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約束の地:パラグアイの統一協会

(The Economist Vol 376, No. 8439 (2005/08/13), "Promised Land," p. 42)

カルトに買収された町が離脱を図る。

 2000 年のある日、パラグアイの荒れ果てたチャコ地域にある小さな町、プエルト・カサードの人々は、足下の地面が知らぬ間に売り渡されていたことを知って仰天した。しかもその新しい地主にして親分は、かの文鮮明師。あの統一協会(欧米ではムーニーと呼ばれる)を率いる自称救世主(メシア)だ。文氏の従者たちは、肉加工工場からエコツーリズムまで各種の大プロジェクトで町を豊かにしますよ、と約束して不安がる地元民をなだめた。

  それから 5 年、こうした約束がいっこうに守られないので、ここの町民たちは何百人もが、640 km も離れた首都アスンシオンまで出かけて、議会に働きかけてこのカルトから解放してくれと陳情したのだった。

  8月上旬に、上院は一部の建物と統一協会の土地をちょっと接収して、地元民が共有するようにするという法案を可決した。ニカノール・デュアルテ・フルートス大統領もこの法案を支持して、統一協会は地元労働者に「飢えそうなほどの給料」しか払っていないと糾弾(協会は、法で定めた最低賃金は払っている、と主張)。大統領が所属するコロラド党は、この法案を下院でも可決させるだけの集票力を持っているはずだ。

  統一協会は、この法案は地元政治家たちが自分たちからお金をむしり取るためのものでしかないと主張している。そして今週になって、ウシを売り払い、労働者をレイオフしはじめた。おかげでデュアルテ大統領は、町への緊急支援パッケージを発表せざるを得なくなった。

  デュアルテ大統領は、町民たちが「封建社会まがい」の条件で暮らしていると主張する。だが町の状況は、文氏がやってくるずっと前から似たようなものだった。この町は大金持ちスペイン人のカルロス・カサードが、せっぱ詰まったパラグアイ政府から 19 世紀末に買い取った広大な領土の一部なのだ。当時のパラグアイ政府は、ブラジルやアルゼンチン、ウルグアイとのややこしい戦争で領土をほとんど失って困っていたのだった。

  昔はこの町も、ケブラーチョを売ることでとても豊かだった。ケブラーチョというのは、皮革産業向けのタンニンを採る硬木だ。でも 1990 年代にはケブラーチョの木がほとんど伐採され尽くし、カサードの企業も身売り先を探していた。

  文氏がパラグアイ川の両岸の土地を買いあさり始めたのはこの頃だ。釣りにきたときにこの地域に目をつけた文氏は、先細り気味の教団の未来がこの南米の「エデンの園」にあると決意したのである。

  土地の配分をもっと公平にしろという要求は、パラグアイではよくあるものだ。同国の土地は、ほとんどがごく少数の人々によって所有されている。議会で審議中の法案は、プエルト・カサード周辺で統一協会が持っている60万平米の土地の一割以下を接収するものでしかないし、それに対する対価は支払われる――ただし政府がその資金をかき集められればの話だが。

  規模は小さくても、この接収は大騒動を引き起こしている。パラグアイの企業連合は、ただでさえ少ない投資家(たとえば統一協会)にこんな不当な扱いをしたら、外国投資家はますますこなくなる、と嘆いている。同法案を議会で支持する人々は、文氏が「国の中の国」を作ろうとしているのだ、と陰鬱に語る。

  プエルト・カサードは、文氏による頑張りすぎの南米銭撒き事業のたった一つでしかない。川のすぐ向かいのブラジルでは、新しい道路やホテルや教室を持った理想都市を造ろうという試みが進められているが、同じくがっかりするような結果にしかなっていない。昨年末には、ブラジルの「土地なし地方労働者運動」が大規模侵略を敢行し、空き地のまま放置されていたこのプロジェクトの土地をほとんど占拠してしまった。ウルグアイで文氏が買収した銀行は清算に入り、そこでの港湾開発計画は地元の反対によって頓挫している。救世主(メシア)候補にしては、奇跡の発揮ぶりがいささか弱いようで。


解説

 最近日本ではめっきり噂をきかない統一協会/原理研ですが(まあ大学あたりではどうなのか知らないけれど)、南米に活動の場を移しているとは知りませんでした。しかし今にしてみれば、統一原理なんてホントどうでもいい代物で、バカな連中が合同結婚しようと壷を売ろうと KCIA の手先だろうとやりたきゃ勝手にやらしときゃいいんだし、大した実害ないし、当事者以外は関係ないんだし、なんであんな大騒ぎしてたんだろ。その後オウムが出てきてカルト教団としてのインパクトが相対的に小さく見えるようになってしまったというのもあるんだろうけれど。


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