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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、20 章
山形浩生 (全訳はこちら)
20 章 雇用関数
Abstract
- 有効需要から導かれる総雇用の水準が、それぞれの個別産業にどんな形で分配されるのか、というのは、数式を使って定式化できる(でも、あくまで参考だからまじめに見る必要なし!)。
- 産業ごとの性質によって、総雇用が変わったときの雇用増減はかなりでこぼこが生じるだろう。
- 有効需要が少ないと失業が出て物価も下がるが、大きすぎると物価上昇ばかりが生じる。
本文
Section I (原注:数式が(正当にも)嫌いな人は、このセクション飛ばしても全然オッケー!)
- 1. 第3章の三段落目で、総供給関数 \(Z = \phi (N)\) を定義した。これは雇用 \(N\) をそれに対応する産出の総供給価格と関連させるものだ。雇用関数は、これと同じで、単に逆関数で一人当たり賃金で記述されているだけ。雇用関数は、一人当たり賃金で見た有効需要を、その有効需要の量に匹敵する生産の供給価格と関連づけるもの。
つまり一人当たり賃金で見た有効需要 \(D_{wr}\) が \(r\) という産業に雇用 \(N\) 人分をもたらすなら、雇用関数は \(N_r=F_r(D_{wr})\) となる。もっと一般化して、\(D_{wr}\) というのは総有効需要 \(D_w\) の決まった一部なんだということにしたら、 \(N_r=F_r(D_{w})\) となる。
- 2. 本章では、この雇用関数の特徴を検討する。なぜ通常の供給関数をこの雇用関数で置き換えるかというと、新しい変な単位を導入せずに、これまで使った単位で話ができるようにするため、そして業界や経済全体の話をするときには、この形のほうが便利だからだ。
- 3. ある財についての通常の需要曲線は、世間の所得についてある想定を元にしている。その所得が変われば需要関数を弾き直す必要がある。供給関数も同じだ。だから、個別の産業が、総雇用の変化にどう反応するかを考えるときには、需要関数一本を考えるのではすまない。需要関数の束を、総雇用の変化前と変化後について用意することになる。まとめて一本の関数ですむようにしたほうが便利。
- 4. 18章と同じく、消費性向その他の条件は所与とする。そして投資率の変化に伴う雇用の変化を見たいとする。すると、一人当たり賃金で計った有効需要に対応する総需要がある。そしてこの有効需要は、消費と投資に振り分けられる。また、有効需要はある所得分配に対応する。だから、総有効需要の水準ごとに、それが各産業に分配される比率がある。
- 5. そこから、ある総雇用の水準があるとき、それぞれの産業でどれだけの雇用があるか計算できる。これがつまりさっきの \(N_r=F_r(D_{w})\) だ。すると、それを全産業について合計すると、総雇用になる。つまり: $$F(D_w)=N=\sum N_r=\sum F_r(D_w)$$
- 6. 次に、雇用の弾性値を定義しよう。ある産業の雇用弾性値は以下の通り:$$e_{er}=\frac{dN_r}{dD_{wr}}\frac{D_{wr}}{N_r}$$
- 全産業についてこれを見ると、$$e_{e}=\frac{dN}{dD_{w}}\frac{D_{w}}{N}$$
- 7. ついでに、有効需要に対する産出(生産量)の弾性値も定義しよう。これは$$e_{or}=\frac{dO_r}{dD_{wr}}\frac{D_{wr}}{O_r}$$
- 価格が限界原価と同じだとすれば、\(P_r\)を期待収益とすると、これは次のように書ける:$$\Delta D_{wr}=\frac{1}{1-e_{or}}\Delta P_r$$
- つまり \(e_{or}=0\) でこの産業の産出量がまったく非弾性的なら、 \(\Delta D_{wr}=\Delta{P_r}\) になるから、増えた有効需要はすべて利益として事業者の懐に入る。
- 8. さらに、もしある産業の産出量がそこに投入される労働の関数 \(\phi(N_r)\) なら、平均賃金で計った産出量1個の値段を \(p_{wr}\) とすれば \(D_{wr}=p_{wr}O_r\)なので $$\frac{1-e_{or}}{e_{er}}=-\frac{N_r\phi''(N_r)}{p_{wr}(\phi'(N_r))^2}$$
- 9. さて、古典理論は実質賃金というのが、労働の負の限界効用と常に等しいと想定する。そして雇用が増えると後者が増えると想定する。だから実質賃金が下がれば労働が増えると想定している。だからこれは、平均賃金で計った支出を増やすのは不可能だと言っているわけだ。すると、雇用における弾性というものはあり得ない。支出を増やしても雇用を増やせない。でも、古典派理論がまちがっているなら、支出を増やして雇用を増やせる。
- 10. 通常は\(0
- 11. 期待価格 \(p_{wr}\) が有効需要 \(D_{wr}\) に対する弾性値を \(e'_{pr}\) と書こう。
- 12. \(O_rp_{wr}=D_{wr}\) なので、この両辺の\(D_{wr}\) に対する弾性値をとると $$ \frac{dO_r}{O_r}/\frac{dD_{wr}}{D_{wr}}+\frac{dp_{wr}}{P_{wr}}/\frac{dD_{wr}}{D_{wr}}=1$$ $$e'_{pr}+e_{or}=1$$
- つまり有効需要はこれにしたがって、産出量と物価に影響を与えることになる。
- 13. これをすべての産業全体で考えると、\(e'_{p}+e_{o}=1\) となる。
- 14. さてこれまでは、一人当たり賃金を単位として考えてきたので、これをお金の金額を使って考え直そう。
- 15. 単位労働あたりの名目賃金を \(W\) として、産出量一単位の期待価格を \(p\) とすると、有効需要に対する物価の弾性値は \(e_p\) で、有効需要に対する名目賃金の弾性値は\(e_w\) としよう。すると、$$e_p=1-e_O(1-e_w)$$
- 16. この式が、一般化された貨幣数量説への第一歩となる。
Section II
- 17. 雇用関数に話を戻そう。これまで、総有効需要が決まると、それに対して個別産業の製品について有効需要がどう分配されるか一意的に決まるものと想定した。さて、総支出が変わると、その分配比率は一定ではない。こっちは増え、あっちはあまり増えず、そっちはかえって減る、ということになる。
- 18. すると、雇用が総有効需要だけで決まるというこれまでの想定は、おおざっぱな近似でしかないことになる。いろんな産業に対する需要が変化することで、総雇用もずいぶん変動するだろう。
- 19. また総需要が変わらなくても需要の向かう先が雇用弾性の低い製品に向かうと雇用が減ることはある。
- 20. これは短期で、予想外の需要構成の変化があったときには重要になる。
- 21. これだからぼくは生産の所要時間が重要だと思うのだ。消費財は製造プロセスの最終段階だから、入り口から出口まで考えるといちばん時間がかかるので、消費が増えてから生産を増やせるまでに時間がかかる。
- 22. そして需要が増えることがあらかじめわかっていても、在庫がたくさんない限り、生産を増やすには時間がかかる。でも在庫がありすぎれば、投資がそのために遅れることもあるので、関係は一筋縄ではいかない。これは価格安定政策にとっても大きな意味を持つはずだ。
Section III
- 23. 有効需要が不足すると失業が発生する。つまりその時点の実質賃金より低い賃金でも働きたいと思っている人が出る。逆に有効需要が増えると、雇用は増え、やがてその賃金水準で働こうという失業者はいなくなる。
- 24. その時点まで、既存の資本設備に対して労働投入を増やすと効率は逓減する。でもある時点をこえれば、人が増えるとかえって効率が下がる。すると厳密な均衡に達するには、賃金と物価と利益が支出と同じ比率で増えることで、生産量と雇用は変わらない状態だ。これは貨幣数量説の世界だ。
- 25. でもこれを実際に適用するときには注意書きがある。
- 26. (1) しばらくのあいだは、物価が上昇すると事業者はかんちがいして、生産物で計った利益を最大化する以上に雇用を増やそうとするかもしれない。売り上げ金額が増えると事業拡大をしようと思うのが常だからだ。
- 27. (2) 事業者が金利生活者に渡す金額は固定されているので、物価が上昇すると事業者にとっては得になる。これは消費性向に影響するかもしれない。でもこれは完全雇用だからどうこういう話ではない。支出が増えれば必ず起こる。そして、金利生活者に渡るお金が相対的に減ったときに、その人が消費を増やすか減らすかは、必ずしもはっきりしない。
Section IV
- 28. インフレとデフレで結果が非対称なので困惑するかもしれない。有効需要が完全雇用の水準より下がると雇用も物価も下がるが、有効需要が完全雇用の水準以上になったら、それは物価上昇を起こすだけだ。でもこれは、労働の性質を考えると納得がいく。
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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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