CYZO 2000/09号。表紙は片瀬「きれいなお姉さん」那奈……だがオレの歳だとお姉さんには見えないな。 山形道場 復活第 16 段

「CIA と情報処理」

(『CYZO』2000 年 09 月)

山形浩生



 いや、今月のは喝というより、なるほどという話なんだが。H2K というものに顔を出してきたのであるよ。二、三年ごとに開催される、世界ハッカー会議の三回目だ。

 この会議に集まるハッカーたちは、各種システムを解析して穴を見つけるのが趣味の人々が多くて、一歩まちがえるとよく新聞なんかで誤用される、他人のシステムに不正侵入したり破壊したりする人々という意味での「ハッカー」になりかねない部分を持つ。そのかわり、裾野が広い。対象はコンピュータだけじゃない。時計から冷蔵庫から、はたまた人間組織まで、なんでも対象になる。そして今回の会議でいちばんおもしろかったのが、CIAについての話だった。講演者は元CIAのロバート・スティール。

 かれの議論というのは、いまの先進国の秘密諜報活動はほとんどすべてまったく機能していない、ということだった。情報員による情報収集も、人工衛星もエシュロンなどの盗聴システムも。そしてその最大の原因が、情報収集には金をかけるのに、情報解析にはまったくお金をかけない、という偏りと、さらに世の中で有用な情報のほとんどは公開情報なのに、秘密情報の収集ばかりに注力するアンバランスさ、なのだとのこと。

 「いまの人工衛星は、グレープフルーツ大のものが見分けられる解像度がある。ただし問題はだね、写真の中でそのグレープフルーツがどこにあるか、見つけられないんだよ。砂漠のまん中にあるスカッド・ミサイルがみつけられないんだぜ。かなり重症だろう」

 「エシュロン。うん。いろんな情報が盗聴される。そりゃそうだ。でも、盗聴されてもほぼ絶対に解析されることはない。技術自体も七〇年代の代物で、つかいものにはならない。提案されてから各種の官僚システムを経由して実際にプロジェクトが動くまでに時間がかかりすぎるんだ。さらに官僚の大半は技術的にまったく無知。なにが問題かまったく理解できていない」

 「CIAのケースオフィサー(エージェント、ではない。エージェントというのは現地で雇うタレコミ屋のこと)はつかいものにならん。雇われるのは何も知らない大学の新卒。さらにそれが、ろくに現地語もしゃべれないまま派遣される。現地の新聞が読めないんだよ。いい例が、例のインドとパキスタンの核実験。自分たち以外の思考体系ってのがまったく理解できないCIAのアナリスト連中は『いや合理的に考えて、損失が大きすぎるからどっちも実験なんかするはずがない』とか言って、みんなそれを信じていたもので、ホントに実験を連中がやったときにはまさに寝耳に水。ところが、現地の新聞には一月前からでかでかと『付近の住民はでっかい爆発があるからさっさと避難しろ』っていう政府の公報がずっと出てたんだよ。なのに現地からはそれが一切つたわってこない。

 スパイのよくないところは、スパイは秘密しか知らないってことなの。でも、実際に使える役に立つ情報ってのは、九割は秘密でもなんでもない、公開情報なんだよ。ところがいまのCIAはその公開情報を集める手段をぜんぜん持っていない。さらにスパイは自分たち同士でも秘密主義。集めた情報をどう使うか、という視点が皆無。引継や情報共有を一切考えない。だから、現地のタレコミ屋どもは、担当者が変わるたびに同じ情報を何度も売って、大もうけをしている。集まった情報はしまいこまれてまったく使われない」

 「今後、CIAは情報というものに対する考え方を変える必要がある。公開情報にどう取り組むか、そして自分たちの情報解析と情報公開をどうするか、徹底的に考え直さないとダメだ」

 その他、旧東欧の情報提供者たちとの関係についての大失敗話とか、おもしろい話が山盛りだったんだけれど、紙幅がない。さらに、かれの発言自体が情報操作ではないか、という可能性も、あり得ないわけじゃない。ただ、ここで挙がっている情報処理の問題点というのは、CIAにどれだけあてはまるかはさておき、いまあらゆる組織や機関において問題になってきているのと同じテーマなんだ、ということは指摘しておこう。これについてはまたいずれ。

近況:スマッシングパンプキンズの最後の来日コンサートにいってまいりました。コンサート自体はよかったけれど、うーん、まだ解散しなくていいじゃないかー。ため息。



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