All About Paul Samuelson: 『クルーグマン教授の経済入門』あとがきの補足





クルーグマン『期待しない時代』刊行によせて




 今日、経済関連の書き物はかつてない高い水準になっまとりすな。でも、いまはなんせ数が多すぎる――しかもお互いに目的が交錯しあって意見も対立しとりますし。だもんで、みなさんのような知的で志の高い読者は、どれを読むか、かつてないお手上げ状態になっちゃってますわ。どうしたもんですかねぇ。

 ここで必要なもんってぇと、優秀なガイドですな。試練をくぐりぬけて能力を実証してみせた研究家が書いたもので、強調すべき要点をちゃーんと選び出して、それを筋が通るようにまとめてくれて、しかも読んだ人に自信と理解をつけさせるってな本。こいつぁなかなかぜいたくな注文だ。でも、それをこなそうとしたのが経済学者ポール・クルーグマン。で、あたしの見たとこ、この兄さんはなかなかあっぱれな仕事ぶりを見せてくれたってことです。

 あたしゃ自分の世代の政策経済学者たちを誇りに思っとりますよ。名前はお聞きになっとるでしょう。ウォルター・ヘラー、ミルトン・フリードマン、ジョン・ケネス・ガルブレイス 、アーサー・オクン、ハーバート・スタイン、ピーター・ドラッカーなどなど。でも、どっかの御仁が言ってますが、科学ってやつぁ葬式ごとに進歩してくもんなんです。先人を葬り去りつつ進むわけですな。ポール・クルーグマンは今世紀から来世紀の上昇株でして、今や世界中が殺到してこの兄さんのドアを叩いちょりますんで。ご専門は国際ファイナンスですが、でもこの人の場合、それもいろいろある草鞋の一つでしかない。世界銀行、IMF、日銀、ボストンの連邦準備銀行――もうみなさん、こぞってこの兄さんの知恵とアイデアの泉を拝借しようとしてまっせ。

 この『期待しない時代』は文句なしの力作ですよ。経済学者もそうでない人たちも含め、本書を海図に使って、インフレや不況の謎、サプライサイド経済や生産性、変動為替相場や大荒れの株式市場の海を航海しようとするみなさんに、あたしからの一言:よいご航海を!

ポール・A・サミュエルソン
1990年 5 月



びんに入ったメッセージ




 『経済学』の序文に出て来るんだけどさ、ある日、MITのポール・サミュエルソンの研究室に、こんな手紙が届いたんだって(細部はちがってるかもしれない)。
「ぼくはロードアイランドに住んでる9歳の男の子です。こないだ釣りをしてたらびんが流れてきて、そのなかに紙が入っていて、
『MITの教授で「経済学」の著者のポール・サミュエルソンに手紙をかいてごらん。人生の真理が教えてもらえて、賢くなれるでしょう』
と書いてありました。教えてもらえますか」
そこでサミュエルソン、こんな返事を書いたとさ。
「よろしい、教えてあげよう。紙に書いてあるからってなんでも鵜呑みにするもんじゃないよ



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YAMAGATA Hiroo (hiyori13@mailhost.net)