CYZO 2003/07号。表紙は赤字に「企業力活用テクニック」とゴチ縦書き 山形道場 復活第 ?? 段

今月の喝! M2のグローバリズム談義

(『CYZO』2003 年 7 月??)

山形浩生



 前号のM2対談にはかなりがっかりさせられた。特に前半。アメリカの政治・思想的な現状の批判がしばらく続いているのは結構。ぼくだってあれは気に入らないないもの。でも、そこから出てきたグローバリズムとエネルギー問題の話は、ぼくには疑問符ばかりだったのだ。

 まず、議論の参照点だ。その議論で真っ先に名前が出てくるのがレスター・ブラウン。宮台はこの人のエコ・エコノミーだの「ポジティブな主張が重要」だのいう話を真に受けているけれど、この人のポジティブな主張の多くはインチキ、よく言ってもマッチポンプなのだ。恣意的なデータ操作やゆがんだ推計のオンパレード。それをバリバリに指摘した本は、前にこの欄でも紹介したロンボルグの本だ。さらにかれの主張するエコ・エコノミーの例は、先日の『論座』2003年6月号によれば、デンマークの再生可能エネルギーや日本の屋上ソーラー温水器等々。デンマークの再生可能エネルギーなんて、補助金漬けで初めて成立しているのに。日本の屋上ソーラー温水器だって、実にマイナーな存在でしかない。ぼくもブラウンの主張を全部チェックしたわけじゃないし、他にまともな主張をしている可能性だってある。でも、ホントにこの人から「日本人のとるべき選択の指針」なんか得ていいの? ついでながら、その後出てくるスーザン・ジョージも……引き合いに出さないほうがいいと思うよ。

 さらに宮台は、グローバル経済よりローカライズした経済のほうがエネルギー安全保障上望ましい、とのたまう。でも安全保障というのは、別に「戦争が起きたら」という話だけじゃない。むしろ、日々、各種の必需品が安定して低価格で入手できることを保証する、というほうが重要だ。安全保障のために貿易を通じた相互依存構造を作るという考え方だってある(世界銀行なんかは積極的にそれを後押ししている)。ある意味ではグローバル化を進めるほうが安全保障上有利なのに。再生可能エネルギーの開発はやっとくれ。個人的にも、また仕事の上でも、分散型の再生可能エネルギーがいまの半額以下になってくれると助かる。でも、エネルギーだけ見て安全保障を議論するのは、そもそも近視眼的な話ではないの? ついでにその後で宮崎が述べている、「アメリカは90年代以降(中略)中東依存度を下げてきた」って本当かね。国際市場調達なんだから地域はあまり関係ないだろうし、世界の石油の中東依存度は一九八六年以降ずっと上がっている以上、アメリカの中東依存度だって上がってるはずだけれど

 またこの二人のODAに関する理解も困ったなあ。ODAはプロジェクト単位で資金提供するんだから「これらの開発事業に優先的に当てるべし」なんて言うまでもなく、特定の事業にしかお金は使えないのです。それに中国のエネルギー政策転換にはODAのような借款ではなく贈与を、と言うんだけれど、ODAは贈与だって多いのに。さらにどうして贈与で中国がエネルギー政策の転換をするのか、ぼくにはまったく理解できない。

 というわけだ。個別の話でこれだけ疑問点が出てくると、ぼくはその後の議論の展開にも(そしてその前の議論にも)かなり眉にツバをつけざるを得ないのだ。その後の「効率重視に基づいたローカル化を」という宮台の議論も、特にそれをグローバリズムと対比させる議論はかなり変だ。グローバリズムは効率性重視の帰結でもあるんだし。

 まあその後の話は少しおもしろかったから、それでいいのかもしれない。雑誌の対談にそこまで期待するのもねえ。でも、あたりまえだけれど鵜呑みにするのは気をつけた方がいいことを、読者のみなさんはキモに命じておいた方がいいと思うぞ。



近況:文中にも出たロンボルグ『環境危機をあおってはいけない』(文藝春秋)6月末刊。またシュナイアー『暗号技術大全』(ソフトバンク)も出ました。



付記:これに対して宮崎哲弥から、外務省の資料が出てきた。こっちによると中東依存度は下がっていることになっている。個人的にはeiaのほうが権威あるように思うけれど、では宮崎側の資料がどうまちがっているのかは必ずしもわからない。したがってこの点は要注意。

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