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スキーのワックスがけは無駄ですわよ。

(The Economist Vol 377, No. 8457 (2005/12/17), "Not waxing lyrical," p. 71)

ワックスを塗るとスキーに土がつきやすくなり、スピードはかえって下がるのだ。

 このシーズンのスキーヤーたちは、これまでのあらゆるシーズンと同様に、少しでも速く滑走できるようにと願ってプロアマを問わずスキーにワックスをかけることだろう。気温、湿度、そのときの雪の状況などを調べて、ずばりどのワックスを使うべきか考える。ワックスなら何でもいいわけじゃない。冷たい乾いた雪用のものもあれば、もっと暖かく湿った雪用のものもある。最高の効果を引き出したいマニアたちは、どのワックスを使うべきかについて多大な配慮をすることになる。

  だが最近の研究によれば、そういうマニアは時間を無駄にしているようだ。それもワックスの選び方の話どころか、そもそもスキーにワックスを塗ること自体が無駄だという。元クロスカントリースキーのチャンピオンで現在はコーチをしているレオニド・クズミンは、現在スウェーデン中部大学で博士課程の学生だが、数百メートル以上の滑走ではスキーワックスを使うとかえって速度が落ちる。確かにクズミンの研究はクロスカントリースキーについてのものだけれど、でもダウンヒルのスキーでも結果は同じだろう、とクズミンは考えている。

  スキーが雪の上を滑走するのは、スキーの底面と雪面との摩擦が雪をとかし、それが水の薄膜になるというのが基本的な原理だ。スキーは、その薄膜の上に浮いて滑る。スノーボードやスケート、そりも同じ原理を使っている。

  水の膜の厚さがここでの決め手だ。温度がきわめて低く、膜が薄すぎると、スキーはくっついてしまう。これを克服するために、スキーヤーたちはハードワックスを使う事が多い。温度が高くて水の膜が厚すぎると、吸着力が発生して水の層の上をすべるのがむずかしくなる。これを避けるには、ソフトワックスを使うのが通例だ。

  最近のスキーの底部レイヤーは、超高分子量 (ultra high molecular weight )ポリエチレンという物質でできている。このすばらしいプラスチックの分子は、通常のポリエチレンよりはるかに長く、さらにその分子は乱雑に散らばるのではなく、結晶構造となって高密に並んでいる。これでできるのは、摩擦係数がきわめて低く――テフロン並――摩耗にもきわめて強い。あまりに便利で特殊な性質なので、スキーの底部レイヤーだけでなく、防弾チョッキや人工腰骨や膝関節を作るのにも使われている。

  この材質があまりにすばらしいので、ワックスがけは不要なんじゃないか、とクズミンは考えた。そこで、ワックスをかけたスキーと、かけないスキーとで、比較実験をいろいろ行った。透明なスキーを作らせて、被験者にそれをゲレンデで使ってもらい、それを調べてみた。すると、ワックスをかけたスキーのほうが土がたくさん付着していたのだった。

  さらにクズミンは、試験用ゲレンデを滑り降りる被験者たちの速度を測った。ほんの数百メートルもすると、ワックスをかけないスキーのほうが速かった。

  というわけで、どうやらスキーヤーはワックスがけに延々と時間を費やすのはやめて、さっさとゲレンデに出るのが正解なようだ。ただしスキーワックス屋が店をたたむのはまだはやい。商機はまだある。クズミンの研究は滑走用ワックスだけを扱っている。これは、スキーを高速にするためのワックスだ。クロスカントリースキーにはもう一つキックワックスというのがあり、これは逆の効果をもたらす。

  キックワックスは、クロスカントリースキーでスキーヤーの足の真下にある部分に塗られる。この部分は滑走時には雪面に触れない(はずだ)。雪面が平らだと、このワックスのおかげで雪をグリップして前に出られるようになる。そして登坂では、スキーが後ろに滑り出さないようにしてくれる。このワックスはクロスカントリースキーにはいまだに不可欠だ。ワックスメーカーたちもほっとしていることだろう。


解説

 おお、そうか! ワックスがけ意味なーし! スキーヤーも減ってきたが、一時は知ったかスキーマニアたちがワックス云々とえらそうに講釈たれてるのをきかされたものである(見たくもないが、2ちゃんねるにはたぶんスキースレとかがあって、この手の話が延々と展開されてるんでしょ)。どうなんだろう、この話はすでに各種スキー雑誌なんかでは紹介されているんだろうか(広告主のご機嫌を損ねないよう一切無視されているというのに 1,000 ガバス)。でも、これからのスキーヤーやボーダーは、ワックスなんか無視して存分にすべってください。


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