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26.

そして常に、逃れ難く、それはあの唯一の事実へと帰りつくのだ、死という事実に。ああ……時がかくも液体的なエレメントでなかったなら! そうすれば心が欄みかかって格闘し、追い詰めることになるかもしれない。そうなれば、天使もその永遠の相の中に自らを顕わさねばなるまい!

しかし、そうなればまた、そんなファウスト的局面の只中で、苦痛が擁頭してくるだろうから、私の唯一の望みは時間が加速してくれること。そして現状はといえば、右往左往、上へ下へ、熱から寒へ、そしてまたリバウンド。

ささやかな寓話をハーストのために大急ぎで仕上げてから、何日、何時間を閲したか、見当もつかない。いまなお診療所にいて、これを走り書きしているいまもなお大層加減悪し。



T. M. ディッシュ『キャンプ収容』 野口幸夫訳     平成18年7月16日