろん合法的に回避してるんだから文句ないだろ、ということになるけれど)、単に小手先の花火で本質的なものから逃げてるのを隠しているだけなんだもの。金儲けに徹して税金おさめてくれるほうが、そんないんちきなイベント出資よりどれほど社会に貢献することか。でも逆に、そういう後ろめたいところのある企業ほど CSR なんかに熱心ともいえるかもしれない。うちの CSR 部隊にこんど聞いてみよう。
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