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ケインズ『雇用と利子とお金の一般理論』要約、9 章
山形浩生 (全訳はこちら)
9 章 消費性向: II. 主観的な要因
Abstract
- 消費性向を左右する主観的な理由はいろいろある。
- でも社会全体で考えると、それはあまり意味がない。
- そして、金利が上がったら貯蓄が増えるといった安易な考えはすてること。それは投資をおさえ、結果としてみんなの所得を減らし、貯蓄はかえって下がる。
- つまり個人ではなく、社会全体としての収支を考えると、話はまったくちがってくるので注意すること。
本文
Section I
- 1. どのくらい消費するかは、主観的な要因や社会的な要因でも決まる。ざっと見よう。
- 2. 所得を使い果たさない理由としては、不測の事態に備える、高齢や教育用の貯金、金利生活のための原資、あとでたくさん消費するためにいまはちょっと消費を抑える、お金を持つこと自体で独立性の気分を味わう、投機活動の原資を作る、財産をため込む、とにかくお金が好き、といった理由があるだろう。
- 3. 用心、計画性、計算高さ、改良、独立性、起業家精神、名誉、守銭奴、といってもいい。その動機としては、楽しみ、近視眼、鷹揚さ、計算ミス、豪奢等々があるだろう。
- 4. また個人ではなく国レベルでやっていることもある。将来の資本投資のための貯金とか、非常時のための流動性確保、自分が効率性が高いふりをするために当初は意図的に消費を避ける、用心のために貯金、といったものだ。
- 5. ときには消費が所得を上回ることもある。たとえば高齢になったら預金を食いつぶすとか。
- 6. これらの動機は、生まれ育ちや社会慣習に左右されるもので、そんなに急激には変わらないだろう。決まった性向があってそれはゆっくりしか変わらないということにしておけば、深入りしないでもすむ
Section II
- 7. こうしたものが重要で長期的にしか変わらず、金利とかは消費性向にあまり影響を与えないなら、短期の消費変化は所得の変化に左右されるのであって、消費性向の変化に左右されるものではないといえそうだ。
- 8. でも、金利は消費性向には影響しないけれど、実際の消費/貯金の絶対額には大きく影響することをお忘れなく。でも、その影響の向きは一般の常識とは逆だ。金利を上げると将来の所得が増えるから、貯金が増えそうなものだが、実際には金利を上げると貯蓄は減る。総貯蓄は総投資で決まる。金利を上げれば投資は減る。だから金利が上がったら、それは所得水準を減らして、貯金と投資を一致させるように作用する。金利を上げると、貯蓄と消費はどっちも減るわけだ。
- 9. 要するに、金利が上がると総所得に占める貯金の割合は増えるけれど、その後総所得が下がることで実際の貯蓄総量は減る。
- 10. 所得が同じだったら、金利増で貯蓄は増えるだろう。でも高金利で投資が減ったら、所得も変わらざるを得ない。みんながまじめに貯金して倹約すればするほど、金利が増えたときの所得の減り方は大きくなる。
- 11. だから実際の総貯蓄の比率は、主観的な要因等々にはまったく影響されない。金利が投資に有利かどうかで決まる。
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2011.10.10 YAMAGATA Hiroo (hiyori13@alum.mit.edu)
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