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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、12 章
山形浩生 (全訳はこちら)
12 章 長期期待の状態
Abstract
- 資産の見込み収益の推計は、人間心理のせいで現状にえらくひきずられてしまう。
- もとはオーナー社長の度胸一発で話は決まったけれど、株式市場ができて話が変わった。でも株式市場のせいで、実際のプロジェクトを見ずに、お互いの顔色を見て短期的な利益を得る投機屋が増え、市場は不安定になっている。まるでほかの人の投票をあてる美人コンテストみたい。
- それ以外でも、投資の有無はそのときの気分と勢い、つまりアニマルスピリットに大きく左右される。
- だからあまり株式市場をあてにせず、国は自分できちんと投資効率を計算してあれこれやるべき。
本文
Section I
- 1. この章では、ある資産の見込み収益を決める要因のいくつかをもっと詳しく見る。
- 2. 見込み収益の期待を形成する配慮事項の一部は、だいたい確実にわかっている部分もあるし、一部は完全にはわからない未来のできごとに基づく。
前者としては、各種資本設備のストックや、それで作る製品に対する現在の消費者需要がある。後者としては、資本設備のストックが将来どう変わるか、消費者の嗜好がどう変わるか、設備の寿命の間に有効需要がどう変わるか、といったこと。
後者の心理的な期待をまとめて長期期待の状態と呼ぼう。これは第5章で述べた短期的な期待とは別物になる。
Section II
- 3. 期待を形成するとき、不確実なことにあまり重きをおくのはバカだ。だから、人は重要度は低くても、多少は自信をもってわかることに引っ張られがちだ。つまり長期予想は、はっきりわかる現状の実勢値にかなり引っ張られてしまいがちで、ついつい現状をそのまま将来にのばしたりする。
- 4. だから意志決定を左右する長期期待の状態は、いちばん確率の高い予想に基づくとは限らない。その予想にどのくらい自信がある/安心できるかにもよる。
- 5. この自信の状態は、実業家が何にもっとも注意を払うかによる。でも経済学者たちはこれをあまり分析せず、おおざっぱな概論ですませている。特に、それが資本の限界効率スケジュールを通じて経済問題に作用することを明らかにしていない。
- 6. でも、この自信の状態について事前に言えることはあまりない。これは市場やビジネス心理を実際に観察しないとわからない。だからこの章で書くことは、本書のほかの部分とちょっと水準がちがう。
- 7. 便宜的に、ここでの自信の状態の議論では金利の変化はないものとする。投資の価値の変動は、その見込み収益の期待が変わることだけで生じるとする。
Section III
- 8. 見込み収益を予想する根拠となる知識は、えらくあぶなっかしいものだ。数年先の収益なんて、ほとんどわかりようがない。十年先のことなんか全然わからない。
- 9. かつては、オーナー経営者ばかりで、みんな予想利益の計算なんかせず、山勘や度胸一発で投資を決めた。一種のばくちだ。結果が出た後も、収益率がそのときの金利以上だったかだれも計算なんかしなかった。計算したら、結構悪い結果だったんじゃないかな。みんながきっちり計算ずくで投資を決め、だれも勢いで投資しなかったら、鉄道や鉱山はほとんどできなかったかも。
- 10. でも今では、所有と経営とが分離している。すると新しい要因が入ってくる。証券市場がなければ、投資を何度も計算しなおす意味はない。でも株式市場は毎日投資を評価し直して、個人はそれを見て所有状況を変えられる。でもこれは、現時点の投資に大きな影響がある。証券市場があると、設備を自分で作らなくても、似たような会社の株を買えばすむ。つまりある投資の収益率は、実際にその投資プロジェクトを精査するのではなく、株式市場の類似企業への投資収益で決まってしまう。
Section IV
- 11. 人はよほどの理由がないと、惰性(慣習)で、現状がいつまでも続くと想定しがち。変化するのはもちろんみんな知っているが、どう変わるかわからなければ、間をとって横ばいを想定してしまう。だから市場価格が常に絶対正しいなどと考えてはいけない。
- 12. でもこの惰性(慣習)計算は、惰性が続くとわかっていれば、結構有効な計算方法だ。
- 13. 投資市場があって、この惰性にまかせていいと思ったら、投資家が考えるべきリスクは近い将来に大きなニュースがあることだけだからだ。そんなニュースが起こる確率は自分で考えればいいし、たぶんそれはあまり大きくない。すると短期にはその投資は安全ということになり、そして長期は短期の積み上げだから、その投資は長期も安全、ということになる。
- 14. たぶん証券市場が発達したのはそんな思い込みもあってのことだろう。でもこれには当然ながら欠点もある。この不確実性のため、今日ではなかなか必要な投資が得られない。
Section V
- 15. この不確実性のポイントとなる要因をいくつか挙げる。
- 16. その1: 社会の総投資のうち、その事業の本当の状態をきちんと見ていない連中が持つエクイティの比率が高くなると、それをきちんと価値評価する人々の価値判断が株価に反映されにくくなってくる。
- 17. その2: 既存投資の収益は、各種ノイズのために日々上下するが、それを累計すると市場全体でとんでもない影響が出るかもしれない。
- 18. その3: 無知な個人の大衆心理で株が買われていたら、実際の見込み収益は全然変わらなくても、ちょっとした噂や勢いで、株価は乱高下する。
- 19. その4: なかでも一番重要なポイント。ホントなら、専門家の知見がこうした素人の付和雷同を押さえられるはず。でも実際には、株の専門家とかは長期的な投資収益なんか見ておらず、三ヶ月とか一年とか短期の目先の損得ばかり考えている。
- 20. すると投資家は短期で処分できるように、みんな「流動性のある」株を持ちたがる。でも社会全体で見たら、投資の流動性なんて存在しない。ほんとは、社会としては未来に関する不確実性をなくすことが重要だが、実際には投資家はお互いの顔色をうかがっているだけ。
- 21. おかげで専門家同士が(無知な素人の手を借りるまでもなく)くだらない椅子取りゲームのようなものを演じ、市場の無用な不確実性を作り出している。
- 22. あるいは別の表現を借りれば、株式市場の投資のプロたちは、だれが一等に選ばれるかをあてる美人コンテストをやっているようなものだ。みんな自分が美人だと思う人ではなく、ほかの人が美人と思いそうな人を選ぶことになるけれど、でも全員がそれをやっているので、だれが選ばれるかはますます不確実になる。みんなが誰をえらぶかをみんなが当てようとし、その結果をみんながあてようとし……
- 23. でも、そんな連中の中でも、ちゃんと自分なりの評価で投資をしている人は普通に儲けられるんじゃないの、と思う人もいるだろう。でも、いくつかの要因で、いまの投資市場ではそういう人は生き残りにくい。まず、長期のしっかりした予想をしようとすると、まわりの顔色をうかがうより手間暇かかる。それに社会的に有益な投資が最も儲かる投資だとは限らない。長期に得られる収益は、短期の収益より割引率が大きく、現在価値が小さい。投資家はばくち打ちばかり。さらに短期的な市場変動を無視するには、かなり深い懐が必要になる。さらに変人扱いされかねない。
- 24. その5: ここまでは、個々の投機家の自信の状態だけを考えてきた。そしてその人が、現行金利で無限にお金を動かせると仮定してきた。でも実際はそうはいかない。その人たちにお金を貸す人々の心理、融資の状態とも言うべきものも効いてくる。片方が悪化するだけで、株価は暴落するけれど、株価回復には両方が回復しなくてはいけない。
Section VI
- 25. 経済学者はこういうのを無視してはいけないが、あまりとらわれすぎてもいけない。市場心理を云々する投機的な部分と実際の事業面とを考えると、投機ばかりが優勢とは限らない。ただし投資市場の組織が高度化すると、確かに投機面が強くなる。ウォール街はそのきわみ。アメリカ人は株式以外でも、平均的な意見が何かについての平均的な意見といったものにえらくこだわる。
- 26. これは人々が「流動性の高い」投資市場を作ってしまった必然的な結果だ。カジノはあまり入りやすくしてはいけないとされるが、株式市場もそうかも。株取引にもっと課税したら、投機的な取引は押さえられるかもしれない。
- 27. いまの投資市場の様子を見るにつけ、投資というのは結婚と同じく死ぬまで逃げられなくしたほうがいいかもと個人的には思う。でも、確かに流動性が有益な場面もある。流動性があったほうが、人々はリスクを取りやすくなるから。
- 28. こうした現代世界の経済生活を乱す自信の危機に対する過激な解決策としては、人々に自分の稼ぎを消費するか、あるいは特定の資本設備の生産にまわるかの二者択一を強制することかもしれない。強制はよくないけれど、消費も投資もしないよりはずっとマシだろう。
- 29. 現金のタンス預金が社会的に危険だと訴えた人は、たぶんこんなことを考えていた。でもかれらは、実際のたんす預金額に大きな変化に害が起こる(心理的な変化で、消費や投資をいやがるようになる)ことは見落としていた。
Section VII
- 30. 不安定要因は投機だけじゃない。人間の持つ性質もある。人は何かをするとき、数学的な計算で動くよりも、その場の勢いで動くことが多い。結果が長期に及ぶ行動をするときには、アニマルスピリット――とにかく行動せずにはいられない気分――で動くしかないことが多い。事業や企業は、自分たちが冷徹な計算に基づいて事業をしているふりをするけれど、そんなのウソ。南極探検にでかけるのとほとんど変わりない。アニマルスピリットが衰えて、威勢のいい楽観論が消えると、起業は沈滞する。
- 31. 未来に続く希望で動く企業は、社会全体の利益になる。でも、最終的に損が出そうでもやってみようというアニマルスピリットが伴わないと、人はなかなか動かない。
- 32. これはつまり、好況不況の度合いは必要以上に大きくなるだけでなく、経済的な繁栄というのは、政治的・社会的な気分にやたらに左右されるということになる。政権交代やニューディール政策がビジネスを停滞させるのは、別にその内実のせいではなく、単にそれが世間の雰囲気を変えるからというだけかもしれない。投資の見込み収益を考えるときには、こんなことまで考慮する必要がある。
- 33. むろんだからといって、すべてが不合理な気分だけで動くわけじゃない。長期的な期待の状態はあまり変わらないし、ほかの要因がそれを補うことも多い。でも、未来を考えるときには厳密な計算だけじゃダメだ、不合理な心理で動くことも多いんだ、ということは忘れないこと。
Section VIII
- 34. あと、未来に関する無知の影響を多少は緩和してくれる重要な要因もいくつかある。複利計算と、時間に伴う陳腐化のせいで、価値のほとんどがごく短期の見通し収益で決まるような投資も多い。また、賃貸ビルへの投資なら、投資リスクは長期入居契約によって投資家から入居者に転嫁できる。また公共サービス投資では、独占利益によってかなりリスクは減る。また公共投資の中には、そういう収益計算を度外視して行われるものもある。
- 35. だから長期期待の状態に短期の変化が重要な影響を持っていても、やはり金利の働きは重要で、投資の率にかなり影響する。
- 36. 個人的には、いまや金利を左右するために記入政策だけに頼るのは成功しないんじゃないかと思う。国は資本設備投資の限界効率を長期的に計算できるし、社会的な利益を考慮できるんだから、投資を直接やる責任も大きいと思う。資本の限界効率の市場による推計は、いままで述べた理由であまりに大きすぎて、金利だけでは補えないと思うのだ。
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YAMAGATA Hiroo日本語トップ

2011.10.10 YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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