CYZO 2008/11号。表紙は 山形道場 ?? 回

今月の喝、ではなく悩み;アフリカ援助関係者の憂鬱

(『CYZO』2008 年 11 月)

山形浩生

要約: アフリカの発展が進まない理由はみんなが援助しすぎて、現地の役人が本来業務よりも援助機関などの対応に忙殺されているせいだという説もある。カンボジアの二輪車工場の状況など見ると、それに類する事態が起きている。



 先日訪れたある国では、先日まで日本企業の工場が一社しか進出していなかった。少なくとも、東洋経済の『海外企業進出総覧』に出ている分は。おかげで、この工場の親分さんはたいへんなことになっていたのだった。国会議員やら各種省庁やら関連団体やら、はてはぼくのような民間企業の人間までが、その国を視察したいとか、その国の工業の現状を見たいというような話が出るたびに必ずその工場に押しかけることになる。

 ぼくのようなチンピラ相手ならいざ知らず、もちろん所轄官庁の偉いさんが来るとか、議員さんが見物させろとかいうことになったら、そうそう断るわけにはいかない。「もうやたらに人がくるので、仕事になんないんですよ。うちは外交使節じゃないんですけどねえ」とその工場長さんは笑っていた。

 が、こないだイギリスのエコノミストを読んでいたら、アフリカの援助がうまくいかない理由について述べていて、それがまさにこの同じ構図なのだった。効果があがらないのは、援助が少ないからではない。多すぎるからなのだ。いまやみんなアフリカに援助したがる。でも、援助して効果がありそうな国は限られている。すると、そうした国の教育省、保健省、エネルギー省、その他援助が入ってくるところには、援助が山のように押し寄せるということになる。しかも政府系援助機関や、世界銀行といった国際機関だけじゃない。大小様々なNGOや企業なんかもやってくる。そのたびに、担当部局のお役人は、時間を割かなくてはならない。足りない資金を出してくれるんだから、愛想の一つもふりまかざるを得ない。が、その結果、お客さんの相手をする時間ばかりが増えて、本来の業務をしている暇がまったくなくなってしまうというのだ。

 しかもたいがいのところは、自分の出した援助がきちんと使われて成果をあげているかどうか確認したがる。そうでないと、本国で無駄金使いとかばらまきとか言って突き上げをくらうもの。したがってかれらは、「援助成果報告書」みたいなものの提出を援助の条件として要求する。これまた作るのに手間暇かかる。何にいくら使い、学校をいくつ作り、生徒が何人通って、その子たちの成績がどれだけ上がり、結果として村の生活水準がどれほどあがり、貧困者がどれだけ削減されましたか——学校一つ作って半年で貧困者がどれだけ減ったかなんて、どう考えてもわかりっこないような話まで、報告書として要求される。

 そんな状況じゃまともな仕事なんかできないし、援助のつもりが逆に足を引っ張っているんじゃないの、というのがその記事の趣旨だ。

 いやはや、確かにそういう面はあるのだ。援助する側——ぼくのように現地に行くコンサル——は、先方のためにいろいろやってあげるんだから、少しはこちらの作業に協力してよ、データくらい出してよ、と思うんだけれど、でもそういうコンサルが何十人といれば、それはやってられないわな。が、じゃあどうすればいいのか、というとこれがむずかしい。援助機関同士が話しあって、似たようなネタは一本化してみんなの資金をプールしよう、というアイデアはあるし、一部では実施されているんだけれど、国や機関によってもやりたいことがちがうので、なかなか方向が統一化しづらいうえ、その一本化自体がかなりの手間だし、そういう話し合いに乗ってこないところも多いし。

 ちなみに冒頭の国では最近になって、日本企業の工場がやっともう一つオープンした。やれやれ、これで負荷が多少は分散されて、Mさんも肩の荷が少しは下りることだろう。アフリカ等でも、援助を国だけに限らず相手国の民間企業に対してやりやすくすれば、もう少し分散のしようはあるのかもしれない。それはそれでまた、透明性とかいろいろ問題も起きそうなんだが。関係者としては、頭のいたいところではあるのだ。

近況:その後、その国とは別にラオスにでかけております。ここはコオロギとか虫をいろいろ食べるので楽しゅうございます。


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