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五月十七日

マフィアと私がしぶしぶわれわれの(いまにわかるが彼らのではない)房を共有しているホモの二人が、急におたがいに口をきかな くなった。ドニイは一日中便器に坐ってブルースを叩いている。ピーターは寝棚にひきこもってくよくよしている。時おリドニイが私に、本当か空想かわからないピーターの浮気について大声で不平を訴える(不貞をはたらくような機会があるのだろうか?)。年下で黒人のドニイは女役で、うだうだと愚痴っぽいところまで女じみていて見事に中味がからっぽだ。ピーターは三十歳でいまもかなりの美男子だが、顔にはうらぶれて老けた表情がある。二人とも麻薬で捕まったのだが、ただピーターは以前、殺人で裁判にかけられたことがある。彼の悔俊はみせかけだけのもののような印象がある。二人の情熱には、本心からのものであるにはあまりにも必要に迫られたような要素が多すぎる。あなたがこの世でただ一人の男で、私がやはりただ一人の存在であるのなら。さて、誰が愚痴をいったりするだろう?

私はしかしいわざるをえない。この種のことはそのものずばりでないほうが好ましいようだと――たとえばジュネの場合のように。私のりベラルさは本物のそれを前にするとたじろいでしまうのだ。

この場合、私にはでぶだという利点がある。よほどの変わり者でもなければ誰もこんな肉体は求めないだろう。

以前、太った人のための「十五人の著名なでぶ」という霊感的な本を書こうと考えたことがある。ジョンソン博士だとかアルフレッド・ヒチコック、サリンジャー、トマス・アクィナス、メルヒオール、釈迦、ノーバー卜・ウィーナーといった顔ぶれだ。

今夜はベッドのきしみは少ない。だが時おり、マフィアのいびきのあいまにドニイかピーターが吐息をもらす。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日