HHが遂に、エイミー・バスクがもうキャンプAに関係がない理由を説明。彼が解任したわけではなく、彼女のほうから逃げ出したのだ!
「私には理解できんよ」と彼は嘆いて、「なぜ彼女がそんなことをするのか! 実験に従事するのに選抜されたと聞いたとき、彼女は大喜びだった。ここでの給料はそれまでの倍だったし、おまけに生活費も全額支給されていたんだよ!」
私は、牢獄というものは看守にとっても囚人の場合とまったく同じように閉所恐怖症を招きかねないものだ、同じ鉄格子が双方を囲っているのだと、そう示唆しようとした。ハーストはどうしても納得しなかった。
「彼女は、そうしたければいつでもデンヴァーへ旅行できたのだよ。ところが一度もそれを望まなかった。仕事を愛していたのだ。 だからこそ、わけがわからんのだよ」
「きっと、あなたの思っていたほどには愛していなかったんでしょうね」
ハーストは呻いた。「安全保障が! ここを気密にしておくためにあらゆる手を尽してきたというのに、こんなことになるとは! 彼女が頭の中におさめている情報をどうするつもりなのかは神のみぞ知る。中国に売るだろうな――あいつらがパリジンのようなものをどうするか、わかるかね? 奴らはなにしろ無節操だ。何があろうと思いとどまったりはせんだろう」 「彼女をみつけようとは、もちろんしたんでしょう?」
「あらゆる手をおったよ。FBI。CIA。全州の警察に手配書がまわっている。そして主要な全都市の私立探偵社が彼女を追いかけているよ」
「彼女の写真を新聞やテレビに出せばいいでしょう」
ハーストの笑いはヒステリーの瀬戸際に迫った。
「失踪以来、まったく足どりは掴めないんですか?」
「さっぱりね! 三か月半の間一言の報せもない。おかげで、私はもう心配で眠れんのだよ。あの女が、このプロジェクト全体を台なしにしでしまえるだけの力を持っているのは、わかるかね?」
「そうですねえ、彼女がその力を行使するのを三か月半の間、慎しんでいたとすると、かなり見込みはありますよ、無期限に慎しみ続けそうにも思えますがね。かつてダモクレスにとって大いに慰めとなったに違いない考えですよ」
「誰だって?」
「ギリシャ人ですよ」
彼は、わけのわからぬギリシャ人のことなど持ち出した私に非難がましい一瞥を投げると、去ってしまった。この気苦労だらけの世の中で、ギリシャ人などに何の用があるというのかね?
気苦労だらけの世の中を支配するこの連中は、なんと傷つきやすいのか! 思い出すのは、初老のアイゼンハワーの仔犬のような顔、ジョンソンのペルソナの脆弱さ、そもそもそんな不出来なもの。
きょうの私はなんと奇妙な気分なのか。この調子だと、次はチャールズ国王にも情状酌量してしまいそう! ま、それもよろしいんじゃありません?