CYZO 2005/07号。表紙は 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! フェアトレード

(『CYZO』2005 年 7 月)

山形浩生



 先日国際会議で南アにいたら、同じ宿の隣でフェアトレードの旗をふる連中が集会をしていて、その成果品のワインやコーヒーの試飲会をやっていたので、ありがたくいただきながらちょいと話をする機会があった。

 フェアトレードというのは、先進国が後進国を搾取するのはけしからん、という運動の一つだけれど、結構広まっている。スターバックス好きなら、フェアトレード・ビーンズというのを見たことがあるだろう。といっても、これにも流派が多少はある。ぼくが話をした人に言わせると、現在の途上国の一次産品取引はフェアでないので、それをただそうとするのがフェアトレードだとか。

 ふーん。で、そのフェアって何なの? そう尋ねると、ワインを注いでくれたおばさんは嬉しそうに説明してくれた。現在では、途上国の一次産品は国際価格に比べて安く買いたたかれて、仲買人やグローバルな国際流通メジャーが不当な利益を得ているのよ。わたしたちは末端価格の相当部分を生産者がフェアに受け取るようにしたいの。

 うーん。だから、そこでのフェアって何? インフラが未整備で作柄も不安定な途上国から産物を探したり、それを輸送したりってかなり苦労も努力もコストもかかるでしょう。それだけの努力の見返りに多めに取ってもいいのでは。

 するとおばさんは、もうワインをくれなくなった。生産と流通の比率は先進国と途上国ではまったくちがっている。それはおかしいでしょう! 流通が不当な利益をあげているのよ!

 でも、先進国と途上国ではそもそも価格水準はちがうんだよ。同じサービス、たとえば床屋や教育のお値段はちがうけれどそれは別に不当じゃないでしょう。

 そう尋ねると、彼女はだんだん目に見えて怒り出した。でも実際に農家の人々にきくと、不当に買いたたかれて不満だとみんなが言っている、といって。

 そりゃ高く買ってくれるあなた方の機嫌を損ねるようなことは言うまいよ。でも文句あったんなら、その人たちはもともとそのグローバル流通業者に売らなければいいじゃない。別の作物作ればいいじゃない。そういうと彼女は、哀れむような目つきでぼくを見た。かれらは他に換金できる作物がないのよ。他の作物に切り替えたら収入がさらに減るだけだわ。

 だったら……そのグローバル流通業者は、かれらにとって一番儲かる作物を、一番有利な条件で買ってあげているわけじゃないの?

 さて、ぼくはここでちょっと意地悪な単純化をしている。実際にはもうちょっと事態は複雑ではある。ただ、流通の功績(とその対価)はそんなに否定すべきものじゃないというのは確かだ。そしてそういう発想は昔ながらの差別意識の反映でもあるんじゃないか。

 それは江戸時代に士農工商で商を最下位においた意識でもある。またピンカー『人間の本性を考える』でも、中間流通は重要で有益な役割を担っているのに、常にピンハネ屋として差別され、迫害を受けてきたことが指摘されている。ぼくはフェアトレードというのが、そうした差別意識のあらわれか、少なくともそれを(無意識にせよ)利用しているように見えてならない。生産者ばかりがえらいわけじゃない。流通ってえらいんだよ。生産者と同じかそれ以上に、頭も使うし汗もかいている。あまりそれをいじめると、途上国奥地はいつまでも市場化できず貧困のまま停滞するばかりだよ。

 もちろんフェアトレードは流通たたきだけじゃない。派閥の中には、生産者の労働条件改善向けにちょいと小売り価格を上乗せするようなものもある。そういうのを支援するのは、非難されるべきことじゃない。ただ、フェアトレードというレッテルを見たとき、いったいそこでの「フェア」ってのがどんな意味なのかはちょっと考えたほうがいいかもしれないよ。



近況:ガーナ北部では、サハラ砂漠からの砂塵(ハマターン)で晴の日も太陽がかすんでいるのでした。長くいると目をやられたりするそうです。



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