CYZO 2004/06号。表紙は夏目ナナ 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! 坂本龍一たちの金融NPO

(『CYZO』2004 年 6 月)

山形浩生



 坂本龍一とはじめとする音楽屋さんたちが、NGO/NPOにお金を貸すNPOを始めるんだって? すばらしい。是非とも成功して欲しい。おそらくぼくの考えてる「成功」と、坂本龍一の考えてる「成功」ってのはかなりちがうだろうけれど。

 というのも、金貸しってそんな甘いもんじゃないんだよ。邪推ながら、坂本龍一はたぶん「よい」活動をしたいのに資金がないNGOにお金を出してあげよう、というくらいのことしか考えてないと思うのだ。でも、融資ってのは返済が必要だ。融資を受けるなら、返済の見通しがたつくらいの安定した収入が要る。ところが多くのNGOの活動って、そもそも収入なんかないのね。もらった寄付を使って、それでおしまい。特に人道援助とかはそうだ。各種被災地で炊き出しをやる――お金は出ていく一方でしょ。医療援助だってそうだ。

 もちろん、定期的な収入のあるNGOは存在する。強い実績があって、安定した寄付が期待できるところとか。あとたとえば風力発電NGOは、価格統制のおかげで高い値段で電力を確実に売れたりする。あるいは政府の下請け(広い意味で)をやってるところ。介護NGOみたいなところがそうだ。でも、それだけの実績と確実な収入見込みがあるところなら、たぶん坂本龍一が手を出さなくても、必要な資金は手当てできそうだ。

 さらに、融資を受けるのに必要な透明性を持てるNGOはほとんどないだろう。それは多くのNGOたちの活動がもともと不透明でデタラメだからってだけじゃない。アカウンタビリティってのはそれだけでお金がかかるんだ。昔、スリランカでマイクロファイナンスNGOの話をきいたことがある。貧乏人たちに低利でお金を貸すことで、高利貸し依存を解消して経済的発展を手助けしよう、というわけ。その活動が認められて、こんど世界銀行もお金を出してくれるんだよ、と言っていた。でも世界銀行の要求する会計基準を達成するとかなりコストがかかって、融資金利が市中金利並になっちゃうので、かれらは悩んでた。もちろん、かれらの相手にしている貧乏人たちは、もともと市中金利で融資が受けられる人たちじゃないから、これでも十分に意義はある。でも、金利があがって融資を受けられなくなる人は確実に出る。そこまでやりたいか?

 要するに、世の中に善意はあるけれどお金のない人はいるだろう。でも、善意だけでお金は貸せない。善意もあって、ある程度の活動実績があって、収入もしっかりして、会計的な透明性もあって――そんなNGOは多くないし、あっても坂本龍一の助けなんか要らない。じゃあ実績のないところに見込みで貸しこむか? 不可能じゃないけれど、もちろんそれは不良債権の山と化す可能性が大きいし、またそうやって貸すこと自体がNGOのオーバーヘッド増大を引き起こし、活動に制約を加えることになる可能性も高いってことは認識しなきゃいけない。だからといって、透明性を要求しないわけにもいかない。そんなのは濫用と悪用の温床でしかないからだ。が、坂本たちはそれがわかってるかな?

 すると結局のところ、このNPOの行く末はどうなるだろう。坂本龍一たちが勝手な思いこみとコネをもとに、あそこに融資しろ、ここに融資しろ、と融資審査を無視した口出しをして怪しげなところに貸しこんで、十年しないうちに不良債権の山で破綻、というのが一番ありそうなシナリオだと思うのだ。ぼくはそうならないことを祈ってる。坂本龍一たちがどっかでお金の厳しさに目覚めて、思い通りのところに貸せないフラストレーションをつのらせつつ、まあ事業としてはそこそこに成功してくれることを祈っている。それはひょっとすると、まともなNGOと会計不明朗インチキNGO選別の契機になるかもしれないからだ。が、まあそんなことはあり得ないとは思うのだけれど。



近況:珍しく先進国にきているので、なんだか勝手がちがってとまどっているのです。



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