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CUT 連載書評


 CUT はいったいなんでぼくになんかこんな書評を続けさせてくれてるんだろう。渋谷陽一が「死の迷路」訳者解説を見て、こいつはなんか書けそうだと思って依頼してきたのが最初なんだけど、当時は(いまも?)ほとんど実績のなかった人間に、なんと大胆な。
 新刊だろうと旧刊だろうと写真集だろうと経済書だろうと、なんでもできるのはホント得難い場ではある。でも、つまんないのが続くと怒られるし(「最近は山下達郎より反響が少ないですよ!」(涙))、しかも途中から吉本親子とタメはらなきゃなんないっつー……いつ打ち切りになるかとヒヤヒヤしながら書いてて、先日も「実はこんどから月刊になってコラムを刷新するんですが……」という電話がかかってきて、ああきたか、ついに終わるか、と腹をくくったら「山形さんには続けて書いていただくということで」と続くことになってしまった。なんで?!? 気がつけば、ぼくが CUT 最古参のコラム書きになってるじゃん!
 ……そして月日は流れてはや 17 年。CUTが方向性を変えるそうで、もうすでにかなり傾向は出ているけれど、ジャニ系男性アイドル中心の雑誌になるんだとか。それにあわせて山形書評はついにおしまい。長いことお世話になりました。
 なお、下の月表示は、その号の発売月ね。執筆はその一ヶ月前。表紙の号数は、その翌月。

1991-1992 1993-1994 1995-1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007


CUT 2007/02 表紙は都合により見せられません 2006.12 橘怜『マネーロンダリング入門』

 たいへんにおもしろい本です。読んで字のごとくマネーロンダリングの話なんだけれど、まずきちんと事例ベースで話を展開することで、「こっちの口座からあっちへ金を出して……」と無味乾燥になりがちなマネロンの話におもしろみを持たせるのに成功しているし、その中でマネーロンダリングそのものの凡庸さを説明しつつ、それが世界の金融システムと関わる仕組みまで解説するやりかたも上手。そして最後にそれが一般読者にも必ずしも無縁でないところからいつもの橘怜の持論につなげるあたりもうまい。それを新書でできているのはえらいもんだ。

CUT 2007/03 表紙はスパイダーマン3 2007.01 『ピタゴラ装置 1』

 ピタゴラスイッチのオープニングアニメ集。20分ほどの短いDVDながら、その背景や詳しい説明の本もセットになってお買い得。エレクトロニクスなどでブラックボックスにしない、子供が見ても物事の仕組みがきれいにわかるような長いルーブ・ゴールドバーグ装置を作り続けているのはすごいもんだ。あと、これが実は一発撮りではなく、何回も撮り直していることがわかるのは、「やっぱそうか」とほっとする部分もある。続編も2007年4月に出るようで、すばらしいことです。

CUT 2007/04 表紙は東京タワーのオダギリ 2007.02 カーツワイル『ポストヒューマン誕生』

 カーツワイルは、この前のやつも読んだような読んでいないような……でもこの人たちの「死んでもクローンがあるから死ぬのこわくない」という発想はホントに理解できない。あっちにクローンがいようがこっちにいるぼくは死ぬんだから、それはこわいでしょうに。でも、なかなか珍しい前向きな本。

CUT 2007/04 表紙は 2007.03 ロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏I ジュスティーヌ』

 待ちにまったアレクサンドリア四重奏。全面改訳ということで比べつつ読み直しているが、うーん、旧訳の何を気にしていたのかはよくわからない。最初の数十ページくらいはほとんど変わっていない。でも今回読むと、なぜ次の二冊が必要だったのかやっとわかった。かつてはジュスティーヌだけで完璧だとおもっていたけれど、でもそこには(この書評でちょっと論難したような)虚構がある。そしてそれは計算ずくのもので、それがあるからこそその虚構を補うべきものとして『バルタザール』や『マウントオリーブ』があるのだ。
 17 年続いた連載、最後の書評がこれでよかった。



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