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関係者による悪質なお手盛り本。

原田 宗彦「スポーツイベントの経済学」(平凡社新書)

 2002年ワールドカップ開催で、みんながテレビを見に帰るので繁華街がかえってさびれた、とかタクシーが商売あがったりだった、といった報告がたくさんあったのをご記憶でしょう。イベントの経済効果を考える場合、たとえばワールドカップのグッズやチケットが売れた、というプラスの効果と同時に、こうした他の経済活動に対するマイナスもあわせて考える必要があります。一つのイベント業者が自分の収支だけを考えるならそんな必要はないのですが、経済全体を考えた場合には、一つのイベントで金を落とす人が増えても、その分ほかのところで財布のひもが締まるのであれば、それは相殺されてまったく経済効果はなかったことになります。ワールドカップの場合、特にワールドカップのグッズやチケットを買ったりしなかった人も、テレビを見に帰って夜遊びが減ったりしたので(そういう人のほうが圧倒的に多かったはず)、全体としてはむしろかなりのマイナスだったかもしれません。また、外国からやってきてお金を純粋に落としてくれる人も、予想の30万人に比べて実際は3万人程度と数も少なく、またきた人もそんなにお金を使ってくれない貧しい純粋サッカーマニアばかりで、予想と比べてかなりひどい状況でした。

 東京オリンピックや万博の頃は、マイナス面を考える必要はあんまりありませんでした。なぜかというと日本人はまだ貧乏で、オリンピック用に支出を増やしても他で削るところがあまりなかったからです。だからオリンピック向け支出が特に他のところでマイナス効果にはなりませんでした。でもいまはそうはいきません。ワールドカップが見たいから韓国に行こうとなったら、これは大きなプラス効果ですが、ワールドカップがあるから家族旅行をやめて家でテレビを見ようとなったら、これはすごいマイナス効果です。そして後者のような事態はたくさんあったわけです。

 電通などが発表する各種イベントの経済効果と称するものは、実はこのマイナス面をまったく考えていません。したがって、常に過大に発表されています。またワールドカップの場合、かれらの試算はたとえば予想来訪者数30万人という大本営発表に基づいた推計をしているはずですが、実際に3万人しかこなかったとなれば、その推計はたぶん大幅にはずれていたでしょう。本当に(施設建設投資以上の)短期的効果はあったのか? さらに長期的な施設の運営経費が地方財政に与えるインパクトまで考えると、実はイベントの効果がどこまであるのかは疑問です。かつての博覧会ブームが一過性に終わったように、イベントを定着させ、具体的に長期的な経済効果を持たせるのは実は大変なことです。で、スポーツイベントの経済学を考えるなら、こういうことを全部考える必要があるわけです。

 ところが本書は「スポーツイベントの経済学」と言うくせに経済学のかけらもありません。まず電通発表のミスリーディングな「経済効果」を鵜呑みにしてスポーツイベントをひたすら称揚し、マイナス効果には何もふれず、さらに長期的な影響についてもほとんどふれず(わずかにユニバーシアードのシェーフィールド市の例がちょこっと引かれているだけ)、「長期的な戦略」とお題目は書くもののその中身は薄い(まあ新書だから……)。著者はJリーグ関係者で大阪オリンピック誘致委員だったりして、明らかに政治的な意図でよい部分だけかき立てています。その意味で、悪質と言っていい本です。眉にツバをつけて読んでください。おすすめできません。



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