CYZO 2005/10号。表紙は堀北真希 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! ホワイトバンド

(『CYZO』2005 年 10 月)

山形浩生



 今日、ガーナの首都アクラで大規模なコンサートをやっていたのだ。いやー、久しぶりにまともなコンサートに行った! しかもガーナのバンドだけでなく、サリフ・ケイタ(お懐かしや!)やセウン・クティ、マホテラ・クイーンズまで来てるし。でも、ガーナ人はみんな最前列でもじーっと立ってるだけで、ノリの悪さがちょっと意外。そして、貧困削減のためのコンサートだってのに、無料なのだ。なんで? お金集めないと貧困削減できないのに。司会があれこれ能書きをたれ始めてやっとわかった。これ、例のホワイトバンドの一環だったのだ。ほら、サッカーの中田英寿や水泳の北島康介なんかが宣伝してるやつ。貧困に対する認識を高めるためにやってるから、無料なんだって。こんなにたくさんの人が貧困削減を訴えて集まってるぞ、と国連総会にアピールするのが今回の趣旨なんだって。もちろん、来場している多くの人は、無料のコンサートに惹かれてきているだけなんだけれど。

 で、各バンドは 3 曲くらいやって交代するんだが、その間に必ずホワイトバンド関係者が出てきて、貧困を撲滅しよう、貧困にノーと言おう、そのために先進国に債務の完全放棄と、よりよい援助と、市場開放と、国内の汚職追放を求めるんだって。アフリカの貧困はすべて奴隷制に始まる先進国の搾取のせいなんだって。だから先進国はもっと金をたくさん集めてアフリカを支援し、今すぐ貧困を撲滅してあげなきゃいけないんだって。

 うーん。連中は「3 秒に 1 人の赤ん坊が貧困のために死んでいます。だから貧困を根絶しなければ」というプロパガンダを流しているけど、貧困というのは、麻薬じゃないんだから、ノーと言って済むもんじゃない。病気じゃないんだから、予防接種1本打ってそれでおしまいでもない。金をばらまけば明日にも貧困がなくなるようなプロパガンダは有害無益。日本が敗戦から立ち直って経済が回復するまで何年かかった? アフリカなら、どんなに金をつっこんだところで、あと20年かけて貧困が 3 割でも減ったら御の字だ。  債務削減もみんな大好きだけど、これまで大量に削減してるのに、あまり成果が上がってないことをどう説明するのかな。返済の滞った債務は、削減したところで帳簿上の数字が変わるだけで、実際のお金の流れには大して影響がないんですけど。

 そして奴隷についても、ガーナには奴隷取引の資料がたくさん残っているから調べればいいのに。このあたりでは白人がアフリカ人をかりたてて、黙って無料で連れ去ったんじゃないんだよ。アシャンティ族が鉄砲を買うために、自分たちが仲間を西洋人に売りとばしてたんだ。奴隷取引自体の是非はさておき、西洋人は当時は超ハイテク機器だった鉄砲で、代金をちゃんと支払っている。

 今のアフリカにいる人たちは、奴隷に取られずにその代金を受け取って金持ちになった人の子孫だ。さて、その金はどこに消えたの? アフリカの人たちが無駄遣いしちゃったんだよ。現代も、サブサハラアフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)は貧乏すぎて搾取すらできない。労働の質やインフラ水準が低くて、工場一つ作るのも一苦労だ。今の貧困の相当部分は、アフリカ諸国の自業自得だったりするのだ。言いたかないけど。

 幸い客のガーナ人のほうが、そうしたプロパガンダには冷静だった。ほとんどだれも反応しない。そしてキリスト教の司教さん1人が、アフリカの人々も人の懐や手助けを当てにせずに自分の力で頑張ろうと訴えていた。それがわかってるなら、多少は希望があるかも。貧困をなくすには、何よりもアフリカの人たちが自分でなんとかしないと。先進国にできることは、実は結構少ないんだよ。そしてそれから目を背けようとするホワイトバンドは、たぶんなんの成果も挙げられないだろう。無料コンサートは嬉しかったけれど。



近況:というわけで、意外にも日本より遙かに涼しいガーナにまたずっとカンヅメになっております。ぼくの仕事もここの貧困削減にちょっとでも役に立てばいいのだけれど……



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