CYZO 2006/05号。表紙は夏帆 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! ではなく賛! 児童労働とキッザニア

(『CYZO』2006 年 5 月)

山形浩生

要約: 子供を働かせて労働体験をさせるというキッザニアのコンセプトはすばらしい。仕事はやればやるほど資本家に搾取されるだけで、なるべく仕事をせずに多くをもらうように努力しようという労働組合系サヨクは、最終的には自分の存在意義を否定する自縄自縛の運動だったが、それとはちがう労働自体の楽しみを教えることは本質的に重要だ。



 先週、近所の甥っ子どもをはした金で動員して、宴会用テーブルのペンキ塗りと組み立てをやらせたことであるよ。いわゆる児童労働の搾取ってやつですな。でも甥っ子どもはおもしろがっていたし、だんだんガキなりに仕事へのこだわりも発達させていくのは見ていてもおもしろい。そしてそれは、お駄賃とは別のところで本人たちにも(たぶん)少しは役にたつだろう。

 さて、この手のことで大騒ぎするNGOの連中がいる。子供を働かせるのはけしからん、子供は学校に通うべきで云々。子供の権利を守れ云々。そして途上国で子供を使った工場等にあれこれいやがらせをする。これについては昔、朝日新聞にコラムを書いたことがある。労働条件さえちゃんとしているなら、子供に労働させていけない理由はまったくないとぼくは思う。そして子供の権利を云々するなら、労働を選択する権利も認めてあげてはいかが? ちなみにこのコラムにはあれこれ予想通りの抗議の投書がきたとか。やれやれ。しかもそういうのが先進的と思われてる。ガキどもに働くことの意義とか厳しさをきちんと仕込んどかないと、あとあと禍根を残すのに、世も末だねえ……

 ところが。ぼくはまったく知らなかったんだが、メンズ雑誌『GQ』6月号によると、なんでもメキシコには子供を働かせるテーマパーク『キッザニア』があるんだと。そしてそれがこの秋には日本にも上陸するそうだ。すばらしい。

 もちろん、働くといってもママゴトではあるんだが、かなりきちんとしたママゴトだ。そのテーマパーク自体の建設運営にかかわる作業をやらせて、ちゃんと賃金も、園内で通用する通貨で支払われるんだって。すごい。もちろん、そこで行われる「仕事」には限界がある。でも、疑似停電その他のトラブル対応もあって、単なる楽しいママゴトだけでもなさそうだ。

 昔の社会主義はちゃんと労働の教育的効果を理解していて、共産党青年団みたいな組織が各種労働体験を担当していたし、いまでもブダペストでは子供が運営するピオニール鉄道が生き残っている。まあ本当に人命にかかわる運転等はやらせないけど、駅長から切符売りからもぎり、車掌まで子供がやっているのは愛らしいし、明らかにみんな自分の仕事がもっと大きな鉄道という仕組みを動かしているという認識をもっている。

 ところが労働組合系サヨクは、いかに賃金をむしりとるか、いかに休みを増やすか、といった話ばかり重視する。結局これは、いかに仕事をせずに金をもらうか、という話でしかない。学者やヒョーロンカの相当部分はまともな意味で働いたことがなくて、企業の歯車になるのがいけないとか自己実現とか腐った話ばかりしたがる。その点、村上龍は(あれこれ文句はあるけれど)非常にえらくて、はやめに各種の職業を理解させる重要性をきちんと見抜いていた。かれの『13歳のハローワーク』はその問題意識を形にした実に見事な成果だし、それが売れたということはそうした関心が一般読者の間にも広まっていることを示している。

 そうだとしたら、キッザニアが上陸の暁にはかなり成功するんじゃないかな。いや、是非成功してほしい。それは羅列的なカタログである『十三歳のハローワーク』にできなかったことができる。仕事がすべて相互にからみあっているのだ、と認識させることだ。子どもたちは悟るだろう。単なる「消費者」なんてのは(あまり)いなくて、みんなあるときは生産者であるときは消費者なんだ、と。人はみんな社会の歯車だけれど、それはいいことなんだ、と。いつか、それを知った子供たちが、このキッザニアの運営を完全に乗っ取ってそこが自律的に動き始めたら……だがそれはちょっと楽しすぎる想像かな。

近況:かくいうワタクシめは年度が明けて新規の仕事が入らず、部長に営業しろと怒られています。とほほほ。


前号へ 次号へ  『サイゾー』インデックス YAMAGATA Hirooトップに戻る


YAMAGATA Hiroo <hiyori13@alum.mit.edu>
Valid XHTML 1.1!クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このworkは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
の下でライセンスされています。