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46.

きょう、ラウンドの合い間にスキバンスキーに、スキリマンとどんな仕事をしているのか訊いてみた。彼は、私をけむに巻けるだろうと思ったに違いない、テクノロジー用語を並べた曖昧な返事をした。私がこのサーブを手際よく返したところ、まもなくスキパンスキーは安心して活発に話すようになった。

そこから推測すると、スキリマンは地質学爆弾とでもいうようなものの可能性に注意を振向けているらしいーモホールで偶発的に起きた出来事に類するが、それよりもずっと大がかりなスケールでのものだ。地球から新たな山脈を盛上らせたがっているのだ。ファウスト的衝動というのは常に目の眩むような高みに向うものだ。

こんなエーデルワイスの小枝を摘む短い静かなひとときののち、私は実に穏やかに、そうした研究に関わってくる可能性のあるモラル上の問題にふれてみた。あらゆる大学院生は地殻変動の秘儀に入門を許される明らかな権利を有するものか? スキパンスキーは凍りついてあわや緊張病に近い状態になった。

この失策を埋め合わせようとして、私はボビーを会話に引き込もうと、以前うちあけられた細菌兵器戦についての感想を引き合いに出した。地質学戦争のほうが、といってみた、どちらかというとひどいもの、どちらかというと無責任なものじゃないだろうか? ボビーはなんともいえなかった――それは彼の与り知る分野ではないというわけだった。い ずれにせよ、キャンプAにいるわれわれは純然たる研究にのみ関っている。道義性が関ってくるのは知識の応用面であって、知識そのものではない、というような香油が、さらにたっぷり。しかしスキパンスキーは一向に雪融けの兆をみせなかった。私は間違ったボタンを押してしまったのだった、それこそ完全に。

それできょうのテストは終りだった。スキパンスキーがオフィスから出ていくと、ボビーはその温厚な性格の許す限り懲罰的になった。「ひどいことをしたもんだねえ」となじったのである。「きみはあのかわいそうな青年を完全に落ちこませてしまったんだよ」

「いや、ぼくはしないよ」

「したよ」

「おや、元気を出して」といいながら、私は彼の背中をぽんと叩いた。「あんたはいつも物事の暗いほうを見ているんだよ」

「わかってるんだ」と彼は鬱ぎこんで言った。

「そうしないよう努めているんだけど、時には、そうしないではいられなくなってしまうんだよ」



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日