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温暖化本は不作続き

Book details

The Hot Topic: What We Can Do
About Global Warming

By Gabrielle Walker and Sir David King

The Hot Topic

Harcourt; 276 pages; $14. Bloomsbury; £9.99
Amazon.co.jp

Earth: The Sequel—The Race to
Reinvent Energy and Stop Global Warming

By Fred Krupp and Miriam Horn

Earth: The Sequel

Norton; 279 pages; $24.95
Amazon.co.jp

An Appeal to Reason:
A Cool Look at Global Warming

By Nigel Lawson

An Appeal to Reason

Duckworth Overlook; 149 pages; $19.95 and £9.99
Amazon.co.jp

Fixing Climate: What Past Climate Changes
Reveal About the Current Threat

By Wallace S. Broecker and Robert Kunzig

Fixing Climate

Hill and Wang; 272 pages; $25.
Amazon.co.jp

(The Economist Vol 387, No. 8580 (2008/5/17-23) pp.92-3, "A Lot of Hot Air")

山形浩生訳 (hiyori13@alum.mit.edu)

気候変動に関する本はダメなものも多い――その程度も様々

  気候変動に関する最も不安な面は、フィードバックの存在だ。世界が温暖化すると、凍った地球が融けて、それが温室ガスを放出し、それがさらに世界を温暖化する。気候変動についての本でも似たようなことが起きているようだ。地球温暖化についての本を人々が書くと、その問題についての関心が高まり、本への需要が高まり、本がさらに増える。こうしたフィードバックはどちらも熱い空気/空騒ぎを創り出す。

  だがこの分野の近刊四作を見ると、別のお馴染みの力学が作用しているようだ:量が増えると質は下がる、というものだ。初期の気候変動本は、ほとんどがこの分野にこだわりを持った無名人たちの手になるものだった。今回の四冊のほとんどは、有名人が共著者を得て書いたものだが、おそらく実際の作業を行ったのはほとんどが共著者のほうだろう。おかげでその一部は出来が悪くなっている。

  デビッド・キング卿は重要人物だ。2007 年まではイギリス政府の主任科学顧問で、同国がヨーロッパの中で炭素排出削減に最も深刻に取り組み、さらに野心的な排出削減目標を導入するにあたり大きな役割を果たした。

 デビット卿の著書は、素人向けの手引き書だ。気候変動文献の分野で、重要な一歩とは見なされないだろう。この問題が、科学、政策、ビジネスの面でどこまできているかをまとめていて、明日の重役会までに一夜漬けで持続可能性について知りたい人には便利だろう。でももう少し想像力を伸ばしてくれる本を探している人は、手を出すには及ばない。

 フレッド・クルップも重要人物だ。かれは環境防衛基金 (EDF) を主宰していて、これは炭素排出のキャップ&トレード方式を発明した機関だ。この仕組みは国の排出に全体としてキャップを儲けて、企業がその中で排出削減を売買できるようにすることで、安上がりな削減から順に実施されるようにしたものだ。EDF は 1990 年代に、発電所からの二酸化硫黄の排出削減手段としてこれを提案した。そしてそれがうまくいった。この発想は広がり、アメリカのこだわりによって、ヨーロッパの反対にもかかわらずこれが京都議定書に組み込まれた。その後アメリカは京都議定書を離脱したが、ヨーロッパは 2005 年にキャップ&トレードを組み込んだし、次期アメリカ大統領もこれを採用しそうだ。

 クルップ氏の本はビジネスマン向けのガイドだ。書き出しは有望そうだ。キャップ&トレード方式が広く採用されれば、きれいな技術の需要が高まり、それを開発すれば未来の億万長者になれる。

 この本はこうした技術を、開発者たちを通じて紹介しようとする。一部のディテールはなかなかいい。たとえばエタノール生産用にセルロースを分解する酵素を開発しようとする科学者の仕事などだ。この科学者たちは “extremophiles” を探そうとしている。これは火山や深海などできつい作業をしてくれるバクテリアだ。でもこの本は、物語性もなければ分析的な構造もない退屈な一覧となっている。そしてバカげた題名「地球:続編」も魅力を下げている。われわれは続編を考える以前に、このいまの地球を何とかしたいんじゃなかったでしたっけ?

 ナイジェル・ローソンもまた重要人物だ。有名な逸話として、マーガレット・サッチャーはかれを自分の「聡明なる大法官」と呼んだが、その直後にイギリスが痛々しい不景気に突入したのは、一部はかれの金融政策のせいだった。ローソン卿が提供してくれるのは、否定派の本だ。かれは現在の地球温暖化コンセンサスに反対する、数少ない真剣な人物の一人だ。できた本はコンパクトで、共著者も使わず、非常に明晰、分析的で、説得力がある。非常に賢いが、非常に腹をたてた人物の書いた本の持つ美徳をすべて備えている。

 だが、欠点もある。ローソン卿は、実在しない標的を仕立て上げ(「その人気は政治家やメディアがでっちあげたもの」)、だれも本気で主張していない信念をそれに押しつけ(「地球温暖化の唯一の原因が人為的二酸化炭素である」)、そしてそれを打ち倒す。そしてコンセンサスを打倒するのに使う証拠も古い(たとえば地表面と対流圏の温度が一見すると乖離していることなど。この問題は二年前に解決されている)。

 また、この本の議論も奇妙なところがある。コンセンサスから導かれる政策的な結論は、炭素排出削減のために世界的な炭素税かキャップ&トレード方式が必要だ、というものになる。ローソン卿はこれに反対している。こうした手法に対する強力な(だが最終的には説得しきれない)議論を展開したあとで、ローソン卿はいきなりこう宣言するのだ:「広範な炭素税導入を支持する議論は可能だと考える」。「人々が、炭素税を払うことで地球を助けているという気分に浸りたいのであれば、そうする機会を奪われるべきではない」というのがその議論だ。でもローソン卿は、地球を救うために人々が炭素税を支払うのはまちがっていると信じているんじゃなかったんですか? だったらなぜそれに反対しないんですか? そして反対しないんなら、こんな本を書く必要はなかったのでは?

 ウォーレス・ブロッカーは、他の著者ほど重要人物ではないけれど、意外なほどにおもしろい古代気候学の分野では有名だ。かれは古代における気候を調べ続けてきており、とくに海洋が気候変動にどう影響したか研究してきた。

 かれの著書はこの四冊の中でいちばん変わっているけれどいちばんおもしろい。かれは明らかにかなり楽しい人物で、プラクティカルジョークが大好きだ。かれの生涯を通じ、この本は科学者がどうやって世界の気候史を理解するようになったかを説明する。そしてそれが未来についても知見を与えてくれる。氷層の融解と形成にともなって、海面が過去に百メートル以上も変動したことを知れば、過度の気候変動は避けたほうがいいという議論もある程度説得力を増す。

 そしてこの本の場合、共著者はかえっていいほうに作用している。ロバート・クズニグも、ブロッカー氏とその世界に惚れ込んでしまったようなのだ。無理もない。古代気候学は、気候史の細かいひだにこだわり続けている人々だらけで、それを調べるのに北極の氷を何千メートルもドリルで掘ってみたり、有孔虫の小さな殻に含まれる酸素原子を数えては世界がいつ凍っていつ解凍したか調べている。「砂粒に秘められた惑星」というのが、科学の持つ詩学を見事に理解しているクズニグ氏の表現だ。この本は買うべし。残りは忘れてかまわない。


モナー 解説

 どうせこの中の何冊かはそのうち翻訳されるんじゃないかと思うので、あらかじめミソをつけておこう。一応利己的な動機もある。こんど出るロンボルグの新刊翻訳はこういうのとは水準がちがうので。買うならこっちを買ってくださいな。
 この手の同テーマ比較書評は、昔 Sight とか Bk1 とかでやっていて、最近ではソフトバンクのメルマガで多少はやろうとしているけれど、なかなか機会がない。流行で似たような本が出てきたときに、便利だと思うんだけれど。たまにあっても、露骨に党派的だったりして、フェアなものはなかなかない。地球温暖化の本なら、温暖化は大変だと騒ぎ立てるものはミソもクソも誉めるとか、懐疑的なものばかりをやたらに誉めるとか。この書評は、どんな立場だろうとダメなものはダメ、という評価尺度がきちんとしているので非常にわかりやすくて説得力がある。特に、えらい人が書いていようと(いやそれだからこそ)無内容な便乗本はダメなのだ、という態度は非常に気持ちがいい。
 書評の尺度は、基本的にはおもしろいかどうか、なんだけれど、一応それを評価するにはあたっては (1) 論点に目新しさがあるかどうか (2) それが説得的に説明・論証されているか (3) 書き方の善し悪し (4) その他話題性やボーナス点 くらいが評価点。この雑誌の書評はおおむねこれをきちんと抑えているので、信用できるし自分の購入の参考としての有用性も保っている。
 ちなみに、The Economist の温暖化対策のおおまかな立場としては、炭素税を入れて排出削減しよう、というもの。ただしその水準については特に明確なことは言っていない。ご参考まで。
 しかしキャップ&トレード方式を言い出したのがアメリカで、ヨーロッパは当初それに反対していたとは知らなかった。なんだか、アメリカとヨーロッパの位相が 90 度くらいずれている感じ。次はヨーロッパが急にやる気をなくして、逆にアメリカがブッシュ以後やたらに張り切りはじめたりするとおもしろいなあ。でもコンデンサ入れて力率を改善するよろしアルネ。


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